夢の終わり

01-12 それが夢であれば 1


 月日。と言うものは、早く過ぎていく。

 一年の間。いろんなことがあった。特に嬉しかったのは、俺に妹ができたことだ。

 いや……まあ、碧と一緒のベッドで寝たりとか、バレンタインにキスされたとか、クリスマスに刺されたとか、そんないろんなことも嬉しかったり痛かったりもしたが、それは純粋に嬉しい以外もあるわけで。

 なので、特に嬉しかったのは直が生まれたことなのは間違いない。


 直はとにかく可愛い。今では本当に目にいれても痛くないんじゃなかろうかとか、もし、直が俺の知らない男を連れてきて結婚しますとか言ってきた日にはそいつを父親でもないのに完膚なきまでに潰してやろうかと思うほどだ。

 前にそんな話で父さんと盛り上がったことがあるが、義母さんと碧に今まで以上な説教をもらったことがあった。

 直と同じ女性として、俺たちの溺愛ぶりに思うことがあったのであろう。


 でも、だ。

 そこは父さんと反論に反論を重ね、いかに直が可愛いかを力説し、いかに俺達が直を大事にしているかを真っ向勝負で立ち向かったのも今ではいい思い出だ。

 あのときほど父さんを心強く思ったことはない。






 ……結果は女性陣の圧勝だったが。





 気づけば、高校入学試験も終わり、卒業式も終わっていた。

 あっという間。……そう感じたのは俺だけだったのだろうか。


 もうすぐ俺は高校生になる。


 また学生生活を続けるのもそうだが、知り合いのいない新しい環境に慣れることができるかも心配でもある。


 俺は、全国でも一、二を争う高校へと、先生達から推薦してもらったおかげで行くことになった。


 元々父さんも義母さんも俺のことは心配していなかったらしい。

 珍しく家に来訪した義母さんの知り合いに「命さんの息子なんだからそう言うのとは無縁でしょ」と一緒に納得するようにうんうんと頷かれたときは俺の実の母親はいったい何者なのかと思った。

 父さんは、まあ、為せば為るとか自分の道を猪突猛進する人だからまったく興味がなかったようだけど。


 学校の意見に任せます。三者懇談ではそんな感じだったのは覚えている。

 ……かなり前の話ではあるが。


 高校は、今住んでいる県とは違う県にあるため、必然的に一人暮らしをすることになる。

 寮もあったのだが、それよりも一人で住むことに少し興味もあった。

 一人暮らしに興味があったというのも確かだが、俺の心の平穏の為にも一人暮らしを是非したかった。

 碧のことが好きと気づいてから、いつかそういう関係になれたらいいと思ってしまっている自分がいて、義理の妹に手を出すことが倫理的にどうかと思うので離れて暮らしたかった。というのが本音だ。

 なので、一人暮らしすることを二人に提案した。


 碧は、俺の行く高校と同じ県の女子校に推薦され、俺と同じく一人暮らしをすることになる。


「お兄ちゃんが一人で暮らせるか心配だよぅ。ね、お兄ちゃん、朝ちゃんと起きれる? ボクが起こさなくてもちゃんと起きれる?」


 と、俺のことを心配していたが、俺に言わせれば、碧が一人で暮らせるか心配だ。

 そう言うと、碧は頬を膨らまして怒ったが、どうせなら二人一緒に暮らせればよかったなと、何気なく思った。


 思っただけなんだが……


「ね、お兄ちゃん。毎朝起こしに行ってあげるね」

「本音は?」

「お兄ちゃんがご飯とかお弁当とか作ってくれるのかなぁって」

「あら、それいいわね。じゃあ二人暮らししちゃいなさい」


 という義母さんの一言で、二人暮らしが決定した。


 ……すいません。

 襲わない自信がありません……。


 二人暮らし 始めて3秒 盛んなお年頃。




 父さんが二人暮らしをするとなると会うのが難しくなるので思い出にと、高校入学のお祝いも兼ねて家族で旅行に行こうと言い出した。


「凪、お父さんと会えなくなるのが寂しいだろ」

「あぁ?」


 何で俺が父さんと会えなくなるのが寂しいと言われなきゃいけないのか。

 むしろ義母さんの世話がない時に俺が世話してるのだから、それから介抱されるのであれば嬉しくてしょうがない。

 ……別に会えなくなるわけじゃないんだし。


「そうだろうそうだろう。今までお父さんがいなかったことなかったからな。寂しいのはわかる。うん。さあ、甘えてこい!」

「いや、今まで普通に朝帰りとか一週間会社で完徹とか当たり前にあっただろ」

「それはそれ」

「ほんとに胸に飛び込んでやろうか」

「父さんな、実は最近、直がいやいやするから母性に満ち溢れてる」

「……碧、行け」

「え」

「……ちょっと今のお父さんに飛び込むと犯罪を考えちゃうわね。通報しちゃおうかしら」

 結局、色々あって飛び込んだのは「我慢なさい」ってことで義母さんだった。


 子供たちの前でいちゃいちゃするのは仲のいい親ということで理解もできるし我慢はできるのだが、さすがにそういう雰囲気になると困る。


 碧と二人して「うわぁ」と思いながらそそくさと自分たちの部屋に戻らざるを得なかった。

 さすがにお互いの顔を見ることもできず。

 二人目……と頭を過ってたので碧の顔を見るとちょっと我慢ができなくなっていたかもしれない。



 そんな家族旅行の計画ではあったが、どこに行くかを決めることになり、義母さんと碧があーだこーだと言っている間、俺と父さんはコーヒー片手に直を可愛がっていた。

 三泊四日の離島への温泉旅行に決まるまでにそれなりの時間を要し、そして、なぜか怒られた。

 そりゃ、家族旅行に行くって言ってるのに参加してこなかったら怒られもします。


 でも、その間邪魔させないように直を見ていたところだけは評価してほしい。



 義母さんも碧も乗り気だったが、俺はそんなに乗り気にはなれなかった。


 嫌なことが起きそう。


 そんな気分が、旅行日に近づくにつれてどんどんと高まっていった。


 なにも起きなければいいが……

 そう考えながら、俺はゆっくりと目を閉じた。





 虫の知らせというものだったのだろうか。

 今となってはそう思ってもすでに起きたことだから意味がない。

 なぜこの時やめなかったのか、嫌われてでも不思議がられてでも、俺は止めるべきだったのではないだろうか。


 もし、IFの世界があるのであれば、この時必死に駄々をこねて止めた自分の世界もあったのだろうか。

 そうであれば、その世界はこの後も幸せに暮らせていただろうか。


 もし、IFの世界があれば……。

 せめて、その世界の俺は、幸せになってほしい。



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