02-24 おもてなし


 自宅が見えないと一騒動があった後はすんなりだった。


 家に入ると、リビングでごろごろしながら巫女とテレビを見ているナオの頭にアイアンクロー。

「にぎゃぁあっ!」と心地よい声を叫ばせてからおもてなし。


 丁度昼が過ぎた辺りなので、食事を用意しようとした時に、ジャガイモが目に入った。そば粉とジャガイモで簡単に作れるガレットを作ってみよう。

 じゃがいものデンプンで焼き固める為、水にさらしすぎると固まりにくくなるので注意しながら、間にピザ用チーズを挟み、フライ返しで上から押し固めると、全体がまとまってきたら裏返して、たっぷり加えたオリーブオイルでカリッと揚げ焼きにする。

 皿の上に乗せた後隣にケチャップを添えれば、お好み焼きのような見た目のガレットの出来上がりだ。

 そば粉が少し余ったので、今度はそば粉で蕎麦でも作ってみるか。


「美味しそう」

「そりゃ、ナオを食べさすにもある程度料理はできないとな」


 途中、前菜等を手伝ってくれた巫女が出来上がり品を見て感想を伝えてくる。

 しかし、まさか、巫女が料理ができないことには驚いた。いや、驚いたのは料理ができないことにではなく、夢の中と同じくできなかったことに、だが。

 巫女といい、碧といい、俺の周りの年頃の女性はなぜに料理ができないのかと苦笑いが零れた。


 久しぶりのナオ以外との食事に、またこうやって皆と食事がしたいと思った。

 今度は碧や父さんも一緒だったら嬉しい。


 ある程度食事も進み、デザートに、バターキャラメルのクレープに、前準備をしておいた自作のバニラアイスを乗せてみんなの前に出すと、電話がかかってきて、一時町長さんがリビングから退出。


 巫女が溜め息をつきながら、俺の作ったデザートを一口食べて一言。


「凪君って……女子力高い……」


 それは美味しいという意味でよかったのだろうか。

 巫女の一言に思わず弥生を見てしまった。

 何で見たのかは自分でも分からない。分からないが、


「凪君って何でもできるんだね」


 そんな言葉とともに、世の中の女性が狂喜乱舞しそうな笑顔を、背景にきらきらとした何かを背負いながら言われて、妙に嬉しかったのは確かだ。


 ごごごごっと、自分の心の中にある門が開きそうになって、リトル凪が必死に門を閉めたのは内緒だ。


「お兄たん……危険」


 うん。ちゃんと門は閉まったからそんなジト目はやめてくださいナオさんや。


「安心しろ。ないから」

「ないって?」

「え、ちょっと待って。凪君、まさか……」


 巫女が感づき、頭痛がしたのか指で額をにじにじと押さえ始める。


「だからないと言ってるだろうにっ!」

「だから、なにがないのさ」

「お前が女っぽいから、俺にそう言う気があるんじゃないかって話だ」

「う、うぇぇ!?」


 勘弁してくれ。

 門がまた開きそうになる。

 だから、驚いた後にちょっと頬を赤らめて俯くのはやめろっ。


「お姉ちゃん、大丈夫。お兄たん、ちゃんと女の子好きだから」

「凪君、好きな子いるのっ!? 誰!?」

「実はナオ以外にももう一人――」


 恋バナに話を咲かせ始める二人。

 なぜ、そこで驚くのか。

 そして、弥生も、なぜそこでほっとしながら俺からすすっと離れたのか。


 気づくと、二人の会話がひそひそと、聞こえない程度の声になっており、巫女からぶつぶつと呪文が聞こえ始めた。

 俺と弥生を見て、小さく、「アリね」という言葉が聞こえる。

 何がアリなのかじっくり聞くのも怖い。


「お姉ちゃん、多分――」

「ええ、それも――」

「でも、リバーシブル――」

「そこに町長さん――」

「それは狙いすぎ――」

「「――でも、アリ」」



 何がだっ!


