二つの勇気

「……それにしても、勇気を持ってるやつが他にもいるとはな。それも、そんなことをしているなんて…………」


「そうですね……」


「どうするつもりなんだ? 相手も勇気を持っているなら普通の人間は敵わない。ドラゴンでさえ敵わなかったんだからな」


「そうですね……」


「対抗できるならウタしかいないだろう。でもお前はそんなんだしな……。でも、いくら使命だといっても無理して立ち向かうこともないはずだ」


「そうですね……」


「……ウタ、聞いているのか?」


「そうですね……え?」


「はぁ」


「まぁアリア、ウタ君も疲れているんだろう。仕方ないさ」


「ぷるぷるっ!」


「あー、な、なんかすみません」



 ドラゴンからの説明が終わってから色々あった。僕らが街へ帰ろうとすると、ドラゴンが送ると言ってきた。



「……いや、ドラゴンが街まで来たらパニックでしょ」



 ていうか、だからこそ『ドラゴン召喚』ってことになったんじゃないんかい。



「それとだ、そのー、呼び方はどうにかならないのか? ずっとドラゴンドラゴンって、間違ってはいないが、これから仲間としてやっていくんだ」


「つまり、あれか? 名前が欲しいと?」


「そうだ!」



 ……しかし、名前、かぁ。よしここは!



「アリアさん! せーのしませんか?」


「またか!?」


「僕じゃいい名前つけられる気がしないんですよぉ!」


「しょ、しょうがないな……。少し時間をくれ」


「……男、ですよね?」


「そうだ」



 考えること30秒。



「いいですか? せーのっ!」


「「ドラくん! ……おぉ!」」


「おぉじゃない」



 ドラえもんじゃない。ドラくんだ。そう、ドラゴンだからドラくん。



「……さすがに、安直すぎないか?」


「いや、カッコいいのとかも考えたんだけど……ねぇ?」


「洒落たのとかも考えたんだけど……なぁ?」


「お主ら仲がよいな!」


「「だろ?」」


「……ぷる(そのうち慣れるよ)」


「お主は……同志か」



 そして結局そのあと送ってもらうことになり、背中に乗って街までひとっとび! まぁ、アリアさんの足も心配だったし、よかったっちゃあよかったけど。もっと鱗とか固いのかと思ってたけど、わりと乗り心地はよかったです。

 ドラくんは結界の中には入れないから、その真横まで連れてきてもらって、降りることに。


 しかーし! 現れた漆黒のドラゴンに街の人たちはやはりパニックに! 武器や武器になりそうなもの、武器っぽいもの、武器かもしれないものなどを携えこちらに大人数で駆けてきた。

 ドラくんがさらっと「殺るか?」と聞いてきたのには冷や汗をかいた。そこは全力で否定させていただきました!

 とまぁパニックになったみなさまを鎮めたのはアリアさん。ドラくんの背中から顔をだし、「こいつは私の仲間だ」と一言。……鶴の一声っていうんですかねー、こういうの。皆様、さっと武器をしまってくれました。


 その後ドラくんとはお別れし、お屋敷に戻って、帰ってきていたエヴァンさんに事後報告。ドラくんの脅威がなくなったので街の人は家へと帰り、そのあと回復師とかいうすごい人が来てアリアさんの足も完治。うわーい!

 うん、そして色々あって食べ損ねたお昼ご飯を食べている。そんなところだ。



「まぁ、別にいい。疲れているのは私も分かるし」


「……正確には疲れてるっていうより、考え事の方が大きくて」



 僕の使命……。もう一つの『勇気』と戦うこと。正直嫌だ。僕はそもそも戦いが好きじゃない。戦争なんて当たり前だけど、徒競走とかテスト順位とか、そういった小さな戦いも嫌だ。



「ドラくんが言っていた、『使命』だが……さっきも言った通り、私は、無理にそれに従う必要はないと思っている」



 アリアさんが言う。確かにそうだ。それを行う義務はない。しかも僕は『そうかもしれない』程度なのだ。ペナルティーがあったりするわけでもない。



「でも……『勇気』に対抗できる人なんて、いるんでしょうか?」


「それは……」



 分からない、というようにアリアさんが頭を振る。ここに来て、まだほんの二日。それなのにヘタレな僕のステータスがアリアさんたちを上回ってしまうほどのスキルだ。まぁ、ドラくんと戦ったからっていうのもあるけど。



「僕は、この力をどう使って、どう生きていけばいいんでしょうか……?」


「…………」



 少しの沈黙。それを破ったのはエヴァンさんだった。



「転生者が使命を持っているというのは、きっと間違いない。そうでなければ、二度目の人生など、きっと神は与えてくださらない」


「…………」



 僕はなにも聞くことができなかったけど、あの小さい神様も、なにか目的があって僕をここに呼んだのだろうか? それも、あんなに急に、無理矢理に。



「ただ、俺らは神ではない。その意図を理解するのは難しい。……ならば、実際に聞いてみればいい」


「……聞いてみる?」


「どういうことですか? 父上」



 簡単だと、エヴァンさんは言った。



「神に会うことは出来ずとも、神と話したことがある人間は、この街の中にいるだろう?」


「そんな人いな――」


「……ウタ?」



 あっ。



「いた」

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