第39話 愛沢林檎の苦手科目は数学である(4)
「……数学の基礎?」
「そう。数学で大事なのは基礎理解だよ。そのことについては、後で説明しようか。ちょっと問題から脱線しているからね。今日、時間があればじっくりと教えていこう」
あんまりピンときていないみたいだしね。
もっと具体的な話をしてから説明してからの方が頭に入りそうだ。
「そうですね、やっぱりこの問題が分からないんですよね……」
愛沢が見せているのは、高校で使っている問題集だ。
その前のページは○やらピンがしてある。
しっかりと勉強しているようで褒めてあげたいけど、分かっていない問題に気になることがあった。
「……この問題さ、解いてみたんだよね? 消し跡があるし」
途中の式を、消しゴムで消した跡がある。
かろうじて、Cとか、数字の3とかが薄らと見えてはいるが消してある。
「はい。でも、分からなくなって消しちゃいました」
「それじゃあ、どう分からないのか説明できる?」
「えっ、と。だから、公式? えーと、確率がよく分からないです。あの、赤玉と、あれが、その……」
「うん、分かった」
「分かってくれましたか!?」
「分からないことが分かった」
「ええ!?」
別に驚くようなことでもない。
説明をするって実はかなり高度なことなのだ。
家庭教師をやっていると、他人に何かを説明することの難しさは身に染みている。
「自分がどこで躓いたか、何が分からないのかって説明できないもんなんだよ。分からないところが分からない状態って、数学だとよくあることなんだよね。でも、その手がかりとなるのが途中の式なんだ。そこを見れば、どこで躓いているのかっていうのが一目瞭然だから、今後も式は書いていて欲しい」
「は、はい。すいません……」
愛沢がしょんぼりしている。
あれ? 言い過ぎているかな? 俺?
一応フォローしておこう。
「もちろん、テストの時は途中式って書いていると思うよ。途中の式を書いていないせいで点数が下がることだってあるからね。でも、テストの時だけじゃなくて、普段から式は書いていて欲しい。暗算できる簡単な問題だったらまだしも、躓くような問題だったら絶対書いた方がいいね」
「なるほど……」
「あっ、あとテストの見直しの時なんかにも、途中の式があった方が見直しの時間を短縮したり、どこで間違えていたりしているかが分かるよね? だから途中の式は書いていった方が学力向上につながるはずだよ」
数学は嘘をつけない。
他の教科ならば知識不足やど忘れを言い訳にできる。
でも、数学は計算力。
自分の頭の良さだけが問われる――と愛沢は思っているのだろう。
もちろん、それだけじゃないんだけどね。
途中の式を見られるのに抵抗があるかもしれないけど、そこはなんとか克服して欲しいな。
「間違えている箇所を他人に見せるのは恥ずかしいかもしれないけど、次からは途中の式を書いてね。こっちもどうやって教えていいのか、どこまで教えていいのかっていうのが分かるようになるから」
「はい!」
いい返事だ。
さて、と。
そろそろ問題の話をしようか。
「それじゃあ、教えていくけど。その前に、今の状態で俺に説明されなくても、簡単に愛沢が解ける方法がある」
「えっ? そんな方法があるんですか?」
「そう。きっと学校の先生じゃ教えてくれない邪道な方法。つまり、裏ワザみたいなものがあるんだよ。しかも、この方法は確率だけじゃなくて、他の数学の問題にも使えることができるんだよ」
「……そんなの本当にあるんですか?」
「うん、もちろん」
あるのだ。
学校の先生のように最初から頭のいい人には絶対に思いつかないような突破口が。
「数学には必勝法がある」
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