1-28「万夜対悪魔ヤゴロシ②」
幽也の部屋の窓だった場所から万夜は飛び出し爆弾を一つ取り出した。
爆弾の安全ピンを引き抜き、ヤゴロシ目掛けて渾身の力で投げつける。
「〈
ヤゴロシが魔術を呟くと、投擲された爆弾は勢いを喪失した。
爆弾は持っていた運動エネルギーを全て失い、重力に従い落下した。
そして、万夜の真下で大爆発した。
大きな爆発音を奏でながら周囲を爆風で抉り、爆風が宙に居た万夜を更に空へと吹き飛ばす。
ヤゴロシは吹き飛んだ万夜を尻目に道路の真ん中を駆け抜けていく。
「……ダメか」
吹き飛びながらも空中で体勢を整えて万夜は静かに着地した。
投擲物の運動エネルギーを消滅させ落下させる魔術を、幽也の部屋での戦いでは使わなかった。
発動が間に合わないのか、投げナイフごときに魔術を使うまでもないという事なのか──後者だと断じた万夜は完全に舐められていると感じて。
しかし、ヤゴロシにナイフで痛撃を与えられたのはヤゴロシが油断した結果ではなく出し惜しみをした結果の可能性もある。
発動した魔術を同時に幾つも操作できる悪魔はそう多くはない。
ほぼ無意識下で発動できるまで発動に慣れている魔術はともかく、名付けられるほどの魔術の処理は悪魔と言えど一つだけでもかなり重い。
それ故に同時に発動することに慣れていない限りはまともに起動しない。そもそも、悪魔が同時に魔術を使うような状況に追い込まれる事は殆ど無いのだが。
「さて」
万夜は〈風〉を抜刀した。
堂々と道路の真ん中を走っているヤゴロシを忌々しいと思いながら万夜は風を操って加速する。
──人が多い。
悪魔であるヤゴロシはともかくこの夏の六時という時間帯であり、加えて先程爆発を立て続けに幾つも発生させてしまったこともあって道行く人達が浮き足立っている。
とても騒がしい。
攻撃力の高い道具が爆発物しか無かったことをかなり万夜は後悔した。無理言ってでも静音性の高い武器を用意するべきだったのだ。
これだけ騒ぎになっているとその分警戒されてしまうだろう。〈隠〉を過信して、万一見つかってしまえば面倒なことになる。
「……ちっ」
万夜はその事実に頭痛を覚えた。
刀を鞘から軽く浮かすように仕舞う。鍔に取り付けられたレアティファクトは掴んでいれば使える。
背中に追い風を受けた万夜は軽やかな動きで近くの家の屋根に足場と呼べない出っ張りに足を掛けて飛び乗り、出来るだけ他人の視界を避けるようにしながらヤゴロシを追い掛ける。
元々万夜とヤゴロシの間にかなりの距離があった。屋根に飛び乗るまでに万夜は完全にヤゴロシを見失ってしまっていた。
「〈標〉」
──だが、問題ない。
片眼鏡に装着されたレアティファクト〈標〉。手を触れて強く念じれば石の先から光線が僅かに伸び、その先にヤゴロシが居ることを示してくれる。
「出来た、か」
万夜は屋根伝いにその方角に駆けていく。人目を避けつつショートカットだ。この方が道なりに追い掛けるよりも明らかに速い。
きっとヤゴロシは出来る限り大きな建物で万夜を迎え撃つだろうと確信していた。万夜は〈標〉が示した方角を大きく上へと跳躍して確認した。
開けた視界で見える限り、目立つ大きな建物は──高校だけだ。
因みにヤゴロシが大きな建物を目指していると万夜がアタリを付けたのは理由がある。
──屋内で魔術を使うのであれば広い方が戦いやすいだろうからだ。
万夜としては狭い場所でも一向に構わないが悪魔は逃げる事や隠れる事を自分から選ばない傾向があった。
