彼女について その2

『報告書が出来た』と、俺が電話で連絡すると、

『親分』は、

『すぐ、そっちに行く』と答え、ものの30分もしないでやって来た。

俺が差し出した報告書を、ひっつかんで、目を皿のようにして、端から端まで、何度も読んだ。 

 無論、ウソを書くわけにはゆかない。

 それが俺の仕事だからだ。

 だから、あの男のことも隠さずに書いてある。

『親分』は、何度も何度も細い眼を皿のようにして読み返した。

 初めは肩に力が入って反り返り、ブルブル震えるのが分かったが、やがて、がくっと、まるで風船から空気が抜けるようにヘタヘタとなり、ソファの背に身体をもたせ掛け、報告書を傍らに置くと、上を向いて深く息を吐いた。

凡そ5分ほどの沈黙が流れた。

『探偵さん、コーヒーを淹れてくれ・・・・いや、水でも構わん』

 俺は黙ってキッチンに下がると、コーヒーを淹れて戻り、彼の前のテーブルに置いた。

『・・・・砂糖とミルクは入ってません。悪しからず』

 俺がそういうと、『親分』は黙ってカップを取り、一口すすってから、また頭を上にあげ、大きくため息をついた。

『ウソじゃねぇんだろうな・・・・』低い声でやっと言葉を発する。

『俺は探偵です。自分の職業には忠実ですよ。ウソやごまかしは絶対にありません。見たままを記しただけです』

『・・・・俺はな。生まれてこの方、女に惚れたことは殆どなかったんだ。』彼はまたコーヒーを飲んで、言葉を吐き出した。相変わらず低い声だった。

『前にも言ったが、勿論愛人はいた。だが、それはあくまでも「それっきり」の関係に近いもんでしかなかった。それが堅気になって、その矢先だぜ。自分の娘、いや、孫ほど年の離れた女にほれちまったんだからな・・・・』

『ま、分かってたことだけどよ。あんないい子に彼氏の一人くらいいたって不思議じゃねぇもんな』

『親分』はそういってコーヒーを飲み干し、お代わりを要求した。

また5分ほど、沈黙が流れた。

『相手の男の事も、調べてくれたんだろうな?』

『そこまではまだです。調べるんですか?でも、どうするんです?調べて』

『俺が相手の男に決闘でも申し込むってか?』

『親分』は苦笑しながら、

『・・・・まあ、若ぇ時ならやったかもな。でももうこんなじじいだぜ?そこまでするつもりはねぇよ。ただ、惚れちまった女だからな。気になることをほったらかしにしとくってのは、後生が悪いや』

『いいでしょう。その代わり・・・・』

『心配しなさんな。払うものはちゃんと払うからよ』

『親分』は、二杯目のコーヒーを一気に飲み干した。











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