愛犬の死
味のない食事を摂った後、今日は安静にとベリルから休むよう言われた。
自室に戻り、椅子に深く座る。
身を屈めて両手を思い切り握ると再びあの悲しさが溢れてしまう。
「……」
しん、としたこの部屋の中で再び誰がとウェッケンの仇をとろうと悪意を持った。
だがそれはすぐに自分で否定する
こんな敵意を持つことは間違っている。
もしかしたら悪いものを食べてしまったのかもしれない、
もしかしたら病気を抱えていてそれに自分は気付いてあげられなかったのかもしれない、
昨日は自分と共に寝ていれば……
それらの考えは悪いのは自分であると向けるものだった
痛い、どんどん時間が経つにつれて痛みが強くなる。
ずっと握りしめていた手は刺すような痛みを持っていた
だが解こうとはせずじっと他人事のような刺激を受けるままだった。
どれだけの時間が過ぎただろうか、しばらくしてからコンコン、と静かな部屋に音が響く。
「ヴァンザダ、大丈夫ですか?」
その声と共にベリルがドアを開ける。
「……」
大丈夫だ、と言いたいが言葉が出ない。
それほどに彼の死は自分にとって重い出来事だった
「!ヴァンザダ、その手をはやく見せてください。」
彼女は部屋に入ると自分の手を引っ張った
握っていた手をゆっくり広げると少し怒った顔をしている。
「……自分をあまり責めないでください」
自分の手は酷いものだったのか、眉間のシワは彼女から消えなかったが先程の怒りの表情から一転、とても優しい目をしていた。
「こちらに来てください、少し早いですが手を洗ってお茶にしましょう」
壁掛け時計の方に目を移すと9時を過ぎた頃だった。
たしかに早すぎる。先程朝食を取ったばかりだ。……少し残してしまったが。
ベリルはそのまま僕を立ち上がらせ、こちらですと誘導をする。
そのまま手を引かれて洗面台へと連れて行かれ、手を洗ったら食堂まで来てくださいと言ってここから去っていった。
蛇口を捻り、水に触れるとピリっとした痛みを手に受ける。
手のひらを見てみると爪の跡とそこから赤く滲む血が浮かんでいた。
改めて受けたショックの大きさを実感する
顔を上げると、生気のない自分がこちらを見ていた。
ひどい顔だと少し笑ってしまう
鏡に映る自分を見てこう思うのだからベリルはもっとひどく見えただろう。
この痛みに慣れた頃に水を止める。すぐ横に釣られているタオルで手の水分を取ると食堂の方へ向かうべく廊下に出た。
食堂には小さな机の上に小さな皿を並べているベリルが居た。
僕が来たことに気付いてこちらを向いた。
「すみません、もう少々そちらに座ってお待ちを」
火の前へと小走りで駆けていく。
カコンとフタを開ける音がした後、いつもの匂いがした。
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