悪魔は人間より上位種だと自認しており、そのような行動を好まないのだ。
「分かりやすくて……助かるね」
眼下を埋め尽くす住宅街を走りながら万夜は呟いた。別の方角には色々あったが、それでもあまり施設は多くない。
田舎で助かった。
ヤゴロシへ追い付くべく万夜は一層強く屋根を踏みしめ、風を纏って音もなく疾走する。
しかし、ヤゴロシは追ってくる万夜を邪魔しないわけがなかった。
突如として屋根瓦が飛び上がり、万夜に襲い掛かる。ヤゴロシが予め仕掛けていた魔術である。
だが、起動が万夜の速さに対して圧倒的に遅い。
万夜は浮かびかけの瓦礫の間を駆け抜け、或いは踏みつけて別の家の屋根に飛び移る踏み台にした。
幾つかあった飛び掛かるのが間に合いそうな瓦礫も、万夜が駆け抜けざまに手甲を叩きつけてすり抜ければ、弾かれ或いは砕けて勢いを失って落ちていく。
流石にヤゴロシも、殆ど人の域を脱したような速度で屋根の上を魔術が使えない、それも女性の万夜が走るとは想像はできなかったのだろう。
ヤゴロシが配置した数多の魔術は万夜に対して障害足り得ない。万夜はその上を発動する前に素通りしたのだ。
「見つけた」
あっという間に高校の前に辿り着くと、校舎の2階の窓から中を走るヤゴロシを万夜は見た。
手頃な家の屋根に飛び移った万夜は屋上の柵に向けて左手の鎖分銅をぶん投げる。
柵に絡み付いたのを引いて確かめ、跳躍。
鎖を手繰り、弧を描くような軌跡で万夜はヤゴロシの前方の窓を蹴破って校舎に突入した。
「なっ!?」
ヤゴロシの驚く声と共に何人かの悲鳴が聞こえる。
まだ完全下校時間ではない。何人も校舎には生徒が残っている。そんな時間に窓ガラスを割って突入する不審者が現れれば当然の反応だろう。
〈隠〉はあまり機能していないな、と万夜は人目を避けたことは間違っていなかったなと確信した。
──窓を蹴破って現れ注目を浴びたのがいけないのであって、〈隠〉が機能していない訳ではない。その差に意味はないが。
注目をされた万夜は動じない。
万夜は悪魔と対峙した時に一般人への配慮などという甘い考えは存在していないのだ。
「〈雷〉」
着地と同時に抜刀し、流れるような動きで驚愕に動きを止めたヤゴロシの右脇腹に突き刺す。
しかしその切っ先は既に刃が潰れてしまっていてヤゴロシの体表で弾かれる。
しかし切れ味は関係ない。攻撃力をレアティファクトに依存しているのだから。
「弾けろ」
〈雷〉が輝く。
極太の雷が刀から伸び、ヤゴロシの体で弾けた。轟音とともに吹き飛び、廊下の上を一直線に転がっていく。
「……く」
当たったというのに万夜は歯噛みした。
──本来の狙い通りであれば窓から叩き出していたのだ。ヤゴロシは雷を受ける寸前で身を捻って少しだけ受け流していたため、狙いと違う方へと逃がしてしまったのだ。
〈雷〉の刀はまだ武器としての体裁を保っていた。それだけ確認すると万夜は素早く納刀する。
殺気を振り撒きながらヤゴロシを追う万夜。
彼女を見た廊下にいた生徒が悲鳴をあげたりしながら蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていくのを尻目に二人は衝突する。
ヤゴロシは体を焼かれるような電撃に蝕まれ転がりながら、幾つかの仕込みのうちの1つの魔術を起動させる。
「〈隙間風〉ぇぇっ!」
突如万夜の視界に映る窓が急に震えだし、全てに不思議な紋様が浮かびあがる。
教室の窓も割れていない廊下の窓も全て同じ紋様が浮んだ──これは危険だ。
