第31話 伊達竜子の苦手科目は家庭科である(6)

 スーパーで買い物をした後、自宅に戻ってきた。

 コウはまだ帰ってきていない。

 お昼は三島と一緒に食べてくるらしい。

 つまり、竜子と二人きりで昼ご飯を作ることになった。

「なんで、中華料理作るの?」

「中華料理が一番適しているからかな。まあ、鍋でもいいんだけど。季節がなあ……。もうちょっと寒くなってきたら鍋にぶちこんで、味付けしただけで美味しいんだけど」

 固くなったご飯なら、水につけて煮込むだけでかなり元通りになる。

 酒とかでつけて蒸らすのが一般的な米の再生方法らしい。

 水分を飛ばし過ぎて味のなくなったキャベツなんかも、鍋の出汁でカバーができる。

 だが、鍋が美味しいのは冬だ。

 今の季節的には、中華料理の方がいい。

「北島って鍋とか作るの?」

「ああ。鍋はいいよ。野菜たくさん食べられるし、アレンジもいっぱいできるし、なにより再利用しやすい」

「再利用って、雑炊とか?」

「それもあるけど、俺が一番好きなリメイク料理は味噌味のやつかな。最初は味噌汁作って、飽きたらそこに豚肉とかニンジンを入れて、豚汁になるだろ? そこから白菜とかもやしとかきのこ類入れて味噌鍋にして、それから鍋用の麺を入れたら味噌ラーメンになっていい。材料を付け足すだけで、こんなに料理できるんだ。流石はみそ。『さしすせそ』の基本調味料に数えられるだけあって、応用力が半端ない」

「そ、そうか……」

 あれ?

 若干引かれている?

 味噌ってめちゃくちゃ凄いって自分では思っているんだけど。

 塩が凄いのは有名で、冷凍技術が進んでいなかった昔は塩で食糧保存をしていたらしい。

 食料の品質保存はまさに死活問題なので、塩の奪い合いで戦争が勃発したことだってあるらしい。

 だが、味噌だって負けてないと思う。

 味噌は日本料理に欠かせないものだし、栄養価の高いものなのだから。

 軽く見られているかもしれないが、もっと味噌の良さに気がついて欲しい。

「砂糖、塩、酢――ん? 最後が味噌で……『せ』ってなんだっけ?」

「醤油だよ。醤油は昔『せうゆ』って表記だったらしい」

「ああ、そっかー。『せう』は歴史的仮名遣いで『しょう』とも読めていた気がするね」

「……竜子って古典得意だったか?」

「得意というか、まあ、普通かな。大学院じゃ、古典の勉強なんてしていないから基礎的なやつ以外は忘れちゃっているかもねー」

 それもそうか。

 俺も古典の勉強をしていたの、高校までだしな。

 三島がいるから、ちゃんと復習しているだけだし、家庭教師やっていなかったら古典の基礎知識全部頭からとんでいるかも?

「大学院って教育学とかだったよね?」

「まあ、そうだけど。別に教師になりたいから大学院に進んだわけじゃないんだよね」

「それじゃあ、どうして」

「なんとなく、かな。やりたいことが見つからなかったし、猶予期間の延長が欲しかっただけかも。とりあえず、文系で先があるってなったら教師かなって安直な考えでね。……北島は?」

「えっ?」

「人にものを教えていて楽しい?」

「もちろん」

 即答できる。

 だって、教えるってことは自分のためでもあるんだから。

「人に教えるってことは、自分で学ぶってことでもあるから」

「え?」

「人にものを教えるのって理解度が物凄くないとできないことだし、教えている内に理解していくことだってある。分かっていくことが楽しい。勉強ってそういうものじゃないかな?」

「……分かるよ。達成感ってやつだね。私も、勉強が嫌いだったら大学院まで行っていないし、それに、教育学なんて専攻してなかったかもね」

「そうだよ。だから、料理も頑張ろう! 料理だってできない分、達成感ものすごいはずだよ!」

「あ、うん、そう、なるか。なっちゃうね。ハハハ」

 こういう会話一つで、自分の分からなかったことが分かることだってある。

 竜子が何のために進路を選んだのか分からなかったのに、ちょっと話しただけで答えを導くことができた。

 それは勉強している時も、料理をしている時も一緒だ。

 フト、突破口が見える時がある。

 だから、竜子にも料理の楽しさを知って欲しいな。

「とりあえず、献立は?」

「簡単な料理にしようと思っている。献立はチャーハンと餃子で。どうかな?」

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