第28話 伊達竜子の苦手科目は家庭科である(3)
どうしても苦手意識のある科目を克服する時、一歩離れてみるのも一つの手段だ。
そして、勉強から離れて、とっつきやすいものから手に取ってみるのはどうだろうか。
歴史が苦手なら、大河ドラマを観る。
古典が苦手なら、昔の時代が設定の漫画を読む。
英語が苦手なら、洋楽を聴くこと。
もちろん、間違った解釈があってテストで間違えることもあるかもしれないが、これなら頭に入ってきやすいはずだ。
俺も英語の勉強のために、中学生の時は洋楽を聴いていた。
特にビートルズのハローグッドバイが好きだった。
軽快なリズムと中学一年生でも分かるような英単語だったし、歌詞も好きだった。
対比を並べたような歌詞で、簡単であるからこそ人によって感じ方が違う。
俺にとっては、人と人との擦れ違いを現しているように聴こえる。
分かりあえないんだなあ。人っていう生き物は、としみじみと感じる今日この頃。
「えっ、何聴いているの? 洋楽? だったらー、風に吹かれてが聴きたいんだけど」
「……近いから」
俺がビートルズの世界に浸っているのに、イヤホンを横取りして耳につける竜子。
線がアーチを描いて、二人仲良く聴いているように傍から見えているだろう。
俺は死ぬほど嫌だけどな!
イヤホンの線が短いせいで必然的にくっつく感じになる。
肩と肩が当たるぐらい近いせいで、歩き辛い。
外ということもあって周りの視線が痛い。
そもそも、竜子と喋りたくないから、イヤホンをしていたのになんでとるのかな。
横にいる奴がおもむろにイヤホン取り出して、スマホにぶっ刺して音楽聴きはじめたら、気を遣って話しかけないと思うんだが。
そんな常識は竜子に通用しなかった。
どうして並んで歩いているのか。
それは、竜子が、俺の買い物に勝手についてきたことから始まった。
「ええ、北島も行くのー。だったら、私も行くー」
と、謎理論で俺の買い物に同行してきた。
その前に、洗濯しているせいで服がないから、服はどうするかという話になった。
コウの服を貸そうとしたら、胸あたりがキツいんだけど、とコウの逆鱗に触れることを言いやがってその場を収めるのに苦労した。
結局、俺の服の方が大きくてぴったりだったので、竜子に貸した。
シャツがパッツンパッツンで、竜子にしてはエロく見えた。
というか、自分の服を女の子が着ていて興奮しないはずがない。
そもそも、同じベッドで寝て一夜を明かしたのだ。
なんていう興奮。
女の子のいい匂いも嗅げたし、最高のはず。
だけど、相手は竜子なんだよなあ。
女性と行う最初の行為を、竜子にどんどん奪われていっている気がする。
「ねえねえ、ボブ・ディラン入ってないの?」
「お、おい!」
俺のスマホをひったくって、曲を探し始める。
こういう自分本位のところが苦手だ。
そもそも買い物に出かけるきっかけを作ったのは竜子なのに、まるで気にしていない。
ついてくることでお手伝いになるわけでもなく、邪魔になりそうだ。
コウがむくれて私も買い物行くし!! とか言い出したが、三島と遊ぶ約束があるのを途中で思い出したらしく、歯噛みしながら出かけて行った。
「ついたね」
「ああ」
スーパーに到着したので、買い物かごを手に取る。
「ねえ、何買うの?」
「そうだな。とりあえず片栗粉がなかったから、そこから買おうかな」
「ふぅん」
肉も欲しかったけど、生ものだからな。
なるべく鮮度が落ちないように、生ものは最後に買っておこう。
「おい」
俺が片栗粉を探している最中に、竜子が買い物かごにチョコレート菓子を入れていた。
まだカゴに何も入れていないのに、お菓子がぽつんと一個投入されていたらどんなアホでも気がつく。
「あっ、ばれた?」
「小学生じゃないんだから……。欲しいなら別に買ってあげるよ」
「やった! 愛している!」
「ずいぶん、安っぽい愛だな……」
この人年上ですよね?
バイトやっていたか?
奢ってもらってもいいんですけど、そういうつもりは一切ないみたいだな。
手のかかる妹が一人増えたみたいだ。
……しっかし、まさか竜子と買い物へ行くことになるなんてな。
ちょっと想像していなかった。
二人で買い物をしている姿を誰かに見られたらどう思うんだろう。
もしかして彼氏彼女と勘違いされないか?
まあ、大丈夫か。
俺の知り合いは中学高校生が主だ。
だったらスーパーじゃなくて、どちらかというとコンビニへ行くことが多いだろう。
こんなところでバッタリ会う知り合いなんていない。
「げえっ!」
「なに? どうしたの?」
どうしたもこうしたもない。
バッタリと知り合いに会ってしまった。
しかも、今会いたくない人ランキングブッチギリの一位。
三島のお母さんと、出会ってしまった。
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