そう判断した万夜は自分が来た窓から見える垂れ下がった──未回収だった──鎖を掴み取って窓の外の壁を駆け上がった。
次の瞬間、窓が割れその一つ一つから小さな竜巻が現れた。
割れた窓ガラスを巻き込み、他の竜巻と接触することで竜巻は一つになる。
倍以上に膨れ上がり大きくなった竜巻が幾つも万夜へと迫ってきていた。
鎖を手繰りながら壁を駆け上がり、万夜は〈風〉を抜き放つと、後方へと刀の切っ先を向ける。
そしてレアティファクトの力を解き放った。
しかし竜巻を散らさんとするレアティファクトの風を寧ろ喰らって勢いを増大させていく。
故に万夜がレアティファクトで生み出したの有利は僅かな反動で体を浮かした事と一瞬だけ竜巻が足を止めた事だけだった。
だが、それで十分だ。
「よいっ、しょっっ!!」
万夜は思い切り鎖を持ち上げるように振り上げる。柵が歪み、鎖が離れた。
鎖の支えを失えば落ちるだけだ。万夜は足で校舎の外壁を捉える事で落下に抵抗するが、重力は万夜を逃がさない。
足で軽く重力に抵抗したが、万夜は頭から地面へと向かっていく。
しかし、万夜の口元は僅かに笑っていた。
万夜はもう一層力を込めて鎖を引き寄せる。
勢いを増して落ちてくる分銅を掴み、空中で身を翻すと全力で竜巻の中心へと投げ込み、更に狙いを外さないように〈風〉で導く。
分銅が竜巻の目を違わず撃ち抜いた。
だが、竜巻は散ること無く鎖分銅を呑み込んだ。
分銅はただの分銅。竜巻を散らす力など存在しなかったが──分銅に付いている鎖はただの鎖ではない。
竜巻の中心で大きな爆発が連鎖した。
竜巻の内部、様々な場所で爆発する風向きのぐちゃぐちゃな爆風は魔術で作られた竜巻の規則性を滅茶苦茶に乱した。
再度纏まることも出来ずに竜巻は散っていく。
爆風で僅かに吹き飛んだ万夜は学校の外壁の僅かな出っ張りに再度足を掛けて着地。そのちいさな足場を伝い元の窓まで駆け降りた。
「戻ってくるかっ!!」
ヤゴロシは一階へ降りる階段の踊り場に居た。そこに邪魔になる生徒は既に居ない。
万夜は悪魔の背中を視認するなり投げナイフをコートから二本、右足から二本抜き取り投げつけた。
ヤゴロシに当たらず、ナイフは全てその奥の壁に弾かれる。ヤゴロシは待つつもりはないようで、階段を駆け抜けていった。
地面に落ちたナイフを、万夜は階段の壁を蹴るように走りながら全て拾い上げ、それを両足に二本ずつセットした。
「〈隙間風〉」
「また後ろ……」
階段の窓が粉々になり、竜巻が背後から万夜へと迫る。万夜は二本の杭を背後を見ずに投げた。
万夜は、風を肌で感じたと同時に杭を爆発させた。
爆風を背に受けて、加速する。
小さい竜巻なら杭の爆発程度でも散るだろうという万夜の推測に違わず、竜巻は散った。
「〈獅子ノ爪〉」
階段を降り曲がり角を飛び出した万夜へと、待ち伏せしていたヤゴロシが右腕を振るう。
魔術の効果により肥大化した双腕。その爪も凶悪なものへと変貌を遂げている。
強度も大きく変化しているだろう。
「まず──っ」
まともに受けるのは不味いだろう一撃を前に──万夜は反応が遅れてしまった。
咄嗟に頭を庇うように両手を差し出した万夜の右腕の手甲をその爪が貫く。
手甲の中の仕掛けが破壊された事を察して万夜は憎々しげに歯噛みする。
だが、食い込んだ爪が手甲に引っ掛かりヤゴロシは即座に下がることが出来ない。
反撃の機に万夜が閃く。
「っっらぁ!!!!」
空いた片手で〈風〉を抜刀。レアティファクトを全力解放し、右肘狙いに振り抜く。
