第21話 今日其参

左肩にあいつの頭が

まだ乗っているような気がして

パプリカを刻む猫の手が

いつもよりぎこちない


ピラフとサラダと野菜たっぷりスープ

野菜をあるだけ使おうと

あいつが言った

明日はもう使わないだろうと


向かい合って十三時半の昼食

「瓜生、冷めてから飲むんだよ」

俺の猫舌はいつも気にされる

美味いものを早く口にしたいだけなんだ


片づけ終わって十四時五十分の

しゃべらないリビング

ソファで再び

傍でだんまり


「お前さ、引っ越しの準備は?」

言いたくなかった言葉を言わなければいけないほど

俺は追い詰められていた

「もう済んでる」

短く答えた きっとこいつも言いたくなかったんだろう


だけど他に

何か言えよ

言えない

何かしろよ

できない


些細なきっかけさえ喉から出ない

十六時二十分の俺

冷房が効き過ぎているような気がして

リモコンを取ろうと立ち上がる

前に出ようとした腕を掴まれる


腕を掴まれるのには慣れている

はずだった のに

なぜか心音が ドクン

なんだよと 振り 返る


「行かないで」

そういう事か

「温度変えようと思ったんだ。寒くないか?」

こういう事だ


「温度より僕を気にして」

そんな恥ずかしい言葉

どこで教わるんだよ

心音が ドクン

なんだよと 重なり 合える


十六時二十二分の肌


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