第27話 伊達竜子の苦手科目は家庭科である(2)

 英語の苦手なカレンは、奥ゆかしかった。

 いじらしくて、保護欲をくすぐった。

 まさに大和撫子といった彼女で、一緒にいると落ち着いた。

 だけど、竜子という俺のいとこはまるで真逆。

 心が荒む。

 今日は俺も、いとこのせいでコウに怒られたし。

 それに、テーブルに並べられた料理のせいで、朝から気分は最悪だ。

「……あの、これは?」

 ベッドから抜け出して、日課である手洗いうがいとか洗顔とかして、キッチンへ向かおうとしたら準備してあった。

 ご飯と、それからおかずを用意してくれているけれど、素直に喜べない。

「見ればわかるでしょおー。ただの野菜炒めだけど?」

「そうじゃなくて、どうして作ったんだよ。俺が作るって言っただろ?」

「私だってやればできるってことを証明したかったんだよねー。ほら、おばさまに、二人のこと任せられているし、このぐらいだったら私がやってあげないと!」

 朝早起きしてやればいいかと思っていたのに、竜子の奴、昨夜の内に既に作っていたらしい。

 料理を作ってくれようとするその気持ちは嬉しい。

 おかずが野菜炒めの一品であることも気にならない。

 だが、味がひどい。

 見た目がエグイことになっている。

 ところどころ焦げてないか? これ?

「野菜べちゃべちゃだし、繋がっているやつもあるし、これ、塩コショウ振り過ぎ。全てにおいてお粗末なんだけど」

「うわー」

 コウが箸で人参をつかむと、ちゃんと斬っていないのか繋がっていた。

 斬り方が雑すぎて、野菜の大きさがバラバラだ。

 これだと味がちゃんと均一にならない。

 しかも、全体的に結構大きい。

 これじゃあ、食べづらい。

 料理の仕方を間違えるのは百歩譲っていいとして、こういった部分で気遣いがおざなりなのは感心できない。

 一人で作って一人で食べるのならば、そこまで気にしなくていいかもしれない。

 だけど、料理は誰かが食べることを前提として料理するもの。

 食べる人間のことを考えながら料理しないと、美味しい料理はできあがらない。

 あと、料理の味を落とす、一番やっていけないことは炒め方だろうか。

 キャベツの水分が出ているせいで、味がなくなっている。

 最早、野菜炒めというよりも、野菜スープといっても差し支えがない。

 もしかして、ずっと蓋をしながら調理していたのか?

 それか、ずっと弱火で長時間炒めていたのか?

 蓋を外して、中火か強火でさっと炒めればこんなことにはならないはず。

 でも、蓋をしながら弱火だったら、普通焦げないよな。

 もしかして、油もまともに使えてないとかないよね?

 油はただ垂らすだけじゃなくて、フライパン全体にいきわたるようにしないと焦げちゃうけど?

 竜子だとやっていそうで怖いな。

「火加減はどうしたんだ? 弱火か? 強火か?」

「さあ。だいたい中火ぐらいじゃない?」

「だいたいって?」

「だって、ほら、ここのガスコンロって中火って書いてないじゃん。IHとかだったら、しっかり中火あるんだけど、これじゃ分からないよね?」

「……中火は、火がフライパンの底に届くぐらいが中火だ。炎が折れてフライパンにくっつくぐらいの勢いの時は、中火じゃないからな」

「あっ、そうなんだ! まっ、次はちゃんとやろうかな!」

 これ、絶対に次は忘れるフラグだろ。

 しかも、おかずだけじゃなくて、米まで美味しくないんだけど。

 料理ならまだ分かるけど、米の炊き方を間違えるとか逆に珍しいだろ。

「あと、この米もどうしたんだよ? 固いんだけど。ちゃんと水の量は量ったのか?」

「えっ、もちろん。だって、水の量って、指関節二つ目まで水を入れるんでしょおー?」

 なにその水の量り方。

 初めて聞いたんだけど。

「……米炊いたことある?」

「あるよ、もちろん。小学生ぐらいの時ぐらいかな? その時はちゃんと指関節二つでよかったけど?」

「小学生と、今じゃ、指の大きさ違うだろ? だったら、指関節で覚えてじゃだめなんじゃないの?」

「あっ、そっかー! ああ、ごめんごめん、忘れてたわ!」

 なんで米すらまともに炊けないんだ。

 土鍋とかで炊いて間違えたなら分かる。

 だけど、炊飯器の釜の内側にはメモリがついている。

 あれがなんのためについているのか、こいつは知らないのか?

 きょうび、一人暮らしの男ですら米ぐらい炊けるよ!

 しかも、最悪なのは米の量。

 炊飯器を覗き見るに、四合ぐらい炊いているだろ。

 固すぎてそのままじゃ食えやしない。

 蒸して水分を取り戻す方法もあるが、この固さを逆に利用するのもありだな。

 冷蔵庫を開けると、竜子が勝手に材料を使っているせいで何もない。

 こんな地獄が今日は昼飯、夕飯と、二回も残っていることを考えるとゾッとする。

 もう任せていられない。

 ご飯、睡眠、運動は、勉強をしっかりやるうえで、適度にやることは必要不可欠なことだ。これが続くようだと、家庭教師にも、大学生活にも響く。

 俺が無理やりにでも料理するしかない。

 そのためには、まず材料を揃えないといけない。

「……とりあえず、買い物行ってくる」

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