強烈な風を纏った全身全霊の一刀が、ヤゴロシの腕を肘から見事、切断。
「ご、〈
ヤゴロシは断たれた腕を振り回すように悲鳴を上げた。断面から吹き出した鮮血が、暴れたヤゴロシによって周り一面に撒き散らされる。
その血を出来る限り浴びないようにしながら、ヤゴロシの右肘から先の突き刺さった手甲を振り回して外したヤゴロシの腕を蹴り飛ばしてから、万夜は素早く離れた。
ヤゴロシは左手でその傷を抑えている。痛みに顔をひきつっているように見えて、その表情は喜悦だった。
万夜は〈風〉の刀を正眼に構え──その刀身の様子に目を見張る。
「刀が……」
〈風〉の刀身が急速に錆びてボロボロと落ちていた。その様子に動揺した万夜だが、判断は早かった。
目の前で朽ち果てていく刀は最早武器として使い物にならないが〈風〉は無事に使えると、刀から〈風〉を抜き取る。
刀身の方は乱雑に捨て、レアティファクトはコートのポケットへと投げる。
投げ捨てられた刀は錆となりボロボロに崩れた。
「……驚いたかな? これが、崩壊の名を冠する悪魔の血液だよ」
辺りに撒き散らされたヤゴロシの血液からも煙が上がり、床や壁に穴が広がっていた。
そしてコートにも血は掛かってしまっている。その血を中心としてボロボロと崩れ始めていたが、収納されているものには一切被害が出ていない。
「血を媒介にした魔術か。趣味の悪い」
「その通りだ。斬られてとても痛いのだが、その効果は凄まじい。何もかもを崩壊し朽ち果てさせるのだからな」
ヤゴロシの右腕が刺さっていた万夜の腕もボロボロに崩れだした。
刺さっているところを切ったのだから、血をたっぷり浴びているのも無理のない話である。
万夜は崩壊を確認してからすぐに朽ちかけのコートの内から一本のナイフを引き抜く。
右腕の崩壊の侵食は右肘の手前程度で止まっていたが、安心はできない──だからその腕を切り落とした。
〈崩壊〉はヤゴロシの血を発動の媒介として発動している。悪魔の血という物を利用する為にその効能はおぞましいほどに高い。
喪失したものにも及ぶだろうその効果。万夜の右腕の復活はしばらく望めない。
使い物にならないのなら切り落とした方が身軽になる。再び浸食されたりしても厄介だ。
「はぁ、なんとも躊躇いの無い自傷だね。気味が悪いよ」
ヤゴロシは吐き捨てるなり走り出した。
足下に魔術〈崩壊〉で生まれた濃い煙が広がっていて、足元の見通しが悪い上に足場も少し脆くなっていた。
しかし、そんなものはヤゴロシは当然として万夜の障害にもなりえない。
手に持ったナイフをヤゴロシ目掛けて投擲し、万夜は教室側の壁を勢いを付けて煙を飛び越すように走る。
ナイフはヤゴロシの背中に浅く刺さるが、たかだかナイフである。ヤゴロシは意に介さず走る。
一階の廊下。ここまで来れば万夜にもわかる────ヤゴロシが向かう先は体育館だ。
ヤゴロシは下手に血を撒き散らすのを止めていた──回復するつもりだった。
ヤゴロシは廊下に何人か疎らに居た生徒を器用にすり抜けていく。
万夜に対してなんの魔術も使ってこない。生徒を盾にヤゴロシは腕を魔術で再生させるつもりだった。
万夜はコートから抜き出したナイフを指に挟みながら、そのあとを追い掛ける。
「うわっ!?」「危なっ!!」「ちょっ!?」
やはり〈隠〉の力は万夜の存在を隠しきれていないようで思い切り生徒と万夜の目が合った。
廊下にいる生徒は数人しかいない。とはいえ、最短距離一直線に追い掛けたい万夜にとってはちょっと──いや、かなり邪魔な障害物だ。
