使命
「で、次は、ウタがお前を助けたって話だが……?」
「分かっている。ちゃんと説明しよう」
ドラゴンはその巨体をくねらせ、僕の目の前に来た。て、敵意がないとはいえ怖いっすよ……。
「お主、我の眼を突いたな」
「はいぃっ! ごめんなさい!」
「その行為が我を助けたのだ」
「……え?」
普通、『目潰しっ!』ってされて『たすかったぜぇ!』ってなるのか? ならないよね? 間違ってないよね、僕。
「アリア殿、最近、我らドラゴンの様子がおかしいと、そう思ったことはないか?」
「……あぁ、あるぞ。この間のこともそうだし、こいつが家無しになったっていうのも、どうやらドラゴンが家を焼いたらしい」
そういえばアリアさんは、ドラゴンは知能が高くて、人里を襲うようなことはしなかったって言ってた。それが、最近おかしくなったって。
「我らも、お主らを襲おうなんて本当は考えていない。だが……一年前、だったろうか? 何者かが我らの中に『闇』を落としたのだ。その闇は、我らの自我を奪い、暴走させた」
いや待って! ドラゴン――話を聞くかぎり、かなりたくさんの――を暴走させるだけの闇って! そしてそれを落としたやつって!
「すぐにでもどうにかしたかったが、闇を祓うには、闇そのものの弱点を退魔の力で突かなければならないのだ」
「なるほど、だからウタが助けたってことになるのか」
「待ってついていけてない」
僕だけおいてけぼりだ。すると、アリアさんは僕が握ったままの剣をちょいちょいと指差して笑う。
「その剣、退魔の力が備わっているんだ」
「ええっ?!」
「流通しているもので退魔の力が備わっているのはまれだが、屋敷にあるものは大体そうだ。万が一の時ようにな」
「そんなのいきなり渡したんですかぁ?!」
「それしかなかったんでなぁ」
「ノリが軽いっ!」
「操られ暴走したとしても我らはドラゴン。人の力ではなかなか祓えなくてな。
お主のステータスがあがり、たまたまとはいえ、弱点である眼を突いたから、我は解放されたのだ」
……たまたま、ねぇ。
たまたま僕のスキルが発動してて、たまたま根気強く鑑定してて、たまたま退魔の剣を持ってて、たまたま……たまたますぎない!?
まぁそれはともかく、これで僕が助けたってことも説明された。……よし、あれだ。
「僕に遣えるっていうのは……?」
「そういう決まりだ」
「どういう決まり!?」
もっと詳しく! くーわーしーくー!
「龍の世界ではな、自分よりも強い者に遣えるのが決まりでな」
「ふむふむ……む?」
ジブンヨリモツヨイモノ……?
「僕はレベル1だったんですけど……」
「あぁ、そうだな。そしていくらお主が強いスキルを持っていて、ステータス上限が無いにしても勇気を発動させていない今のお主なら、我は捻り潰せる」
「怖いこと言わないでぇ!」
「ウタ、落ち着け。敵意はないみたいだぞ。ものの例えだ」
「例えにしては趣味悪いです!」
「正直そんな相手に遣えるのは非常に、非常に! 不本意だが……。仕方ない、決まりだ」
「めっちゃ不本意!」
うん、まぁそうだよね。高校の先輩が幼稚園児だったら嫌だよね。それと同じようなことだよね多分。
「……なぁ、さっきから言ってる『遣える』っていうのは、お前をウタが使役する……っていうことなのか?」
「いや、それは無理だ。レベル差がありすぎる」
「じゃあどうやって……?」
「さっきお前のスキルに『ドラゴン召喚』を入れておいた」
「はっ! いつの間にっ?!」
急いでステータスを確認する。
名前 ウタ
種族 人間
年齢 17
職業 村人(仮)
レベル 12
HP 18000
MP 9600
スキル 言語理解・アイテムボックス・鑑定・暗視・剣術(初級)・体術(初級)・初級魔法(熟練度1.5)・使役(初級)・ドラゴン召喚←これ! これぇ!!!
ユニークスキル 女神の加護・勇気
称号 転生者・ヘタレ・敵前逃亡
なんか追加されてる! いつやったのこれ! お、恐るべしレベル100……。
「我はこの通りの見た目だから共に行くことはできない。力が必要なときはそのスキルを発動させろ。仮にもお主は我の恩人である。出来るだけのことはしたい」
「擬人化とか出来ないんですね……」
「逆になぜ出来ると思った」
「だって……ねぇ?」
「なぜ私を見る」
……これで、終わりかな、説明。
ふぅっと一息つく僕の隣でアリアさんがドラゴンに訊ねる。
「なぁ、お前たちに闇を落としたのは誰なんだ? どんなやつか分かるか?」
「……それがな」
ふと、ドラゴンの言葉が濁る。
「分からないのか?」
「いや、わずかに情報はある。だがな……」
「なんだ、もったいぶらずに話せ」
ドラゴンはゆっくりと言葉を紡いだ。今までにないようななにかを警戒しているような口調だった。
「分かっているのは、そいつが男性であること、灰色の髪で黒い眼を持つこと。……そして、あるスキルを持っていることだ」
「あるスキル……?」
「…………『勇気』」
僕とアリアさん、二人の思考が停止する。
「やつは、『勇気』を持っている。やつはその力で、この世界を破壊しようとしている。
そして、そんなときに、お主が来た。同じ『勇気』というスキルを持った、お主が」
「……それって、つまり」
「……転生者は、皆、役割を持ってこの世界へと送られるらしい」
ドラゴンは、金色の眼をゆっくりと閉じる。
「やつを打ち倒すこと。それがお前の使命なのかもしれないな」
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