2-6「あくま的行動」
──どうやら咲菜が一人でパン屋を経営しているのには、込み入った事情があるらしい。
「……うわ」
スマホで"カミセベーカリー"と検索したらすぐに引っ掛かった口コミ情報サイトに記入されているあからさまな悪口の数々に幽也は気分を悪くして一度深呼吸した。
『生焼け』『不味い』『焦げてる』『汚い』『店員は可愛いけど、パンは最悪』『これを食べるくらいなら乾パンの方がいい』……etc……
「…………見ても気分いいものじゃないね……はぁ」
だが幽也はもう一度目をそのサイトの書き込みに向ける。なにか、問題を解決するためのヒントはないか。
悪質な書き込みに一々反応していたら精神に悪い。何とか受け流しながら見て──それは見つかった。
『前までは良かったのに一時期から食えたものじゃないパンが出るようになった』『一度閉店してから不味くなった』『今の店主は頑張ってると思うんだけど、今一』
──『店主が事故って閉店だって。もう二度とあの味食べられないんかなー? すっごく惜しいなぁ(TДT)』
「…………やっぱり、本人に聞くべきだよね」
幽也は最後に1つの書き込みを確認して、そのページから離れ顔を上げる。すると目の前に
「ねぇ、話があるんだけど。付いてきてよ」
「え──」
「ゆーうやー! …………あれ? 幽也は?」
「さっき裕美と一緒にどっか行ったよ」
「えっ」
──楠木裕美。幽也にとっては単なるクラスメイトというだけの彼女に呼び出され、校舎裏まで連れ出された。
一応、瑠華と仲が良かった事だけは幽也は知っているがどうして呼び出されたかが分からない。
人気のない放課後の校舎裏。
「…………っ」
対面する裕美は顔を赤くして俯いている。唇を強く噛み、恥じらうように制服の裾を握り締めていた。
(もしかして、これは告白されるのか………!?)
幽也が置かれた状況を鑑みて、動揺する。
「なにヘラヘラしてんの……っ!!」
ガチ睨み。殺意の籠ったそれに、幽也は即座に浮わついた思考を切り捨てる。
「で、なんのようでございましょうか楠木さん」
「…………っ……ぁ……ぃょ……」
声が小さすぎて幽也には聞き取れなかった。先程の殺気を放つ裕美と、真っ赤になって恥じらう乙女のような裕美。結び付かないレベルの別人さである。
「え?」
「っ!! もう一度言わせる気!?」魂を抜かれたような幽也の声に一転怒りをあらわにする裕美。
──幽也は裕美を見ていない。それには裕美は気付いたがしかしその後ろの何かを見て驚いていたのだとまでは気付かなかった。
「ってかどこ見てんのよ!! 私が呼び出したのに、私を見もしないなんて!?」
怒りに任せて幽也に詰め寄る裕美。幽也は、裕美に一目だけやって抱き寄せるように彼女の背後へと位置をを入れ換える。
「何を──」「ごめん怒るのは分かるけどマジで待ってこれは不味いから!!」
次の瞬間に視界を覆うように幽也の左手が裕美の頭を掴むと──裕美の意識は途切れた。
「あーあーもうなんでこんなところにまで悪魔が来るかなぁもう……!!」
そうぼやいた幽也の視線の先に居るのは、
「ソレハ、オマエガレアティファクトヲ、フタツモッテルカラ、ダ!!!」
先日の悪魔だった。
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