第23話 秋月カレンの苦手科目は英語である(7)
「英語って隙間時間に勉強しやすいんだよね。単語帳ってあるでしょ?」
「はい、ありますけど」
おずおずといった様子でカレンちゃんは、鞄から単語帳を取り出す。
学校の教材として使っているである単語帳は、中学生であっても分厚い。
俺と使っていたものと同じだ。
違うところは、英単語帳が綺麗なところだ。
俺が使っていた英単語帳は、ページをめくり過ぎて側面が削れていた。
中学生の頃は隙間時間に勉強しまくったなあ。例えば、休み時間、それに学校の通学路でも読んでいたなあ。
二宮金次郎みたいに、俺は英語の単語帳で英語の勉強をしまくった。
一番勉強したのは別の教科かもしれないが、人生で二番目くらいに勉強した教科が英語になるだろう。
「これを登校時間とか休み時間に、ザッと読むだけで勉強になる。……できれば、その単語が動詞なのか副詞なのかを知っていると、長文を読む時に便利だからやった方がいいかな?」
作業興奮っていう言葉をネットで眼にしたことがある。
意味は、やっていくうちにやる気が出る。
勉強をする気がしない。やる気スイッチを押せばいいとか世間では言うけど、やる気そのものがない――という人には刺さる言葉じゃないんだろうか。
やっていくうちにやる気がでるのはよくあることだ。
やる気スイッチは押すものではなく、自分で造り上げるものだと俺は思っている。
「一単語でも覚えようかなーって、単語帳を開くといい。そうしたらいつの間にか二時間、三時間勉強している――っていう経験ない? 全然やる気なかったはずなのに、机にかじりついて勉強していたなんてよくあったよ、俺は。勉強時間を増やすためにも、英語はかなり効果的なんだ」
ランナーズハイっていう言葉がある。
マラソンを持続的に行っていると、気分が高揚することをいう。
ランナーズハイのメカニズムは、肉体が危機を察知し、疲労に対して鈍感にするために、脳内が勝手にドーパミンを発生させることと一説にある。
勉強にも似たような現象があって、俺は勉強ハイと呼んでいる。
勉強をしていると、楽しくなって止まらなくなることを言う。
そのトランス状態になるためには、窓口の広い英語がオススメだ。
「確かに、ハードルは低いかもしれないですけど……」
カレンちゃんは納得しているけど、それだけじゃないんだよなあ。
「……勉強ができないって言う人の共通項はね、集中力があるかないじゃなくて、勉強ができる環境が整っているかいないかの方があると俺は思っている」
チロリ、と机の上を見やる。
嫌味っぽくなっちゃうけど、言っておかないとな。
「机に物が置いていたら視界に入って気になる。スマホが目の前にあったら、確認したくなる。それは人間の当然の心理だ。だから、家庭教師が来ている時ぐらいは、しまっておいて欲しいかなー」
「す、すいません!」
さっきから気になってたんだけど、机の上にスマホやらぬいぐるみとか置いているんだよねー。
家にいない時にスマホ見ながら、勉強するぐらいだったらまあしかたないかで終わるんだけどなー。
目の前でスマホをチラチラ見られると、集中していないとしか思えないんだよなあ。
どこかにしまっておいてほしい。
カレンちゃんはぬいるぐるみを抱え込む。
そのままどこかへ運ぼうとしているけど大丈夫かな?
「あっ、やばっ! きゃああああああああああ!」
「カ、カレンちゃん!?」
ぬいぐるみをクローゼットにしまおうとしたら、雪崩が起きた。
クローゼットの中には、既にぬいぐるみが入っていたのだ。
着替えている時間が長いと思ったら、隠していたのか。
またぬいぐるみを買ったんだな。
流石に片付いていないと思って、ぬいぐるみをクローゼットに隠していたけど、どれだけ積んでいたかを忘れていたってところかな?
しかし、このままだと勉強がままならない。
まだ時間はたっぷりあるし、少しばかりバイトをサボっても大丈夫だよね?
これも勉強するためだし。
「あー、ちょっと一時中断して掃除しようか」
「す、すいません……」
ぬいぐるみの下敷きになってるんですけど。
まあ、とりあえず、恥ずかしがっているカレンちゃんの手をつかんで引き上げた。
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