02-25 気づかれる

 物干し三人組の話で盛り上がった後は、のんびり世間話。

 気づけば、ナオが俺のベッドでちゃっかり昼寝していた。


 そんなナオを、ベッドに腰掛け幸せそうに見つめる弥生と巫女。


 こいつ等はどこの新婚さんだ。と突っ込みたくなった。

 いや、その気持ちはわかるぞ?

 なんせナオは天使だからな。



 そんなのんびりした時間を過ごしていると、誰かが階段を上がってくる音がして、俺の部屋のドアがノックと共に開けられた。


「三原君」


 話が終わった町長さんが、少し疲れた顔をして俺の部屋へと入ってきた。


 外で普通に会話をするときは水原。人具や、仕事の時には三原と使い分ける町長さんが、俺のことを『三原』と呼んだということは、あまりいい話ではないのだろうとすぐに分かった。


「気づかれた」

「……ですよね」


 その一言で、すぐに何があったのか分かった。

 半年気づかれなかったのが奇跡だとも思っている。


「何が気づかれたんですか?」


 突然の一言に、弥生も巫女も、町長さんの表情に不安を覚えたようだ。

 巫女がきゅっと、弥生にしがみつく。


「掃討部隊に俺の居場所がばれたんでしょ。町長さん」

「ああ。すまない。もう少し時間を稼ぎたかった所なんだが」


 謝る必要はない。

 町長さんが頑張ってくれたから、この半年はばれなかったのだから。


 町長さんは、三原凪という架空の人物が隣町に隠れて住んでいると情報を流し、俺の町への調査を抑えてくれていた。


 隣町に人具を納品することも、カモフラージュとしての一環だ。


 町長さんの倉庫は、人の出入りが激しい。

 ブランドと化した三原凪印の人具の購入者がほとんどで、人具も今ではかなりの人が持ち歩くようになった。――発動できるかは別問題だが。


 町にいなければ納品されないぐらいの量を定期的に提供することで、町中に三原凪がいると思わせ、隣町に掃討部隊の目を向けさせていた。


 意外と見抜かれなかったのは、俺が常に隣町で見られないように――目が怖かったから本当に必死だったので、祐成をフル稼働して納品していたからもあるが、町長さんの巧みな話術や行動力が半年も持たせたのは間違いない。


 たが、今回の拡神柱の再稼働は、俺も偉業だと感じるほどの出来事だ。

 この町に、それが行えそうな人材がいる。

 そう考えれば、人具さえ復活させた三原凪が、この町にいるということはすぐに分かってしまうことだとは、俺も予想はしていた。


 だから巫女。その不安そうに弥生にしがみつくのを止めろ。羨ましいだろ。


「大丈夫ですよ。どうせ、この町の拡神柱が再稼働したことに気づいて、この町に住んでるって気づいた程度です」

「その通りなんだが……」

「それに、この家はあいつ等には見えない」


 本当は、この家に辿り着くのはすぐだと思っていた。

 すぐに逃げるための準備はしていたし、皆で食事をしたのも、この家にしばらくは来れないだろうから記念に行ったことだ。


 だが、つい先程の『家が見えない』一件で、それも解消された。

 安心して隠れ住むことができる。

 それこそ、伝手に会えるまでは余裕だ。


「いや、それがだね」


 頭をかきながら町長さんは言いにくそうに、俺の言葉に返してくる。

 そんなに頭を掻くと、禿げるよ町長さん。


「夜月君と七巳君も危なくてね」

「……なんで?」


 くるっと、椅子を回して二人を見ると、弥生が抱きつく巫女の頭を撫でながら落ち着かせていた。


「二人が三原君に通じていることもばれた」

「あー……それは想定外ですね」

「……そこで。図々しい話だが、この家の機能を使わせてほしい」

「……え?」

「二人を暫く、匿って欲しい」


 ああ、なるほど。

 確かに、この人に見えない家を使えば二人を守れる。

 やっと俺とナオに出来た友達だ。

 家に住まわすことで二人を守れるなら、いくらでも匿ってやるさ。


「とは思ったものの」

「いやいやいや、三原君、何思ったのかはちゃんと声に出してくれるかな!?」

「いえ、全然構わないって話です」


 町長さんの言葉にそう返すと、巫女がほっと溜め息をついた。


 二人とも、かなり前に親をギアに殺されたと聞いている。

 二人だけで頑張って生きてきたらしいから、家とかで落ち着くこともなかっただろう。

 だから、今日だってこんなにはしゃいでいたのかもしれない。


 俺はまだ、家族がどこかにいると分かっているからいいが、二人は家族がいないから、かなり辛い思いをしてきたと思う。

 だから、この二人は、守ってやりたいと思った。

 二人が俺のことを知らなかったのは残念ではあったが、例え、俺のことを知らなくても、俺が二人のことを知っていればそれでいい。

 また、新しく関係を築いていけばいいだけだ。


「と、なると。伝手のほうに接触は早められそうですか?」

「ああ、何とかやってみる。事情を話せば何とかなると思う」

「? 伝手って?」

「ああ、ちょっと知り合いがいてな」


 俺の伝手。

 それは、とにかく大きい伝手だ。


「華名」


 俺も、まさかこんな所でこの名前を聞くことになるとは思ってもみなかった。

 夢の中でも忘れかけてた名前だし、小さい頃の記憶で思い出さなかったら完璧に忘れてた自信がある。


「華名って……あの四大財閥の?」


 四大財閥の一つ、華名家。

 そこの女性当主が、俺の伝手だ。


「まさか、君が華名家と知り合いとは思わなかったよ」


 華名 貴美子。


 それが、華名家当主の名前。


 つまりは、俺の義母さんであり、ナオの実母だ。

 そして、俺の家はあの財閥と深い関わりがあったことを、小さい頃の記憶で知っている。

 母さんの友達であり、小さい頃には面識もある。

 俺のことを知っているのは間違いない。


 あの人なら、俺を助けてくれる。

 あの人なら、碧の母親なのだから、碧のことを知っている。もしかしたら碧だってそこにいるかも。いや、いるはずだ。

 父さんや、母さんの行方だって、きっと……


「まあ、町長さんには申し訳ないけど、あちらのほうはすいませんが頼みます。こっちは、その準備が整うまでは何とか籠ってますので」

「ああ、すまないが、しばらく待ってくれ」

「お姉ちゃんと住めるのっ!?」

「わっ! ちょっとナオちゃん!?」


 がばっと、寝ていたはずのナオが、急に俺のベッドから身を乗り出して参加してきた。

 すかさず巫女に抱き着き歓喜の舞を踊る。巫女も慌ててその舞に釣られて、踊らされる。


 ナオが嬉しそうでよかった。

 ナオに、やっと母親に会わせることもできる。ただ、母親を覚えているのかは分からないが。


 俺が二人のよく分からない舞を笑いながら見ていると、弥生が俺の前に立った。


「しばらくは、迷惑じゃなければ、お願いできるかな?」


 弥生が少し困ったように、照れ臭そうにしながらも懇願するように見つめてきた。

 そんな姿を見て……



 ごごごごっと、門がまた、開きそうになった。




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