第33話 伊達竜子の苦手科目は家庭科である(8)

「か、間食?」

「そう。メインじゃないみたいだね。日本人は餃子をおかずとして扱うことが多いけど、それは珍しいみたいだね。お菓子とかスイーツとかも点心って呼ばれるみたいだから、それと同列みたいな言い方をするのって、俺達からしたらかなり違和感あるよね」

「確かに……」

 喋りながらも手を動かし続ける。

 野菜炒めで失敗した人参も、餃子の具に混ぜ合わせる。

 もちろん、全部に均等に混ぜるのではなく、数個分の具だけにだ。

 全てに人参が混ざってしまったら、流石に微妙になりそうだし。

「人参も入れていいの?」

「まあ、普段なら入れないけどね。たまにはいいかな。アクセントになっていいし、栄養価も高いだろうしね。緑黄色野菜は」

 竜子の失敗した野菜炒めを有効活用するために、人参も入れているけれど、でも、それだけじゃない。

 アクセントを入れるのは大事なことだ。

 料理でみんなが見落としがちなことに『変化』があると思う。

 同じ触感、同じ味だと、どうしても飽きがきてしまう。

 特に餃子は何十個も同じ味にしがちだ。

 だからロシアンルーレットのタコ焼きみたいな感じで、たまには違う味の餃子を入れたい。

 この前。

 大学の友人とカラオケに行った時に、フライドポテトを頼んでみた。

 その時に感心したのはフライドポテトではなく、備え付けの小皿に入っていたものだ。

 ケチャップ、マヨネーズ、明太子ソース、マスタード、チリソース、カレーソースなどなど、ディップできる様々な種類があったのだ。

 飽きることなく次々に食べられた。

 自分好みのソースをポテトにつけられるし、量も自分で決められる。

 あのディップも真似したいな。

 餃子だったら酢醤油以外にも、ポン酢とか、豆板醤、味噌だれ、ごま油なんかも合うかも知れないな。全部作ってやろうかな。

 うん、想像したら楽しくなってきた。

「よし、包み終わったかな?」

「まーねー」

 それじゃあ焼いていこうか。

「油はやっぱり多めの方がカリカリになっていいからね。焼き色がついてきたら、水を入れるけど、餃子は蓋をしないとしっかり内面まで熱せられないから、蓋をすること。ほら、やってみて」

「はーい」

 それに、油と水を入れると、油が異常に飛んできて危ないしな。

 不慣れな手つきだが、ちゃんとやれている。

「あっ、そのまま餃子をフライパンに投下するんじゃなくて、まずは油をフライパン全体になじませるようにしてくれ!」

「はいはい」

 あっぶな。

 また黒焦げにするところだった。

 油断も隙もないな。

 包丁や火を使っている時は危険だから、ジッと監視してやらないといけないな。

「ふーん。そういえば、内面まで熱が通らないって、ハンバーグもそうだよね。肉厚があるせいで、中心まで熱が浸透していかないわよねー」

「あー、ハンバーグは有名な方法があって、こねた種の中心部分に氷を陥没させて焼くと、内面まで焼けていいよ」

「こ、お、り? 氷を使って熱伝導させるってこと? 味が変わったりしない?」

「しないしない。不安な人は、コンソメ等を凍らせた氷を使ったりするみたいだけど、焼いている途中でちゃんと氷は解けるし、味が劣化することはないよ」

 喋りながらでも調理できるか不安だが、投入する水は用意しておいてやろう。

「他の材料でも内面まで焼けていないかな? って思ったら、普通に電子レンジ使えばいいよ。あと、俺はカレーとか時間かかる料理を作る時に、面倒な時は材料を電子レンジで加熱してから調理すると、かなりの時間短縮になるね」

「へー」

 電子レンジを使えば、カレーも三十分以内で料理することができる。

「水入れるから、ちょっと離れていて」

「はい! お願いします! 先生」

「茶化すなよ……」

 水を入れた瞬間、フライパンに入っている油が拍手みたいな盛大な音を立てる。

「おおお!」

 温め直すのだったら、グリルだって活用できる。

 魚を焼く以外にも、揚げ物やピザなどを温め直すのに使えるし、オーブンの代わりになる。グラタンだって作れるのだ。

 俺は何度か焼き加減をみながら、調理していった。

うまくいった餃子を皿に盛りつける。

「よし、完成!」

「うーん、おいしそーな匂い」

 湯気が立ち込めている。

 焦げ目もいい感じにできていて、美味そうだ。

 せっかくうまくできあがったのだから、この餃子が冷えない内に次の料理に取り掛かろう。

「次はチャーハンを作っていこうか」

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