第12話 ない、話

電車を降り

学校に向かう道

なぜだか歩幅が合う

なんて思ってたら


あいつは昼休みも一緒にいたい

と言ってきた

断る理由を探してみたが

ない


つまるところ

屋上で一緒に弁当


俺はいつもお決まり

駅の売店で買う日替わり弁当

あいつは手作り弁当

母親が作ってくれてるらしい


弁当の半分がまだ残っている

晴れた空に貼られた

梅雨明けの太陽

あいつの箸が止まった


「瓜生、なんで弁当買ってるの?」

「お前みたいに母ちゃんと一緒に住んでねーんだよ」

「そう、なんだ」

「暗くなんなよ。ひとり暮らしで気楽だよ」

「えっ、ひとり?」

「隣にいるのにわからんとは」


俺は残りのご飯と

卵焼きと

鶏胸の照り焼きを

順に口に運ぶ


横に座っているあいつが

「ひとりなら」

前を見続けたまま

「ひとりなら」

俺は卵焼きを食ってる

「今日、そっちに帰るから」


希望とか要望とか切望とか

ではなく

決定事項

の連絡だった


断る理由を探してみたが

ない


俺の箸も止まった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る