第32話 伊達竜子の苦手科目は家庭科である(7)
「別に、何を作るかどうかは任せようかな。正直、どうすればいいのか私には分からないし」
「だったら、やっぱりチャーハンと餃子にしよう」
「ふーん。どっちから作るんだ?」
「そうだな。どっちもすぐにできるけど、餃子にしようか」
チャーハンは米を炒めるだけだからすぐできあがるとして、餃子は少々手間がいる。
「竜子は皮に挽き肉を入れる作業をして欲しい。中の具は、俺が作るから」
餃子の皮を作ろうと思えば作れたが、市販の餃子の皮を買った。
そこまで手間もかからないし、一人で料理するならそうした。
だが、竜子と一緒に料理をするとなると話は別だ。
時間をかけずに竜子への負担を最小限にしてあげたい。
材料を切って、竜子に渡していく。
その間無言なのも味気ないので、会話が始まっていく。
「片栗粉は使わないの?」
「餃子をフライパンに敷き詰める時に片栗粉使えばくっつかなくなるから、そのために使うぐらいだよ。皮を作ってみたいなら、今度作ってみようか」
「うっ、やぶへび……」
「思っているより簡単だから大丈夫だよ。麺をこねる方が難しいと思うし」
ねぎ、しょうが、にんにく、にら。
それから、朝の野菜炒めで使ったキャベツやにんじんを取り出す。
「ねえ、本当にこれ、使うの?」
「ああ。もちろん。野菜炒めの野菜は水分が抜けきっているから、餃子の材料を野菜の水切りする手間がなくてすむしな」
もちろん、足りない分はちゃんと買い物で補っている。
「へえ……。水が抜けているからこそ、料理に使えるのか……」
「水切りしなくてもいいけど、一般的には水きりすることの方が多いな。中華料理は水の使い方が上手いんだ。いや、使わない方法が上手いって言った方が正しいかな」
「……どういうこと?」
「中華料理は黄土などの汚染によって水質が確保されていないからこそ、水を料理に使わないというより、使えない。だからこそ、油を使ったり、水分を飛ばしたりして美味しい料理を数々と編み出すことができているといってもいい。お国のデメリットを逆に利用しているんだ。日本でも同じことが言えるけどな」
「それって?」
「日本のデメリットは湿気かな。外国で毎日風呂に入らない人がいるって聴いて日本人は嫌悪するかもしれないけど、湿気があるとなしじゃ、汗のべたつきが違う」
汗がべたつくから、嫌な臭いもでる。
乾燥した場所なら汗をかかないから、汚くならない。
だから毎日風呂に入らなくてもいいのだ。
日本人が風呂好きなのは、湿気のある環境のせいでもある。
「食材が腐りやすいってことだね。納豆とか、豆腐とか。腐ったものを使った料理こそ、日本の伝統料理と俺は思っている」
「いやいや。天ぷらとか、寿司とか日本の伝統料理、和食はあるでしょ?」
「天ぷらはポルトガル、寿司は東南アジア発祥っていう説があるけどね。お茶だって中国から伝わってきたわけだし」
「えっ? 嘘? 日本発祥じゃないの?」
「日本料理なのって、刺身ぐらいかな? 外国人はタコをデビルフィッシュって言って食べなかったっていうし……」
「ふーん。ちょっとショックかも。だってアボカドとかが入っているカリフォルニアロールとか有名だけど、テレビで紹介される時ってだいたい『日本を馬鹿にしている』『こんなの日本の伝統料理じゃない』とか言われているから、完全に日本発祥のものかと思ってた」
「まあ、子どもの頃から寿司は身近なところにあるから、伝統料理だっていう想いは俺にだってあるよ。回転ずしなんて百円で一皿食えるわけだし、スーパーにだってほぼ絶対売っているしね」
俺だってテレビで、面白おかしい創作寿司がでてくると、うぐぅと呻いてしまう。
数年前。
アニメの影響で、たい焼きが爆発的に外国で流行ったことがあった。
俺もテレビを拝見したのだが、中身は小豆ではなく、ベーコンとかチーズとかブラックペッパーなどを大量に詰め込んでいた。
あと、サイズが明らかに大きかった。
全てがアメリカっぽいたい焼きで、小豆を詰め込んでいるたい焼きの方が少なかった。
本家のたい焼きではなかったが、みんながみんな笑顔でたい焼きを頬張っている姿を見て、まあ、これはこれでいいかって思えてきてしまう。
「日本料理のいいところは自分達の舌に合うように、リメイクできるってところだよね。カレーとかラーメンとか立派な国民食になっている。日本オリジナルのナポリタンだって人気になっているけど、本場イタリアンだと、ケチャップかけているだけって激怒しそうだよね。どっこいどっこいだよ」
「確かに、怒っているかもね……」
「餃子だって、本場じゃ米と一緒に食べないことの方が多いらしいしね」
「えっ? 醤油と米って抜群の相性なのに、一緒に食べないんだ!? もったいない!!」
「餃子は点心だからな。日本人なら、そう思うよなあ。外国だって日本料理は味が薄くて美味しくないって思ってるよ。だから日本料理をアレンジする時は濃い味付けになることが多いんじゃないかな」
「……点心ってなんだっけ? 聴いたことあるけど?」
「まあ、間食のことだよ」
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