02-19 守った結果
涙が落ち着いたたゆんたゆんが俺の元へ近づいてきてお礼を言ってきた。
いやいや、むしろこちらがお礼を言いたいくらいだ。と、心の中でたゆんたゆんを拝んでおく。
悟られないよう、笑顔は必須だ。
その横で弥生も「この槍返すね」とか言い始めたので、「やるよ。友好の証と思ってくれ」と言葉を返すと、すごい喜ばれた。
そもそも、その槍、俺の最高傑作なんだからな。持つと猛将みたいな気分を味わえて結構気に入ってたんだからな。大事にしないと泣くぞ。
恨みがましく槍を見つめる。
「なあ、水原君。その……あの槍一本、私ももらっていいのかな?」
「え? いいんじゃないですか?」
「本当にいいのかい!?」
「いえ、だって。町の長が人具持ってないとか、おかしいでしょ」
町長さんがそんなこと言うから、弥生も気にしちゃって、「あ、これやっぱり返したほうが……だって、なんか妙に他のと比べてかっこいいし」とか言い始めて槍を返そうとするから困る。
「ほら、こんな感じになるんであの槍もらっちゃってください」
「う……ううむ……ありがとう」
まだ納得のいっていない町長さんが、弥生の槍をじっと見ながら、「言われてみれば……あの槍貧相だな」と呟きながら考えている。
「町長さん……なんだったら同じような槍作りますよ?」
「本当かい!?」
「あはは……」
そんな苦笑いする弥生に巫女がすすすっと近づいて耳打ちする。
「弥生、儲けものだったね」
「うん。これで巫女のこと守れるよ。守らせてくれるかな?」
「ふぁっ!?」
まさかそんな返しが来ると思ってなかったのか、面白い程おかしな声を出す巫女を三人の男たちが笑う。
町長さんなんて、「若いねぇ」と言いながらほろりと涙をこぼしているくらいだ。
そんなやり取りを四人でしながら、
勝利を噛みしめながら、笑いながらバリケードへと歩いていく。
「ひっ……」
怯えるような声が聞こえた。
何に怯えているのかと自分の背後を見たが、ギアが動く様子もない。
疑問を感じながら、バリケードの先を見た。
「ば、化け物……」
「来るな……来るなっ」
俺、だ。
俺を見て恐怖に歪む顔。
俺から逃げようとする者。
俺を嫌悪するかのように見つめる者。
そんな多数の瞳が俺を見ていた。
「あ……」
ああ……そっか。
思わずバリケードへと歩いていた足は止まり、一歩、後ろへと下がる。
なぜか、見ていられなくなってバリケードへ背中を向けた。
下を向くと、今は力を開放していない佑成が映る。
他から見たら、俺も同じに見えるんだ。
だからこの町に着いた時に疑われ襲われ、保護されてからも腫れ物に触れるように接されていた。
会話をしてそう感じるならまだいいかもしれない。
ただ、俺の場合は、遠くからただそう見つめてくるだけ。
人具さえみたことがなければ、ギアが倒されるところだってみたことがない。
あれほどまでに自分達が必死になっても倒せなかったギアを、傍からみたら簡単に倒せる俺が、怖いんだ。
そりゃそうだよ……その力が自分に向けられたらどうなるか。
俺だって怖い。
助けられた。助けられたのはよかった。
だけど――
町長さん。やっぱり、町長さんみたいに考えられる人って少ないんだよ……。
そう、感じた時に、俺の中で何かがぱきんっと、壊れたように感じた。
町長さんが背後から肩に手を置いて俺に話しかけているようだ。
弥生や巫女も声をかけてくれているようだ。
ただ、そんな三人の声も俺の耳にはなぜか聞こえない。
俺は、どんな顔をしていたのだろうか。
涙が、止まらない。
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