1-30「さあ〈杖〉を振るえ」
「なぁ、ヤゴロシ、終わったぜ?」
万夜は、なんとか体育館の入り口に目を向けた。
「ほう、宗一か」
焼け焦げた体育館の入り口に立つ霧川宗一の姿を認め、ヤゴロシは動きを止めた。
万夜を殺す一手前の状態で、その手を止めた。
ヤゴロシは、杖を肩に担いで悠々と歩いてくる霧川宗一へと問い掛けた。
その余裕が、ヤゴロシの目には新鮮に見えたから。
「君の弟とは決着が着いた、というわけか」
「そォだ、けりを着けてきたぜ?」
悪人そのものの笑顔で宗一は首に掛けた何かの御守りを握り締めた。
そのまま宗一はヤゴロシの元まで歩み寄る。
ヤゴロシは宗一の様子を観察したが特に引っ掛かる事はなかった。
そして万夜へトドメを刺そうと手を引いた。
「ちっと待てや。ヤゴロシ。折角だ、俺にトドメを任せてくれねェか?」
宗一はヤゴロシへ悪巧みをする少年のような笑顔を向けて、その動きを制止させた。
「……ふむ。これだけ体を痛めつけられて、その反撃をせずに黙ってみていろ、と?」
「あァ。つか、ヤゴロシ、テメェ十分反撃なんざ済んでるだろォが」
ヤゴロシは失笑した。宗一が、口出しするのが想定外だったからだ。面白くない。
「十分済んでいる? 何を見てそれを言っている?」
「その姿だよ。無傷じゃねェか」
ヤゴロシの体の焦げ跡などはもう既に消え去っていた。悪魔の再生力はかなり高いのである。
宗一には、大したダメージを負ってないように見えるのだろう。
だがヤゴロシは攻撃を喰らって痛かったのだ。苦しめられたのだ。苛立ったのだ。その仕返しにトドメを刺すところまでするのは当然だ。
「だとしても、だ。事実は変わらん。トドメは譲らん」
答えはノーなのだ。それは変わらない。
トドメを譲ることを拒否するヤゴロシに、宗一は困った様子を隠すようにくるくると杖を回す。
「つか、何? この惨状はよォ、死にかけが1、2、3……腐るほど居るじゃねぇか。通報もされてるみたいだしよ、悠長にしている暇は、無いんじゃねェのか?」
「……何を焦っている?」
ヤゴロシは、宗一の様子を不審に思った。
宗一の焦りは、元々幽也によって引き起こされていたものだ。
けりが付いたならば、半死体が数個転がっていようが宗一は気にしないだろうとヤゴロシは思っていたからだ。
おかしい。
「焦るさ、こんなところに居りゃあよォ、俺としちゃあ、さっさと、」
ヤゴロシは宗一に構わずトドメを刺そうと、万夜の心臓に向けて貫手に力を込めた。
「仕事やるだけやってさっさと上がらせろや」
ヤゴロシの動きを見るや否や、宗一は杖を万夜の背中から突き込んだ。
ヤゴロシが、トドメを奪い去ろうとした宗一に目を疑った。貫手を放つのも忘れて叫んだ。
「何をしているっ!!?」
許可も待たずに行動した。
ヤゴロシの想定外の行動だった。しかし、それだけでは収まらない。
万夜へ突き込まれたのは、レアティファクト〈杖〉の一部である。
宗一は、動揺しているヤゴロシと杖が胸まで突き抜けた万夜の姿を交互に見やり、ニヤリと笑って。
逃げ出した。
「んじゃ仕事は終わりだ! あとは任せたぜ迷子ちゃんよォ!!」
「何をしてくれたッ!! 契約者ぁ!!!」
「そんなのッ!! テメェが掴んでるヤツに聞きゃあいいだろォがッ!! ははッ!!」
そして万夜が──〈杖〉の魔術師が静かに目を開けた。
「〈
まさか、ここで助けられるなんて──。
「悪魔……死体蹴りは楽しかった?」
遂に〈杖〉の魔術師が、目を醒ました。
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