第47話 小城舞の苦手科目は教育学である(1)
「ひっさしぶりだなー」
今いるのは、大学の食堂。
ゼミがあるのは午後からなので、飯を喰って出ようと思って食堂まで来たのだ。
ごった返す人達を見て、懐かしさすら覚える。
四年生とまでなると、真面目に単位を取っている人間はほとんど大学に通わなくていい。
ひたすらバイトと家の繰り返しで、自分が大学生であることを忘れてしまいそうだ。
最近はプライベートまで何かを教えることが多くなったせいで、ますます忙しくなっていた。
だから大学生である自覚がますます薄くなっている。
「なんにしようかなー」
食券をどれにしようか迷う。
一番安いメニューの素うどんか、ハズレなしのカレーか。
それとも、揚げ物盛りだくさんのデラックス定食か。
どれにするにしても、迷える時間は少ない。
後ろには既に列ができているのだ。
俺は一瞬悩みながらも、いつもの日替わり定食のボタンを押した。
とりあえず迷った時はこれだ。
値段は手ごろだし、何より日替わりなので味の変化が楽しめる。
「おっ、チキン南蛮か」
日替わり定食が何なのか確認しなかったが、食堂のおばちゃんから渡されたものを見てほくそ笑む。
チキン南蛮は大好物だ。
もしもコンビニで弁当を買う時になったら、迷わず手に取るぐらい大好きだ。
しかも、ここの食堂のチキン南蛮は俺の好きなチキン南蛮だ。
ちなみに嫌いなチキン南蛮はというと、ただのから揚げにタルタルソースもしくはマヨネーズをかけただけの代物。
それただのから揚げだろ!
チキン南蛮のあの肉の柔らかさをまるで再現していない。
から揚げとは食べた感触がまるで違うのだ。
タルタルソースが雑な時もある。ほぼマヨネーズじゃないかってやつ。あと、できれば甘酢を使っていて欲しい。あれがあるのとないのとでは、かなり味が変わってくる。
別にから揚げが嫌いなわけじゃない。
大好きだ。
むしろから揚げが嫌いな人間がいるなら会ってみたいぐらいだ。
だが、から揚げとチキン南蛮は全く違う。
別物だ。
「さて、と」
給水器から水をもらって、さて、どこに座ろうか。
席が結構埋まっている。
テラス席は運動系のサークルの皆さんが使うという謎ルールがあるので使えない。
なので、食堂内での食事ということになるのだが、やはり時間を少しでもいいからズラした方がよかったかもしれない。
人が多すぎる。
大学が閉まる一時間前ぐらいに食堂に来ると、おばちゃんがサービスしてくれて無料でおかずをバンバン入れてくれたり、ご飯を大盛りにしてくれたりする。
余ったらいけないからとサービスしてくれるのだ。
なので、いつもだったら放課後が多いのだが、たまには昼飯を学食ですませたいと思ったのが悪かったかもしれない。
「おっ!」
良かった。
運よく席を見つけることができた。
座って食事をしていた生徒が立ち上がったのだ。
俺は置いてあった台拭きで、サッと机の上を綺麗にしたうえで着席する。
周りには誰もいないので、ゆっくりと食事ができそうだ。
だけど、
「しぇ、しぇんぱーい!」
ドタドタとうるさい足音と、周りの迷惑を考えない大声にストップがかかった。
噛み噛みだし、急いでいるし大丈夫か?
「い、いっしょに、お、おおお食事をお――あっ!」
何もないところなのに、俺の後輩は躓いてしまう。
「危ないっ!」
お盆と腕を咄嗟につかんで最悪の事態だけは避けたのだが、すてーんと尻餅をつく。
「えへへ、や、やっちゃいましたー」
てへぺろりん、と舌を出して何とか無事でしたアピールしているのだが、桃色がかかったパンツがぱっくりと御開帳しているんですけど。
全然大丈夫じゃないんですけど。
「大丈夫か? 小城?」
「はい、大丈夫です。うきゃああああああ!」
腕でガッツポーズした瞬間、胸元のボタンが勢いで取れてしまった。
そのせいで、下着とお揃いの色のブラが今度は見えてしまったのだ。
胸がでかすぎるのだが、服のサイズが合っていない気がする。
ぱっつんぱっつんだ。
どうせ買う時も持ち前のドジっ子属性をいかんなく発揮して、サイズ違いの服を購入したんじゃないだろうか。
色々と大丈夫か、こいつは?
「うえっ、えっ、えええ。すいましぇん。舞はこんなところ見せるつもりじゃなかったんですけど」
「大丈夫、見てないから」
嘘だけど。
ガッツリ見ていたけど。
泣いている後輩をそのままにしておくこともできない。
「そ、そうですかー。よかったー。そうとなれば、元気千倍です! 小城舞、復活しました☆」
シャキーン、と立ち上がって戦隊もので出てくるヒーローみたいなポーズを取る。
大学生なのに中学生にしか見えない容姿と性格。
小城舞。
愛すべきキャラクターをしている俺の大学の後輩だ。
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