第20話 秋月カレンの苦手科目は英語である(4)
「日本語になくて、英語にある発音で有名なやつといえば、これかな?」
さらさらと、英単語を書く。
背後から書いたせいで、俺の腕がカレンちゃんの肩に触れる。
「は、はい……」
カアア、と顔が赤く染まる。
やっぱり、人見知りだからか接近されることに慣れてないみたいだな。
「birth」
カタカナ表記だと、バース。
実際に発音すると、ヴウァースッ、みたいになる。
大げさに言うとね。
「バースデイの意味が誕生日だから、バースの意味は?」
「誕生」
「うん、そうだね。他には出生とか出産とかの意味があるね。ここの発音を記号で書くとこうなる」
birthの末尾に[θ]を書いてあげる。
「歯の間から空気を送り込むかのように――スッ、スッ。音があんまりでないように、はい繰り返して」
「えっ?」
「繰り返してみて、スッ、スッ」
「……スッ、スッ」
そうそう。
発音するのが大事なんだよなあ。
「それから、これ。『read』読むって意味だね。ちなみに過去形は『readed』じゃなくて『read』。ただし、読み方はレッドね。読み方の問題は出ないだろうけど、過去形が特殊だから試験にかなり出やすいから憶えておいた方がいいよ」
こういう初歩的なやつって忘れた頃にでてくるから、ケアレスミスしてしまうことがあるんだよなあ。
少し脱線してしまったがreadの最初の方に丸を付ける。
[r]は巻き舌で発音する特殊なものだ。
「舌を喉の奥まで引く。丸めるみたいにした舌を出して、アール、というより、アァル。それじゃあ、続けて」
「あ、あぁる」
「もっと自信を持って」
「あ、アァル!」
俺はちゃんとカレンちゃんが舌を巻いてくれているか確認する。
それが分かっているのか、カレンちゃんも口を大きく広げて見せてくれる。
なんでだろう。
ただの発音練習しているだけなのに、舌を動かしているのがエロく見えてしまうのは。
俺、疲れている?
でもまあ。
ちゃんとやらなきゃ!
これは重要なことだから、何度もやらせないと!
俺がカレンちゃんの舌の動きを何度もみたいわけじゃないからな!
あくまで、これは授業のため!
カレンちゃんのためだ!
「うん、いいね。でも、もう一回繰り返そうか」
カレンちゃんは復唱してくれる。
前髪の隙間から戸惑いながら視線を動かすのが分かる。
「あ、あの……」
「ん?」
カレンちゃん、ちょっと発音しただけで息も絶え絶えになっているんだけど。
人とのおしゃべりさえあまりしないせいか、発音したただけで疲れているな。
大変だろうけど、ここで頑張らないと英語の成績は上がらない。
「こ、これって、意味あります?」
「うーん。これが役に立つ時って、単語を思い出せない時に役に立つんだよね。おぼろげに憶えていても、単語のスペルを完璧に憶えていない。そんな時に発音を覚えていると書ける! って言う時が必ず出てくる。でも、そこで発音の練習を怠っていると、出てこない。間違った単語のスペルが出てくる。それを防ぐためにも日々の発音は大事だし、正しい英語の発音を学ぶためにもリスニングは超重要なんだ」
「へえ……」
「どうしたの?」
何かを考え込んでいるけど、何か言いたいことあるのかな?
「えっ、いや感心したんです。そうやってちゃんと考えているだなって」
「……もしかして俺を試したの?」
「いえ、あの、そういうわけじゃないんですけど……。ただ、正直、自分の教えていることが分からないで教えている先生っているじゃないですか。そういう先生に習っているとやる気失くすんですけど、せ、先生はちゃんと答えてくれるから! だから、先生のことはす、好きですよ!」
「そ、そう?」
なんかあんまり褒められている気がしないんだけど。
しかし、最近の子は変なところが理屈っぽいな。
カレンちゃんだけかもしれないけど、目上の人とか関係なしに反論してくる。
ズバズバ意見が言えるのはいいけど、俺が学生時代の頃はまだ年功序列の意識が強かったから先生に反論なんてあんまりできなかったな。
でも、反論でもなんでも自発的に話しかけてくれるのはいい傾向だ。
授業で一番やってはいけないのは、ただ教科書を読み上げるだけの授業。
あんなの寝てくださいって言っているようなものだ。
学生時代はそういう授業の方が楽だから好きだった。
逆に、生徒をあてたり、間違えた人を立たせたりする先生は陰険だと思って嫌いだった。
でも、学力が上がったのは後者の先生だった。
適度な緊張感があるから授業に集中できたし、頭に入った。
こうやって議論するみたいに話す勉強方法は、絶対にいいと俺は確信していた。
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