記憶のない魔法使い

カラカラとる子

はじまり、始まり

ヴァンザダ……、早く食べないと冷めます……


「あぁ、」

呟いた言葉の次に口にしたのは少しぬるくなったトウモロコシのスープだった。


早く食べろと催促され、重たいスプーンを上下に動かした。


「……命には、いつか終わりがあるんです……」

ベリルがウェッケンの死についてここで初めて触れた。


分かっている、知っているつもりだった。

その時がいつか来ることは。

早すぎるこの現実はこんなにひどく苦しいものなのか。

今朝、ウェッケンが死んだ。



ーーーーーーーーーーー

清々しい朝だった。


日課である水汲みへと乾いた木製のバケツを持って外へ出た際に違和感があった。

それを確かめるために首を動かして周りを確認する。

目に入ったのは特に暑い時期でもないのに小屋の外に横たわっていた彼。

自身の持った恐怖の正体はそれだった。

名前を呼びながらゆっくりと近づくが普段のような反応は無く、その傍に腰とバケツを下ろして触れてみれば柔らかく暖かかった彼は固く、冷たくなっていた。

確かめるようにもう一度、頭からゆっくりと両手で全体をなぞるが傷のようなものは無い。綺麗なままの黒い毛はいつものようにサラサラとしており、手が尻尾まで行くとえも言われぬ喪失感が涙とともに溢れ出した。


老衰と言うにはまだ若かった、誰がやったんだと最初は怒りに震えた。

だが血なんて出ていない、臭いだってあの死肉のようなものでも無い。

息をしていないだけで寝ているようだった。


水汲みに行ったきりなかなか戻ってこない僕に痺れを切らしてか、ベリルが様子を見に来た。

「どうしたんです?ヴァンザダ、なにが……」

言葉はそこで止まった。

何かしらの異常を察したであろう彼女はしばらくして口を開いた「一旦、部屋に戻りましょう」

ウェッケンも連れて……。

そういったベリルは彼に触ってもいないのに気づいたようだ。

彼の亡骸を抱きしめながらこくりと頷き、立ち上がる。

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