第19話 秋月カレンの苦手科目は英語である(3)

「カレンちゃんは教科書を見ただけで覚えることってできる?」

「できません。できる人っているんですか?」

「いるよ。その力のことを瞬間記憶能力――カメラアイっていわれるものだけど、そういう人は実際いる。俺の友達にもいて、そいつは東大に行ったね。見たものを全部記憶できるんだから、勉強には絶対有利だよな」

 この世に才能の有無なんてないって言う人はたまにいる。

 でも、そういう人は、自分が天才か、もしくは周りにそういう人がいなかっただけの話。

 俺は昔から周りが頭のいい人ばかりだったからこそ、成績の底上げ方法を必死になって考えた。

 頭のいい人間が思いつかないような、才能がない人間しか思いつかない勉強方法を編み出した。

 決してその努力が報われた訳じゃない。

 日本一の大学に入れたわけじゃない。

 でも、かつての努力があったからこそ、俺は家庭教師になれた。

 自分の才能のなさを自覚できたから、苦手科目で苦しんでいる生徒の気持ちが分かるようになった。

 凡人で良かった。

 天才じゃなかったらカレンちゃんたちには出会わなかった。

 苦しんでいる人を救えなかったから。

 伸び悩む気持ちが分かるからこそ、カレンちゃんには弱者のための兵法を叩き込んでやりたい。

「うん、だったら勉強ができるようにカレンちゃんはどうする?」

「……書いて覚える?」

「そうだね。だけど、それでもできなかったら?」

「もっとする」

「それも大事だけど、もっと簡単に覚える方法がある。それが、声に出すことだね。声に出しながら書いていく。だけど、もっと簡単に憶える方法は?」

「……分からないです」

 フルフルと首を振る。

 素直だな。

 そういうところは、もっとコウも倣って欲しい。

「聴くことだよ。見て、書いて、声に出して、聴く。五感を使えば使うほど、効率的に物事を記憶することができるんだよ。だからリスニングは絶対にやった方がいいんだ」

 リスニングの点数を取ることがゴールじゃない。

 むしろ、そこからがスタートだ。

 リスニングを鍛えることは、英語の基礎力を上げることに繋がる。

 それに、重要視している理由はそれだけじゃない。

「リスニングの配点って大体20点ぐらいなんだよね。で、どれだけ英語が苦手な人でも毎日やれば満点はとれるようになるぐらい、リスニング問題は簡単なんだよ。だから、絶対にやった方がいい。英語はリスニングで差がつくんだ」

 難しいところはみんな分からない。

 点数は取れない。

 そこで点数がとれるのが理想的だが、英語が苦手なカレンちゃんは誰もが取れるところで頑張った方がいい。

 みんながリスニングを重要視していないからこそ、点数差がうまれるはずだ。

 リスニングは普段からやっていないとできない人って結構いる。

 ケアレスミスも、英語のテストにおいてリスニングが一番多いはずだ。

「他の設問ではじっくり自分のペースで勉強すればいいけど、リスニングは一発勝負。聞き逃してしまったなんて言い訳にならない。リスニングへの集中力は特訓しないと身につかないんだ」

 こればかりはカメラアイがあってもどうしようもないところ。

 数分間集中するのは習慣づけていないと、案外難しいものだ。

 一説によると、人間の集中力の限界は十五分と言われている。

 その限界ギリギリまで集中できるかどうかは、これからのカレンちゃん次第といったところだろう。

「うーん」

 うなりながら悩んでいる。

 そこまで悩むようなことじゃない。

 英語ができないのはむしろ当たり前のことなんだ。

「そもそも、日本人が英語をできないのにはちゃんと理由があるんだよ」

「それって?」

「それは、英語には日本語には存在しない発音があるからなんだ」

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