北へ
「アリア姉っ! ウタ兄っ!」
「お二人とも……! やっと会えました!」
僕らがお屋敷に戻ると、そこにはポロンくんとフローラがいた。僕らを見た瞬間、抱きついてきた。隣にエドさんがいることから見て、どうやら、話を聞いたエドさんが中に入れてくれたようである。
「ポロン、フローラ! ここまで来るのも大変だっただろう? 少し休むか? 大丈夫か?」
「アリア姉、久しぶりだからってちょっと過保護だぞ! おいらたちそんなに柔じゃねーもんなー!」
「なー!」
「二人とも元気ならよかったよ!」
すると、ポロンくんの腕の中から水色の何かがこちらにとんできた。
「ぷるぷるっ!」
「スラちゃん! スラちゃんも大丈夫? 復活した?」
「ぷるっ! ぷるるるっ!(そもそも! 落ち込んでなんかないもん!)」
「あはは! そっか!」
「お前スラちゃんの言葉も分かるのか?」
「え、あーそういえば。今回ので精度上がったかもしれませんね」
「いいなぁ。私もスラちゃんとおしゃべりしたいぞ!」
「はいはい、アリア? そうじゃないでしょ? 中で何があったのか教えてもらうわよ?」
少し浮かれぎみだった僕らを両断して、エマさんがそう切り出す。アリアさんは誤魔化すように笑ったあと、「そろそろ昼食だろ?」と、ダイニングへ向かっていった。
彰人さんはまだここで料理してくれている。お金もとらないでよくしてくれるのは、本当にありがたい。僕らが顔を出すと、にかっと笑った。
「おうおう、今日は人数が多いなぁ? えっと? いち、にい、さん、……六か?」
「そうだな。頼む」
「はいよ」
「アリア? ご飯の前に、」
「わかってる。座った方が落ち着けるかと思ってな。
ポロン、フローラ。二人はこっちだ。ウタの両隣に座ってな」
「分かった! ……やった、ウタ兄の隣!」
普通に嬉しそうにしているポロンくんを見て、なんだか僕も嬉しくなってきた。こういうところ、本当に子供らしくてかわいい。
「会いたかった?」
「んなっ……こと、なくはない、けど。お、おいら! ちゃんと我慢したよ!?」
ぷいっとそっぽを向くポロンくん。それを見たフローラが僕に耳打ちした。
「本当はさみしがって泣いてたんですよ。今日は一緒に寝てあげてくださいね」
「あはは。わかったよ」
「なんか変なこと話してる!」
「話してない話してない」
そんなこんなしているうちに、アリアさんが本題を切り出した。
「……実は、容姿のこと以外にも大事なことがわかってな」
僕らは、容姿は心に関わるスキルによって変わる可能性があること、ミーレスのもとにディランさんが来ていたと言うこと、そして、そのディランさんが、アリアさんの知るディランさんとは思えない言動をしていたことを伝えた。
「一応聞いておくが、エマ、このことは?」
「知るわけないじゃない。ディランが戻ってきてたなら、立てないくらいにぼこぼこにしないと気がすまないもの」
「だよな。で、ウタが前にディランに会ってたわけだが……」
「僕が見たのは、聞いてた容姿と違う人でしたよ」
「でも……ディランのスキルに、心に関わるようなスキルなんて……」
「というか、そもそもどうやって牢屋の中に?」
「あぁ、それは大体わかっている」
意外にもアリアさんはそういった。どういうことかと僕が首をかしげると、エドさんが口を挟む。
「確か、ディランは『未来永劫』というスキルを持っていた」
「みらいえいごう……?」
「確か……えっと……アキヒト! 未来永劫って」
「未来に向けての果てしなく長い時間のことさ! 転じて、永遠って意味でも使われる!」
厨房から彰人さんがそう叫ぶ。
……永遠、か。
「そうそう! それでな、ウタ。『未来永劫』ってスキルは、時間を操れるんだ」
「えっ……時間を?」
「止めたり、早めたり、戻したり……。でももちろん、好き勝手できる訳じゃない。
今、このスキルを使って時間を操作したとして、最後には『今』に戻ってきて、時間を動かさなくちゃいけない。さらに、このスキルを使っている間、その影響を受けている他の何者にも干渉できないんだ。
でも、時間を止めている間、鍵を取り、ミーレスだけスキルから解放して話をすることは十分可能だ」
「なるほど……。でも、『心に関するスキル』じゃないですよね」
その時、再び後ろから声がした。
「へい! ユーガイズ! ハウワーユー?」
「……個性の、塊's…………」
「ハウワーユー?」
「……アイムファイン、センキュー」
「グッジョブ!」
……これ、なんだ? なんのやり取りだ? というか、またなんの音沙汰もなく入ってきたよこの人たち。
完全に戸惑ってる僕らを置き去りにして、アイリーンさんがニコニコしながらとんでもないことをいった。
「今言う三つの中からー、お好きな情報をお教えしまーす!」
「え!?」
すると、ドロウさんが続けて言う。
「えっと、一つ目は、『ディラン・キャンベルの容姿を変えたスキルの正体』」
「分かるのか!?」
「え、まぁ?」
「二つ目!」
今度はテラーさんが言う。
「この街を出たあと、ディランさんがどこへ向かったか!」
「分かるの!?」
「エマさんや、わしら大体のことは分かるんやで」
「いやその口調どうしたんですか!?」
こうなってるくると、三つ目の情報も気になる……。そんな僕らの心を読み取ったように、おさくさんが声をあげる。
「三つ目! ディランさんがアリアさんに送ったプロポーズの言葉!」
「なっ……、な、なななななな……」
「アリアさんがバグった!」
僕がそれに戸惑っていると、アリアさんはガタッと席をたち、僕に詰め寄る。
「な、なぁウタ! 一つ目と二つ目、どっちにしようなぁ?」
「え、あの、その……」
「三つ目は選択肢にないよな!? な!?」
「…………」
ちょっと……いや、かなり気になるとは言えない。でも、これからのことを考えると……。
「……無難に、ディランさんが向かった場所を聞くのがいいんじゃないですか? スキルは、本人に会えば解決できますし」
「そ、そうだな」
「私はアリアがあんなに照れた理由、知りたいけどなぁー?」
「エマぁ!」
「んじゃ、ディランさんが行った方向でいいねー?」
僕らはゆっくりとうなずいた。すると塊'sは顔を見合わせ、声を揃えていったのだった。
「「「「場所はハンレル! 北上せよ!」」」」
こうして、僕らの旅は、再び幕を開けた。
――チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
第五章 声にならない声を聞いて 完結
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