切り裂く
「さーて、どうしようか? 羽汰」
アリアさんが僕に問いかける。僕はアリアさんの顔をちらりと見て、そして、少し吹き出すように笑った。
「とりあえず、助けましょうか!」
「……だな!」
僕らは地を蹴って、剣を横に薙ぐようにして切り裂く。黒く膜を張っていたような空気が、一気に開ける。そして、チカチカと一瞬目の前がフラッシュしたかと思えば、パンっと空気が弾け、光になって降り注いだ。
「……う、ウタ兄……なに、したんだ?」
ポロンくんが訊ねてくる。それに僕は笑顔を向け、頭を撫でた。
「あそこに結界がかかってたから、とりあえず解いてきた。これからディランさんを助けにいくよ。……あ、その前に」
僕はポロンくんに手をかざすと一言、「ケアル」と詠唱した。それを聞いたポロンくんは怯えた顔をしたあとに、驚いたような顔をして、僕を見た。
「な……なんで、回復魔法使えるんだ? だって回復魔法は、あいつらに吸収されて……!」
「え、使えなかったの?」
「だって、テラーもフローラも、回復魔法使ったら倒れて……」
少し考える。『自己防衛』の勇気が『生きたいと願う力』ならば、僕のこの『自己犠牲』の勇気は……もしかして……。
「……ポロンくん、お願いしていいかな?」
「うん! なんだよ、おいらなんでもやるぞ!」
「自分に回復魔法をかけちゃいけない。でも、他の人になら大丈夫。だから、僕を信じて、他の人を助けてあげてほしいんだ。フローラとか、スラちゃんとか、ドラくんとか、個性の塊'sのみんなとかね」
普通ならば『なんで?』とか言うものだと思う。しかし、ポロンくんはただうなずいて、駆け出した。
「まーったく、遅いよ? ウタくん」
「ジュノンさん……」
「チョコは大丈夫ー? 二人ともげんきー?」
「あぁ、大丈夫だ」
おさくさんがふと、アリアさんの髪に目をやる。そして、なにかを察したように「ははーん」と呟くと、突然、アリアさんの服を探り始めた。
「なっ、なんだおさく!?」
「……おっ、あったあった。これ、ちょっと貸してね?」
おさくさんが手に持っていたのは、アリアさんの髪飾り……だったものだ。いつの間にか、アリアさんは持ち帰ってきていたのだろう。
「あ、か、返してくれ!」
「大丈夫大丈夫、『一時的に応急手当』するだけだから」
そういうとおさくさんは、片手に単語帳を持った。
「えーんハンスー、向上心もってよー」
……相変わらず気が抜ける詠唱だ。が、おさくさんがそう唱えると、手の中の破片が一瞬輝き、そして、宙を舞った。
紫の蝶だ。
その蝶は僕らを誘導するように、闇の方へと飛んでいき、止まり、待っていた。
「早くいっといでー。思ったよりお二人さんが遅かったから、こっちもあんまり時間無いんだよねー!」
「えっ、そうなんですか!?」
「どれくらい眠ってたんだ? 私は……」
「三日くらいかな? まぁそこはどうでもいいんだ。なんにしろ、私たちがサポートできるチャンスは一回くらい。回復薬はもうこれ一本しかないし。……ま、渡しとくね、これ」
テラーさんが、たった一本の回復薬を僕に渡す。それを確認したジュノンさんが、僕らの背を強く押した。
「早く行ってきてよ? 『救世主』さんたち? 君らが道を切り裂けば、私たちは救えるんだよね? 色々と……ね?」
「…………」
色々……ディランさんのことも、助けられるということだろう。僕はアリアさんの方を見た。アリアさんもこちらを見て、頷いた。
「ウタさん……!」
「ウター! ぼくたちも、手伝うよっ!」
「我が主君、我に出来ることがあるのならば何でも言うがいい。すべて行おう、その心が思うままに、ウタ殿の手となり、足となろう」
「みんな…………」
僕は微笑み、右手を上に翳す。
「ドラゴン召喚!」
六体のワイバーンがその場に召喚され、大きく咆哮する。そして、僕らを守るかのように、ぐるりと僕らを囲う。
「ドラくん! あの蝶をおいかけて! みんなは僕らを守って! ポロンくんとフローラとスラちゃん、それからアリアさん。ドラくんの上に!」
ドラくんは僕の言葉を聞けばすぐに本来の姿へと変わる。何度見ても、美しい黒だ。そして輝く金色の瞳。……僕はこの眼が好きだ。
「ドラゴン召喚っ!」
別の声が響く。ドロウさんだ。瞬間、僕らの周りに三体のドラゴンが召喚される。
「よっ、ダーク! 俺らも協力するぜ?」
「召喚されたなら、仕事はこなさないといけないな」
「素直じゃないねーナイルは! 私たちも手伝うよ」
「……恩にきる」
ふと、声がした。ジュノンさんの声だ。
『今から一瞬だけ、「核」への入り口を開く。私たちはそれに力を持っていかれるから、しばらくの間は何があっても助けられない。だから、判断は間違えないように。後戻りは出来ないよ?』
「…………分かってます」
『よろしい。さて、Unfinishedは救世主になり得るか、しっかり見届けさせてもらいましょうか』
強い光が弾けた。そして、黒々とした核への入り口が、目の前で、口を開いた。背から追いたててくるような恐怖心、不安感。しかしそれは……生きているからこそなのだろう。
「……行くよっ!」
僕らはその中に、飛び込んだ。
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