2-5「本当は二人で帰りたかっただけだったのに」
──結局翌朝まで幽也は襲撃を受けることはなかった。
「おはよ、幽也」
「お、おはよう。朝霞さん……」
「むぅ、元気無さそうじゃない?」
つい朝早く登校してしまった幽也に、彼よりも先に教室にいた瑠華は小さく手を振って近寄った。
「いや、大丈夫だよ。ちょっと昨日のパン屋を思い出して……」
──結局宗一には帰宅後に放課後の一連の道筋を話した。その結果宗一が言ったのは要約すると1つ。
『パン屋、怪しくねぇか?』
それを聞いて幽也は「まさかぁ」とだけ返した。さすがに帰り道に襲われただけで疑うのは、早すぎる。
「──咲菜、頑張ってるんだけどね」
(それはまあ、わかる。あの年の女の子が一人で経営してるなんて信じられないし)
「その結果があんまりでてないから、結構焦ってるみたいで」
瑠華の目がは憂うように細められる。
(でも……一人で経営しているのが信じられないとかそういう問題じゃあなくって──)
「……幽也?」
「ん?」
「ぼけーっとしてるけどどうしたの? 幽也には咲菜のことで昨日手伝ってもらっちゃったし、幽也も悩み、あるなら聞くよ?」
「あー」幽也は首を横に振る。「悩みとかじゃなくて。カミセベーカリー、なんで上瀬さんだけで経営してるのかなって。いや、さ……狭城さん居たけど」
「……。うーん、それは今関係ないよ? うん。気にしなくて良いと思う」
怪しい。幽也は、瑠華が露骨に眼を逸らしたのでそう思った。
幽也は、彼女たちに〈破滅〉の黒い燐光を見ている。そして、瑠華と咲菜はとても仲良さそうだった。
彼女の破滅の未来があるのが分かる幽也にとって、その場で足踏みする理由がない──。
「えっと、じゃあ上瀬さんの親って今何してるの?」
「いや、気にしないで。大丈夫だったから」
僅かに語気を荒らし、眉をひそめる瑠華。そこに含まれるのは僅かな拒絶。幽也はそれに気付かずに踏み込む。
「相当店をやりたいって思ってなきゃあの年で一人でなんてやらないと思うけどだってお店の経営ってお金が掛かると思うし」
幽也は店を経営するということに関しては全く知識がないと言っても良い位に無知。でも、維持するだけでお金が大量に消えることくらいは分かる。
早口で幽也は言い切った。瑠華は平静を装っているつもりだったが、みる人が見れば不機嫌なことが分かってしまうくらいに顔に出ていた。
だが幽也は気付かない。なぜならここまでほとんど瑠華を直視できていないからである。
瑠華はむむむと唸りながら熟考。そして
「…………これは咲菜の問題だから。私が言うのは違うよ」
「手伝えって言ったのは朝霞さんじゃん」
「むう、あれは、えっと」瑠華が唐突に顔を赤くして視線をさまよわせた。
幽也はそれにも気付かない。
「俺は、手伝うならちゃんと手伝いたい。あの店が賑わうのも見てみたい。だから、えっと?」
あまり喋るのに慣れていない幽也はそこで言葉に詰まった。だから最後は勢いで誤魔化した。
「とにかく! そういうこと!」
「け、結構やる気あるんだね。あ……もしかして咲菜狙ってる? だめだめ、渡さないよ?」
「ち、違っ!?」
「……まぁ、手伝ってくれるのは有り難いからね、それは。これからもよろしく?」
瑠華が、幽也の手を取って強引に握手した。
「う、うん」
◆◇◆
「──逃がした、ねぇ。本気でやる気があるの? フクメン。あんた、というか……悪魔なんでしょ?」
「いかにも悪魔だが。ね。人間。契約者。分かるかい。分からないかも。如何に悪魔が君よりも。上位存在だと。でも。上手くいかないことなんて。あるのさ」
「消えたってそんな馬鹿な話があるとでも!? 相手はただの人間でしょ!?」
「馬鹿な話。そもそも。相手は既に訳知りの。ファクター。しかもレアティファクトを。二つ保持している。それが一筋縄で。殺せるとでも?」
「…………っ、やってよ、悪魔でしょ?」
「仕方のない。契約者だ。母が。それほどに大事か」
「ったり前でしょーが!! ごちゃごちゃ言ってないで私の願いを叶えろっての!!」
「そうだ。な。だが。銀髪には気を付けろ」
「は?」
「じゃあ。な」
「なんなの、あの悪魔──……あ、お帰り真昼ちゃん。昼御飯なら裏に置いてあるからね」
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