第40話 愛沢林檎の苦手科目は数学である(5)
「どうすれば、簡単に解けるんですか?」
「それを教える前に、普通の解き方を教えておくね」
ノートを取り出す。
【問1】
袋の中に赤玉が3個、白玉が4個入っています。
この中から同時に2個玉を取り出す時に、同じ色を取り出す確率を求めよ。
……問題はこうだったな。
「問題を解いていく上で、ちょっと分かりづらいかもしれないから整理するけど、同じ色を取り出すって書いてあるけど、それってどういう色の組み合わせか分かる?」
とりあえず、基本的なこと。
愛沢が分かりそうなところから聴いていく。
どこまで理解できているかを知ることもできるし、授業の時はこうやって何度か質問した方がいい。
そうしないと、眠たくなってしまうからな。
「赤と赤。それから白と白ですよね?」
「うん、そうだね。じゃあ、玉の数は全部でいくつ?」
「赤玉が3個で、白玉が4個で合計7個ですね」
「正解。それじゃあ、それを小さく問題の横にでもいいから走り書きしておいて」
愛沢は一瞬怪訝な顔をするが、素直に従う。
まあ、そんなことしなくてもいいんじゃないんですか、とは思うだろうな。
でも、書くのは結構大事なのだ。
数字を暗記しながら、同時に計算をするよりも、思考のリソースを省くやり方の方が絶対的にミスが少なくなる。
数学はケアレスミスが最も多い教科。
些細なことでもメモを取るのは大事なことだ。
「計算をしていくんだけど、一応計算方法書いておくね」
サラサラとノートに書いていく。
それが、これ。
nから数を下げながらr個のかけ算
nCr=―――――――――――――――――
1から数を上げながらr個のかけ算
確率のほとんどはこれを使っていく。
誰もが知っているだろうけど、これを知らないと先に進めない。
「ここまでは分かる?」
「分かります!」
「うん、そうだよね」
たまに生徒がこっちを気遣って嘘をついて分かります、と言う時がある。
そのへんは声色で判断しないといけないんだけど、大丈夫そうだ。
数学は一度躓いたら永遠に立ち上がれない教科。
しっかり丁寧にやっていくのは本当に大事だ。
「一気に解いていくのは難しいから、まずは赤玉から考えていくね。つまり、赤と赤を引く計算をするよ。赤玉3個の中から同じ色を取り出す確率は3C2になる。そして、赤玉と白玉を合計した数は7個で、それから2つ取り出すんだから7C2になるね。つまり――」
3C2
――――
7C2
「こういうことになる。これが赤玉を取り出す確率になるんだけど、これから計算していくね」
3から数を下げながら2個のかけ算
3C2=―――――――――――――――――
1から数を上げながら2個のかけ算
3×2
=―――
1×2
6
=――
2
=3
「そして、次は全体から二つ取り出す確率を計算していくね。合計で七個の玉から同時に取り出すわけだから、7C2だね」
真剣に聴いている愛沢にどんどん教えていく。
7×6
7C2=―――
1 ×2
42
=―――
2
=21
「これで答えは出たから、まとめるね」
同時に同じ色が出る確率。
赤色だけのバージョンは、
3C2 3 1
――=――=――
7C2 21 7
こうなる。
「そして、白玉4個から2個同時に取り出す確率は――なんでしょう?」
「それは4C2ですね」
「そうか。それじゃあ、白玉の方を計算してみようか」
「えっ?」
「どうしたの?」
「全部やってくれるんじゃないんですね」
「それじゃあ覚えないからね。ただの自己満足になっちゃう。他の教科ならまだしも数学は自分でやらないと覚えないから、やってみて。大丈夫、ちゃんと聴いていればできるし、分からなくても手順は赤玉の確率を見ていけば分かるはずだから」
「ううう。分かりました」
少し時間をかけながら、次のように愛沢が書いていく。
白玉を同時に取り出す確率だ。
4C2
――――
7C2
4から数を下げながら2個のかけ算
4C2=―――――――――――――――――
1から数を上げながら2個のかけ算
4×3
=―――
1×2
12
=―――
2
=6
4C2 6 2
――=――=――
7C2 21 7
「こ、これでいいですか?」
「うん、ばっちり!」
「よ、よかった……」
「それじゃあ、最後の仕上げに二つの確率を足してみて?」
赤玉が同時に出る確率が7分の1で、白玉が出る確率が7分の2だから、
「7分の3になります!」
「そうだね。正解。丁寧にやると分かりやすいと思うんだけど、どう?」
「そうですね、ここまで丁寧には学校でもやらないんで分かりやすかったです」
「学校かあ……」
昔を思い出すなあ。
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