第9話 脱獄作戦

 蛇愚地山羊人(じゃぐちやぎと)はすっかり殺る気になっていた。

「ここから出れたらアイツは絶対殺す」

「だが、アインカイツは中央都市で六十八人衆の内の一人に選ばれるほどの妖師。あの男に勝つのは容易い事ではないぞ」

 森さんはヤギトの知らない事を一度に二つも言った。

「あぁ?六十人乗っても大丈夫な物置の中心がなんだって」

「あぁ、中央都市というのはだな、隣の村を統治してる「海の星連合」の中央にある都市だ」

「つまり都会だな」

「そうだ。アインカイツは都会から派遣されて来た偉い役人って訳だ」

「ますます気に食わんな」

「そっすね」

 オカキは二人の会話についていけず、今日の出来事を壁に描いていた。

 なおこの壁画は後世の研究者の解釈を大いに悩ませ、裸の男達が良く分からない宗教的儀式を行っている絵、として結論づけられるのだった。


「まず、ここ出るぞ。炎を出してくれ」

 ヤギトが発見したのは、食事とかを入れる用の扉が木で出来ていること。

「ここを焼き斬ろう」

「駄目だ、これはシバックス杉で出来ているな」

「だったらどうだ」

「非常に耐火性に優れた材質だ」

 シバックスの金持ちの家とかにも使われているほどだ。


「すまない、俺の妖術の火力じゃとても駄目だ」

「まずお前らどうやって炎とか出してるんだよ」

「それ俺も気になるっす」

 アインカイツの妖術を目の当たりにしてなお、二人は妖術というものが信じられない。

「まあ、あれだ。妖素を込めてあとはひたすら念じるんだ」

「ホノオホノオホノオオレオホノオ」

「ホノオホノオホノオホノオホノオ」

 ヤギトとオカキは試しに念じたり唱えたりしてみたが何も起きない。

「妖術は才能も大事だぞ」

 それを先に言うべきだった。


「なんとかしてこの木を破壊出来ないのか」

 とヤギトが頭を抱えていたその時。

「キツツツ」

「お前はキツツキ」

 キツツキも捕まっていたが、体が小さかったので牢から抜け出せたようだ。

「お前ならやれる気がする、なあ頼む」

「キツツツツ」

 キツツキは脚に持っていた鍵を格子の隙間から投げ入れた。看守室から盗んで来たのだ。


 キツツキってすごいよね。

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