第42話 愛沢林檎の苦手科目は数学である(7)

「それじゃあ、この問題を使って必勝法を教えていくね。全部で玉は7個で赤玉3個、白玉4個だよね。二つずつ取り出す確率を書いていくね」

 俺は全ての玉の出る確率を地道に書いていく。

 すると、こうなる。


(赤1,赤2)(赤1,赤3)(赤1,白1) (赤1,白2)(赤1,白3)(赤1,白4)

(赤2,赤1)(赤2,赤3)(赤2,白1) (赤2,白2)(赤2,白3)(赤2,白4)

(赤3,赤1)(赤3,赤2)(赤3,白1) (赤3,白2)(赤3,白3)(赤3,白4)

(白1,白2)(白1,白3)(白1,白4) (白1,赤1)(白1,赤2)(白1,赤3)

(白2,白1)(白2,白3)(白2,白4) (白2,赤1)(白2,赤2)(白2,赤3)

(白3,白1)(白3,白2)(白3,白4) (白3,赤1)(白3,赤2)(白3,赤3)

(白4,白1)(白4,白2)(白4,白3) (白4,赤1)(白4,赤2)(白4,赤3)


 つまり、42通りの玉の取り出し方があるってことになる。

 ここから、玉の色が同じやつを数えていくと、18通りある。


 18  3

――=――

 42  7


答えは、七分の三になりましたー。

 やったね!

「いや、あの先生……これってなんですか?」

 愛沢は頭を抱えている。

 あれ?

 ちょっと読みづらかったかな?

「あっ、ごめん、樹形図の方が分かりやすかった?」

「そ、そういうことじゃなくて、その、これってどういう意図で書いているんですか?」

「どういう意図もなにも、これが数学の必勝法だよ。とにかく地道に書き続ける。そしたら答えが明らかになるだろ?」

「それは分かっていますけど、こんなの私だって知っていますよ!」

「うん、だから言っただろ? 愛沢にも分かる簡単な方法だって」

「いや、それはそうですけど、もっと画期的なやつはないんですか!?」

 まあ、そうくると思ったよ。

 がっかりさせてごめんな。

 でも、地味で陳腐なものが意外に使えたりするもんだ、世の中。

「連立方程式だってそうだよ。xとyにひたすら0から100ぐらいの数字を入れていったら大体答えは導くことができるでしょ?」

「それは誰だって知っていますよ! でも、私が知りたいのはちゃんとした解き方です」

「ちゃんとそれも教えたよ。だけど、知っているのなら、どうしてこのちょっと前に習った解き方を使わなかったの? 知っていたんだよね?」

「それは、そうですけど……。でも、最近習った解き方でやりたくて」

「それはいい心がけだけど、愛沢って、テストの時もこうなんじゃないの? 途中であきらめてテスト時間ぼおーとしているんじゃない?」

「それは、確かに、そうですけど……。このやり方じゃ、時間かかりませんか?」

「うん。だから、全ての答案を終えた後でいいから、分からない問題にはこういう邪道なやり方で解いて欲しい。解ける問題があるのに、時間を余らせたままテストを終えるのが一番もったいない」

 格好を気にして0点にするよりも、足掻いて足掻いてとった1点は財産になる。

 それは、数学にとっては大事なことだ。

 学校の先生がこのことを教えないのは、下手なやり方ばかり覚えて勉強を怠ることを恐れているからかもしれないけど、将来的なことよりも、俺は今点数を取る方法を教えてあげたい。

 1点でも多く点数を取る意義はある。

「数学の一点は、他の教科よりも遥かに重い意味を持つんだよ」

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