流石の万夜も過剰に被害を与えていくつもりもない。上手くすり抜けられずにぶつかりながらも万夜は走り抜ける。
ヤゴロシから少し遅れて校舎を出た万夜は、ヤゴロシの背中に二つのナイフ同時投擲した。
かなり距離を離されてしまっていたが万夜の投擲技能をもってすれば大したことはない。
その刃はヤゴロシの両肩にしっかりと突き刺さる。
「とんだ強肩だな!」
「それはどうも」
ヤゴロシの速度が落ちることはなく、大して痛がる様子もなく刺さりっぱなしのナイフを無視して走る。
その先に体育館。万夜はコートからナイフを抜き出しつつに障害物の無い渡り廊下を疾駆する。
「そら、〈隙間風〉だ。存分に味わってくれ」
背後の校舎から窓ガラスの凄まじいまでの破砕音が連なって響き渡る。三階の窓のが軒並み割れたのだ。
渡り廊下の雨を防ぐためだけの申し訳程度の屋根を貫いて大穴を開けながら、万夜へと降り注いだ。
万夜は杭を二本抜き取ると一本だけ口に咥えた。そしてもう一本は何もない真っ正面に放り投げた。
不透明な屋根を突き破ってくる竜巻を、まるでどこに降って来るかを分かっているかのように万夜は進路を取る。
万夜は最高速度で最良の道を突き進む。
万夜の運動能力をヤゴロシは今更侮ることはない。化け物じみた察知能力にも今さら驚かない。
見切られてしまうのなら避けられないようにすればいい。ヤゴロシは竜巻を万夜の前方に壁のように隙間なく降り注ぐように仕組んでいた。
最高速度で到達する地点の前方に避けきれないほどの密度で竜巻が落ちてきた。
しかしヤゴロシは進行速度を確認して竜巻を仕組んだ後は万夜の場所にしか意識を向けていなかった。
──だから竜巻の落下地点に飛んでいるものを見落とした。
「甘い」
投げられていた杭が爆発した。
竜巻が爆風を相殺し生まれた隙間に、万夜は滑り込む。
投げられていた杭をヤゴロシは見落としていた。しかし、あまり驚きはしなかった。対処されるかもしれないとは、思っていたからだ。
それでも攻撃を敢行したのは、万夜がヤゴロシと違って無から有を生み出すような攻撃手段を持っていないからである。
消耗戦になればヤゴロシの方が圧倒的に有利なのであればダメ元でも攻撃する意味がある。
「……甘い? そうかもね。加減しているつもりだからね」
ヤゴロシの呟くような声を万夜は怪訝に思った。しかし、その言葉の真意を確かめる事は出来ず、再び竜巻の雨が降り注ぐ。
万夜は咥えていた杭を手に持ち替えて天井に投げ当てるとポケットに手を突っ込んだ。
「〈風〉」
レアティファクト〈風〉が産み出した風の矢を射出。天井に当てた杭の頭を的確に圧し、屋根に突き刺すと、そのまま杭が屋根と一緒に爆散。
そして万夜は爆発が止む前に爆発の真下へと潜り、滑るように駆け抜ける。
足を緩めないで通れるように計算ずくで行動する万夜を、ヤゴロシは振り返りながら笑って。
「凶悪な魔術は使ってないし、何よりギリギリ対処できるだろうってところを狙ってみている。だが、まあ思った以上に人間を辞めている動きをしているのは想像できなかったけども」
ヤゴロシは体育館の重い鉄扉を丁寧に開ける。体育館の中には生徒が多数残っていた。突然開いた扉に驚くところを見るに逃げ遅れたと言ったところだろうか。
「たまには、面白いだろうな」
何人も居る高校生を前に、ヤゴロシは体育館に立ち入りながら薄気味悪く微笑んだ。
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