寂しい?

 彰人さんの話を聞いたあと、アリアさんと僕はほとんど話さずにお屋敷へと戻っていった。そして僕は一人、ベッドの中で考えた。

 朝、着替えて、スラちゃんと共に食堂の方へ行くとエヴァンさんはいなくて、アリアさんが一人で朝食の準備を進めていた。



「おはよう、ウタ」


「おはようございます! 手伝いますよ」


「ありがとう」


「ぷるるっ!」


「スラちゃんもおはよう」



 そして、準備が整い、仲良くいただきますをして食べ始めた。あったかいスープとパン。それから、サラダとベーコンのようなもの。

 王族が食べるにしては、きっと、質素なものなんだろう。贅沢はアリアさんもエヴァンさんも好まなそうだし。



「エヴァンさんは?」


「昨日のことを隣国の王に伝えに行っている。ドラくんから聞いた話を含めて、気をつけるようにと」


「そうですか」



 ……エヴァンさんにも言っておきたかったけど、まぁ仕方ない。



「アリアさん」


「なんだ?」


「……僕は、明日、この街を出ようと思います」



 アリアさんは少し驚いたようだが、落ち着いて僕の話を聞いている。



「……そうか。お前がそうしたいなら、そうすればいい。

 一応聞くが、そう考えた理由はなんだ?」


「……彰人さんは、僕の好きなようにやればいいって言ってましたよね」



 好きなようにやればいい。使命のためには自然と体が動くようにでもなってるんだって。二度目を後悔するなって。……彰人さんは言ってくれた。



「でも僕は、自分が何をしたいのか分からなかったんです」



 元々の世界でもそうだった。なんとなくで生きてきて、周りの言うことにしたがって、自分の考えなんて考えたこともなかった。……だから、分からなかった。



「だから、いっそのこと、使命を全うしてみようかなって。

 もう一つの『勇気』を打ち倒す……それが本当に僕の使命なのか、そもそも出来るのか分からないけど、それでも、やってみようって」



 正直、僕じゃ辛い節がある。それでも、ドラくんという最強の助っ人も連れているし、大丈夫なんじゃないかって言う自信が、無駄にあった。



「……そうか。ウタが考えて決めたことなら、私たちからなにかを口出しすることはないだろう。基本的にはな。

 ま、大丈夫だろう。お前ならやれると信じてる」


「アリアさん……!」



 アリアさんがそういってくれるだけで大きな自信にになった。嬉しい……すごく、嬉しい。


 ……しかしなぜだろう。そのアリアさんの横顔が、どこまでも悲しく見えたのだ。



「……で、だ。街を出ていくのなら、冒険者登録した方がいいぞ」


「冒険者登録、ですか?」



 冒険者っていえば、僕の認識の中ではラノベあるあるの職業だ。色んな街を旅して、依頼をこなしたりするやつ。

 その僕の感覚をアリアさんに伝えたら、わりとあっていた。



「まぁそんなもんだ。冒険者になるにはギルドに登録しなきゃいけない。階級制度もあって……。

 冒険者について、これ以上はエマにでも説明してもらえ。私は武器やらなんやらを新調してくる。昨日のでダメになってしまった。ギルドの場所は分かるな?」


「あ、はい!」


「じゃあそこで登録してもらってこい。金貨二枚必要だからな」


「わかりました! ありがとうございます!」


「…………じゃ、行ってくるな」


「はい!」


「ぷ~るる~!(いってらっしゃーい!)」



 アリアさんが食堂から出ていって、僕はわずかに首をかしげた。



「……ねぇスラちゃん、今日のアリアさん、なんか変じゃなかった?」


「ぷる……」


「そっか。やっぱりスラちゃんも感じてたのか」



 どこか声に力がなく、心なしか弱々しく感じた。気のせいではないようだけど……。



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



「それはね、寂しいのよ」


「寂しい?」



 登録の手続きをし、ギルドカードが出来るまで少しの待ち時間がある。そこで、エマさんにアリアさんのことを話したらそう言われた。



「ほら、あのお屋敷って、前はいっぱい人がいたのよ。でも、使用人もみんないなくなったから。アリアは、ほとんどの時間を一人で過ごさなくちゃいけないのよ。

 ウタ君が来て、口にはしないけど多分、嬉しかったのね。だから寂しいのよ」



 ……そっか。彰人さんが昨日言っていたのはそういうことか。

 一度ボロボロになったアリアさんを見たから分かる。決して、アリアさんは『強い』とは言えないのだろう。それは、心の面でも。



「うーーーーー……」


「どうしたの?」


「僕はどうすればいいんですかぁ……?」



 アリアさんにはお世話になった。なにかを返したい。でも、何を返せばいいのか分からない。



「なにか小さいものでもいいからアリアさんに返したいんですけど」


「そうねぇ……アリアが喜ぶものでしょ? あんまり物貰っても喜ばないのよねー」


「うっ」



 詰んだ。



「あっ」


「えっ?」


「あれならいいんじゃないかしら」



 エマさんは、僕に『あるお店』を教えてくれた。ギルドカードを受け取り、僕はすぐにそこへ向かった。



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



 お店である物を買い、お屋敷に戻る。僕のことだ。躓いたり転んだり、誰かにスライディング土下座しても大丈夫なようにアイテムボックスの中にしまう。



(……喜んでくれるといいけど)


「ぷるっ! ぷるるっ!」


「あはは! そうだね、二人で選んだもんね」



 お屋敷に入り、アリアさんを探す。お昼も食べてから帰ってきたから、アリアさんもいるはずだ。

 アリアさんの部屋は確か二階だ。


 部屋の前に行くと、ドアが開いていた。ちらっと中を覗くと……。



「アリア、さん?」


「あっ……」



 目元を赤く腫らし、こぼれる涙を指でぬぐうアリアさんがいた。

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