第35話 伊達竜子の苦手科目は家庭科である(10)
「いただきまーす」
「いただきます」
作った餃子とチャーハンを食べることになった。
まだ時間的にはお昼ちょっと前だが、朝はあんまり食べることができなかったのでお腹が空いている。
自画自賛にはなるが、作ったご飯は美味しかった。
「うーん。おいしー。流石は家庭教師。料理の腕前も指導者レベルなのかなー?」
「いやいや、料理の家庭教師とかいないから。料理教室の先生とかの話でしょ? それに、今回ばかりは俺も褒めさせてほしいな」
「え?」
「よく料理できたね、竜子。これは俺だけが作った料理じゃなくて、俺達で作った料理だろ」
「だ、だけど、私は全然料理していないでしょ?」
「それでもだよ。手伝いをしてくれただけでありがたかったんだから」
「そっか……」
いや、本当に助かった。
手伝ってくれたのもそうだが、無謀に一人で料理してくれなかったことに。
この様子だと、料理の大事さが分かってくれたようだ。
その大変さも。
苦労が分かればやり方もより繊細になって、上手になるはずだ。
あとは、掃除とか洗濯のやり方も教えておこうかな。
どっちもまともにできなかった気がするし。
竜子はあと少ししかこの家にはいないが、今の内に教えられるだけ教えておこう。
両親が旅行に行ったら、また派遣されてくるだろうし。
とにかく家事を少しでも覚えてくれたら、俺も楽になる。
後始末をしなくて済むんだから。
「よし、決めた!」
「何を?」
なんだ?
いきなり立ち上がって欲しくないんだけど。
まだご飯だって食べ終わってない。
埃が飯にかかったらどうするんだ。
「北島、私と結婚しよう!」
俺は、口に含んでいた水を噴き出す。
「ブブッ!!」
急いで噴いてしまった水を、台拭きで拭き取る。
「……どういうこと?」
「私も料理の楽しさっていうがちょっとは分かったよ。だけどね、やっぱり私が料理を作るより、料理が好きな旦那さんが作った方がいいと思うんだ。大丈夫、全然作らないってわけじゃないから。私も手伝ってあげるからね!」
「全然説明になってないから! なんで結婚を前提に話が進んでいるんだよ! できるわけないだろ! そんなの!」
「……なんで? 北島のおじさんとおばさんにも、ちゃんと話は通しているんだけど。私みたいな可愛い子が結婚相手だったら何の問題もないって」
「あいつらああああああああっ!」
何適当なこと言ってんだ。
本気にするだろ!
よりにもよって、こんな奴に冗談言ったら本気にしちゃうだろ!!
「いや、俺のこと好きでも嫌いでもないとか言ってなかったか!?」
「……そんなの、みんなそうでしょ? 最初から好きになる子なんてどこにもいないってぇ。出会って一緒に過ごして、それからみんな好きになるんだから。お金や将来性とか相性とかそういうのをひっくるめて求婚しているんだから。別にいいでしょ?」
「最初から好きになる子いないって、一目ぼれとかあるだろ?」
「一目ぼれする人は危ないって心理学の教授が言っていたけどね。一目ぼれする人はその子が好きなんじゃなくて、自分が好きなんだって。会話もしていないのに好きになるってことは、頭の中で妄想が膨らんでいるから自分の理想の彼女ができあがっているらしいよ。だから話してみてどんどん自分の理想の彼女との食い違いが起こってすぐに別れることだって多いみたいだしね」
「……めんどくさいな」
「そうだよねー。やっぱり一目ぼれする人は妄想力高いんだよ」
「めんどくさいのはお前だ!」
「ええ? なんでぇ!?」
知識がなくて反論してくる人は、はいはいそうですね、の一言で済む。
なまじ知識がある人間が反論してくると理論を振りかざしてくるから、こっちも反論しづらい。
やっぱり、年下のほうがいいな!
ロリコンとかそういう意味じゃないけど!
「いや、本当に無理。俺も竜子のこと好きでも嫌いでもないって。それで結婚とか恋愛とか考えられない」
「誰だってそうだって。最初から愛し合って付き合う人の方が少ないと思う。告白されたから意識しだすことだってあるんだから。――愛は芽生えるものじゃなくて、育むものだよ」
うううう、うぜええええええええっ!!
ドヤ顔うぜええええええええええっ!!
なんだこの、言ってやった感っ!!
「だからね、結婚しよう」
「待て待て、近いってこんなところ誰かに見られたら――」
勘違いされるって言おうとしたら、
「おにいちゃん」
既に勘違いしちゃう人が帰ってきちゃっていました。
「コ、コウ? な、なんで?」
「おかえりってちゃんと言ったよ。由紀ちゃんとの遊びを早めに切り上げたのは嫌な予感がしたから。予感は的中したけど、これってどういうこと?」
「コウ、落ち着け。お前は酷い勘違いをしている」
浮気した男みたいになっているけど、とにかく弁明しないと。
手汗がすんごいことになっている。
「そうだよ、北島妹。私はただあなたのお兄さんに手取り足取り教えてもらっただけだから」
「は?」
我が妹の鋭くなった視線に、泡を食って倒れそうになる。
「料理! 料理な! 料理をさっきまで教えていたんだよ! 頼むから誤解を生むような言葉をいうな! オブラートに包むんじゃなくて、もっと直接的な言い方で、事実だけを言ってくれ!」
「分かった。北島が、スーパーで顔面を私の胸に挟まれてニヤニヤしていた」
「事実を直接的にいいすぎだろおおおお!! もっとオブラートに包んで嘘を混ぜていけ!!」
「どっち!?」
「――おにいちゃん?」
ゴトン、と音を立ててコウが鍋を取る。
「おにいちゃん、妹には手を出さないくせに、いとこには手を出すの? こ、こ、この変態いいいいいいいぃ!!」
何か変なことを叫びながら、コウが空鍋を投擲してきた。
「空鍋はやめてえええええええええ!」
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