第8話 監獄は辛口

 蛇愚地山羊人(じゃぐちやぎと)は人生二度目の投獄を経験した。

 隣の村襲撃犯として民兵に逮捕されたのだ。


 牢はヤギトとオカキと森さんの三人部屋。三人はひどく疲れていたので、とりあえず臭い布団で半日ほど眠った。

「さあこれから俺達はどうなんのかねぇ」

 ヤギトは牢の天井を眺めながら言った。

「どうって、それはおそらく奴隷だろうな」

 森さんが答えた。

「そう言えば隣の村の人ってよくゾルフバーグ村の人を捕まえに来るっすよね」

 オカキもかつてはもう少しで捕まる所だった。

「ああ、今一番熱いスポーツだ」


「だいたいさぁ、お前らの村ってなんでそんなに仲悪いんだよ」

「そう言えばなんでだろ」

 オカキの知らない事を知っているのはだいたい森さんだ。

「それはあれだ、俺達の村はそれぞれ別の国の傘下に入ったからな」

「へぁぇ」

 オカキは理解していない。

「頭使うと腹減るよな」

「そっすね」


 時刻はちょうど夕食時、牢の格子の隙間を縫ってなにやらいい匂いが。

「おおっこの匂いは」

「やあ」

 牢の格子の向こうに立っていたのはカレーを持った全裸のアインカイツだ。

「お前捕まったんじゃ」

「誤解を解くのにずいぶんと時間がかかったぞ」

 もう夜である。

「それはさておき、お前ら腹減っただろう今食わしてやる」

 そう言ってアインカイツは食事を入れる用の小さな扉から、カレーの入った皿を入れてくる。そして、アインカイツの手にもカレー皿。

「これは数百年も昔、月の妖女と呼ばれる伝説の妖師が完成させたレシピのカレーだ」

 まずはアインカイツが一口食べる。

「流石にうまいなぁ。だがお前らの皿にあるのは別のカレーだ。なんとそれにはジャガイモが入ってないのだよ」

「なんだってぇぇぇ」

 ジャガイモが入っていないのでカレーが水っぽくなってしまっている。

「なんて事だぁ、これが人間のやることかよ」

「ジャガイモが入って初めてカレーなのでは」

「ヒヒッヒ」

 絶望する三人を見てアインカイツは満足げだ。

「フフフ、これが私を怒らせた恐ろしさよ。ちなみにスプーンは無いから手で食え、ナンはおかわり自由だぞ」


 三人は泣きながらジャガイモの入ってない水っぽいカレーを手で食べた。

 アインカイツへの復讐を誓いながら。

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