 そんな巫女とナオのこそこそっとした話に、弥生と二人で青ざめながら笑うしかない。


 ジト目で俺を見ていたナオに、「きゃぁーっ」っと感極まって巫女が抱きつくと、ジト目がたゆんたゆんで埋もれた。

 タップタップと必死に巫女の腕を叩くナオを見て、ナオに友達ができて本当によかったなと思った。


 その二人の話は、まあ……聞かなかったことにしよう。


 町長さんがなかなか戻ってこないので色々話をしていると、やはり気心知れる仲間との会話は楽しいと思った。


 弥生がどうやって人具を作っているのかみたいと言い出したので、二人で二階へ行くことに。

 俺達をちらちらと見てそわそわしている巫女もついでにとなり、呆れたナオも一緒についてくる。


 結局四人で二階へと。


 二階に上がると、まずは客間の部屋を案内した。

 二人は広い部屋を見て驚いていた。


 当たり前だ。


 家中の神鉱をそこに詰め込んでいるのだから、そこに足の踏み場はない。

 16畳ほどの部屋にぎっしり詰まった、

 石。石。石。

 どれだけ石コレクターなのかと。


 流石に引くわ。


「これが神鉱って言って、人具の元だ」

「これが……奇跡の石……」


 弥生が神鉱を手に持ちながら、聞き慣れない壮大な単語を発したが、まあ、無視だ。


「凪君の祐成もこれで作ってるの?」


 巫女も珍しいのか、小さめの神鉱を髪の毛に当てて、部屋の中にある姿見で自分に似合うか試している。

 そういや、これでアクセサリーとか作ったら、俺のピアスと同じことが出来るようになるだろうか。

 今度、試してみよう。


「あー……えっとな。具体的に言うと、祐成は人具じゃない」

「人具じゃない?」

「祐成は神具だ。ちなみに、俺も祐成以外に神具を見たことないし、祐成以外に作れるかと言われたらちょっと難しい」

「神……具……?」


 ぽかんと、二人が口を開けて呆けた。


「「神具!?」」


 二人が同時に驚きの声をあげた。

 なんだお前ら、仲いいな。


「待って待って! 祐成って神具なの!?」

「いや、だから今そう――」

「神具って、失われた秘宝って言われてる、ギアを殲滅する為の最終兵器でしょっ!?」


 いや、知らんが。

 なんだそのゲームにありそうな名称は。


「巫女、そこじゃないよっ! いや、そこもだけどもっ!」


 巫女を手で制してから、かなり真剣な表情を浮かべて弥生が俺をじっと見る。

 あらやだ。惚れちゃいそう。


「今、凪君は、祐成を作ったって」

「ああ。小さい頃にな」

「……神具を作れるってことだよね?」

「どうやったら作れるのは忘れたが、まあ、作れたんだろうな」


 俺の言葉に、弥生が少し考える仕草をした。巫女も同じように、弥生が言ったことを考え始めている。


「それって。作り方思い出したら、世界の情勢、変わるよ?」

「何を大袈裟な」

「大袈裟じゃなくて、本当だよ。凪君って自分で気づいてないけど、凄いんだよ?」


 呆れたようにそう告げてきた弥生に、俺も祐成を使っているときの自分がどうだったか思い出す。


 まずは、扉を壊したナオが逃げようとしたから祐成を起動して後ろから鷲掴み。

 隣町に向かうときの移動手段として使用。

 続いて、全裸になったから自分の家に向かうために起動。


 ……あれ? 最近、祐成をしょうもないことでしか使ってない気がする……。


 仮にも神具を、こんな適当なことで使ってよかったのかと不安になって祐成を見つめる。

 祐成はきらっと光り「気にするな」と言ってくれた。

 ……ただ、光が反射しただけだが。


「……ああ、だから凪君は祐成を使っている時はあんなに凄いのか。……だったらやっぱり、凪君と同じことができるとしたら、そんな人が一気に現れだしたら。ギアに怯えることもなくなるよ」


「凪君だから今更もう驚かないけど」と、そんな世界規模な話をしながら、一人で納得する弥生に続いて、巫女が簡潔に俺のことを指差して一言。


「チートね」


 ……え。俺ってチートなの?




 そんなチート疑惑が浮上したところで次は人具の製作行程へ。


 俺の部屋に入る時に、「あ、そう言えば。弥生以外の男の人の部屋に入るの初めてかも」とか、巫女がぼそっと言うからどきっとした。


 なんだお前ら。二人揃って俺をトキメかせて……俺をどうしたいんだ。


 部屋に入って、人具を実際作って見せると、酷く簡単に作られた人具を見て、二人が唖然とする。

 ただ、先に拡神柱の修復作業を見ているので、ダメージは少なかったようだ。


 そこで、今をときめく三人組がかっこよく持った人具が、実は物干し竿だと伝えたら大爆笑してくれた。


 よかった。

 これで俺以外にも、ポスターを見たら笑いが止まらなくなる同志ができた。


 二人と笑いながら、時間は過ぎていく。


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