第4話 裏切りの照り焼きチキン

 蛇愚地山羊人(じゃぐちやぎと)は長老の話をろくに聞いていなかった。

「そこでわしが光るシュベルベソードを掲げてこう言ったのさ」

「ほう、それはすげぇな」

 ヤギトが退屈しているのを察したオカキは

「そう言えばヤギトの兄貴はどこから来たんすか」

「えっ俺っ、(神戸市)灘区だけど」

「なんとナダク!!」

 ヤギト兄貴歓迎会の会場が一瞬にして氷ついてしまった。

「なんという事だ。ナダクの街は既に魔人族の手に…………」

 オカキは思った、こんなに動揺している長老を見たのは長老夫人がペットの犬に「羅生門」って名付けた時以来だと。


「魔人族って妖師ってやつか」

「魔人族は人種で妖師は職業ですな」

「ああ、サ○ヤ人でニートみたいな」

「よく分からんがそんな感じですじゃ」

 長老は若者のマンガの話とかよく分からなかったので、適当に相槌を打った。

「それはそうと魔人族がいる限りナダクには戻れないだろう。しばらくこの村でゆっくりしていきなされ」


 ヤギト兄貴歓迎会も終わり、オカキの家に向かおうとしたのだが。

「なんかこっちからいい匂いしねぇか」

 匂いの元は村のはずれにある少し大きな建物だ。

「あれは村の祭殿っすね。長老はいつも近づいてはいけないって」

「なんでよ」

「なんでも神様の敷地だからって話らしいですぜ」

 だが、ヤギトは宗教とかに興味ないタイプだった。

「じゃあ俺ちょっと中見てみるわ」

 これには馬鹿なオカキも焦った。

「今駄目って言ったじゃないすか」

「じゃあお前帰れ」

「やっぱり俺も気になるっす」

「よしっ」


「オッス神様」

 ヤギトがここ一番の笑顔で扉を開けると中では

「あっ……」

「照り焼きチキン……」

 長老とその取り巻きがピザを食べていた。

「ちょっといいモン食べてんねぇそれ」

「これはその……誤解じゃ」

「長老、これはどういう事ですか」

 その場で一番ショックを受けていたのは多分オカキだった。

「わかった、お主達だけには話しておこう」

「おう」


「ちょうどこの村がブロッコリーしか生えなくなった頃だ。わしの家に宅配ピザのチラシが入るようになった」

「ほう、それはすげぇな」

「だがその宅配ピザ店は隣の村にあった。つまりこれはわしらの村のピザ命線を握った奴らの卑劣な罠だったんじゃ」

 その話を聞いたヤギトは落涙した。

「チクショウ、なんて卑劣な奴らだ」

 食べ物の恨みは恐ろしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る