第34話 伊達竜子の苦手科目は家庭科である(9)
「チャーハンを作るって、私が言うのもあれだけど本当にこの固いご飯で作るの? 炊き立ての方がおいしんじゃないの?」
竜子の言うことはもっともだ。
だけど、そんなことよりも気になるのは、竜子の言動。
地味に感動して静止してしまっている俺の肩に、竜子が手を置いてくる。
「……なに? どうしたの? 大丈夫?」
「いや、竜子がまともなこと言って驚いているだけだよ」
「ちょっと! 北島ひどいっ!」
本当のこと言っただけだけどな!
急にまともになると、変なものでも食べたかと思うだろ。
「……確かにお米は炊き立ての方がうまいよ。ふっくらしていて柔らかくて水分が含まれている。――だけど、ことチャーハンを作ることに関しては、必ずしも炊き立ての米を使えばいいってものじゃないからね」
そう。
チャーハンは炊き立てよりか、固い方が実用的だ。
「炊き立てだとふっくらしているチャーハンになるけど、水分の少なくなった米で作ったチャーハンは米がパラパラになる。竜子はどっち派?」
「どっち派かって言われてもねー。そこまで意識したことがないから分かんだけど、パラパラの方がうまいんじゃないのー?」
そう。
日本人は、パラパラのチャーハンの方が好みであることが多い。
それに、固い米の方が料理を失敗しづらいという利点もある。
チャーハンは簡単な料理でもあるが、炊き立ての米を使うと水分が多いためべちゃべちゃになりやすい。
だが、最初から固い米ならば、気を付けるのは油の量と、火加減、時間ぐらいしか気にすることがないのだ。
「俺もやっぱりパラパラのチャーハンが大好きだから、わざと冷凍させてから作ることが多いかな」
料理の準備を始める。
固い米、卵、ネギ、醤油、塩コショウ、ハム、それからうまみ調味料。
醤油はなくてもいい。
それに、うまみ調味料もいらないだろう。
塩コショウだけで味付けをする人も多いけど、個人的にはパンチが足りないのでうまみ調味料を使う。ない場合は、俺も塩コショウだけの味付けをしている。
「中華料理は火の料理って呼ばれることがあるんだけど、チャーハンでも大事になってくるのが火力になってくる。とにかくスピードが命。悠長にやっていたら焦げたり、米が硬くなりすぎて美味しくなってしまったりする。だから、材料を用意して置くのが大事なんだ。じゃないと、ほんとに間に合わないから」
普段、俺は料理する時、マルチタスクで料理をする。
何かを炒めている時に、材料を切る。
何かを煮込んでいる時に、包丁やまな板などを洗剤で洗っておく。
などなど。
隙間時間に何かをやっておかないと気が済まないタイプだ。
だが、チャーハンは全身全霊を持って、脇目もふらずにやらないといけない。
それほどまでに、チャーハンは早さが重要となる料理だ。
「特に、たまごを入れてから、ごはんを入れる間はほとんどないから絶対に用意しておくこと! 今回は俺が炒めるから、とりあえず卵割ってくれる?」
「うん、分かった!」
「よし――って、全然分かってない! 何やってんの!?」
あろうことか、竜子はまだ油も入れていないフライパンに直接、卵を入れようとした。
しかも溶き卵じゃない、そのまんまいれてる!!
「なんで、直接卵フライパンに投入しようとしているの? 目玉焼きか!?」
「えっ、違うの?」
「違う! まずはボウルに入れて混ぜるの!! 溶き卵にするのっ!!」
「ええ、面倒だなー。普通にフライパンの中に卵入れてかき混ぜればよくない!?」
「これぐらいで!? 面倒とかじゃなくて、料理はとにかくメニュー通りに作ればいいんだから! それに、悠長にフライパンで混ぜていたら途中で固まって卵がご飯にコーディングされなくなって、チャーハンの本来のおいしさがなくなるの!! とにかく、面倒でもなんでもちゃんとやってくれ」
「へーい。……なんだよ、細かいなー」
「聴こえているぞ」
俺はネギやハムを切って準備を終えると、調理を始める。
フライパンに油を垂らす。
大さじ2ぐらいで、結構多めにしておく。
油がいい具合に音を立てて来たら、卵を入れる。
強火でやっているのですぐに卵が固まってきたので、ご飯を投入する。
電子レンジで温めておいたご飯をほぐしていって、ネギやらハムなどそれ以外の材料を投下する。
ある程度炒めたら、仕上げに醤油を入れる。
「なんで醤油入れるの? 醤油入れたら醤油味にならない?」
「醤油はあくまで香りづけのためのものだよ。だからチャーハンそのものにぶっけるんじゃなくて、フライパンに入れているだろ?」
「ふーん」
カレーにだって醤油とか、チョコとか、林檎とか隠し味を入れたらコクがでて上手くなるけれど、大量にドバドバ入れない。
あくまで隠し味は隠し味だ。
それと同じで少量の醤油だけ入れる。
それから混ぜて、パラパラのチャーハンができあがったら完成だ。
「よし、できた」
「えっ、早い。十分経った? とんでもなく早くない?」
「だから言っただろ。チャーハンはすぐにできるんだ。とにかく出来上がった料理テーブルに運んでくれる? 冷たくなる前に一緒に食べよう」
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