第12話 北島幸の苦手科目は体育である(6)

「コウの中学のバレーのサーブって確か、前からサーブしていいんだったよな?」

「うん。できる人は所定の位置から、上でも下からでもサーブしてもいいっていうルールになっているよ。まあ、大半の人が前に出て下からサーブするけど……」

 まあ、サーブが入らなかったら試合にならないしな。

 サーブはそんなに練習しなくていいか。

「じゃあ、トスとレシーブだな。トスの方がまだできてたから、レシーブからやってみるか」

「……わかった」

 自信なさ気に構えるコウに、ボールを軽く投げてやる。

 だが、やはりレシーブはてんで駄目だった。

 いろんな方向に飛んでいき、ボールがコウのはるか後方へと行ったときは逆に才能あるんじゃないかとさえ思えた。

「動き方だめだな」

「しょうがないじゃん……。腕の振りとか分からないんだもん」

「違う。バレーで大事なのは下半身だ。コウは腕だけを意識し過ぎなんだよ。レシーブは体全体でやらないと」

 腕だけの力でレシーブしようとするから、変な方向へ行くのだ。

 落ち着いて、どっしりと構えることが大事なんだ。

「腰が引けていたら、レシーブができないんだよ。ボールは正面で捉えて、腰はどっしり構える」

 さっきからコウはベストプレーではなく、ファインプレーばかり気にしている。

 見ているのは俺しかいないんだ。

 そんなにいいところばかり見せようとしなくていいのに。

 なんで、そんなに頑張っているんだ?

 プロの選手が床スレスレのボールを片手で上げるようなテクニックを見せるが、あんなのはできなくていい。

 とにかく、ボールの正面に立つ。

 不格好でいいので、構えはそのままのまま前後左右にスライドするだけでいい。

 蟹歩きみたいな感じでな。

 同じ型のまま反復練習した方がよっぽど上達する。

 とまあ、そのはずなのだが、あまりうまくいっていない。

 しかたないか。

 今までとは違う根本的な直しだからな。

「コツは、自分がバネになるイメージだな。トスを上げる時も、レシーブする時も、一端自分の身体で受け止める感じ。トスはもう、ボールを持つぐらいの勢いだな」

 へっぴり腰になっているので、腰に手をやってなおしてやる。

「こうだよ、こう」

「うきゃ!」

「なんだよ、ちょっと触っただけだろ」

「な、なんでもないしっ!!」

「あ、そう?」

 その割には猿みたいな声だしてたな。

「ボールが手に当たった瞬間、腰を引いて、そう、そう」

「…………」

 コウは黙々とトスの練習をしていく。

 黙りこくっているが、それだけ練習に集中してくれるているってことだろう。

 だんだんよくなっている。

「こ、こう?」

「おお」

 手を放そうとすると、コウが腕を握って放さない。

 へえ。

 なんだかずっと俺と接触するのを嫌がっていてみたいだけど、コウもやっとやる気になってくれたか。

 俺のことは嫌いになってもいいが、スポーツのことは嫌いになって欲しくない。

 だけど、おかしいな?

 なんだか放してくれないんだけど。

 このままじゃ練習にならない。

 俺が力を入れて振りおうとすると、コウが振り向いて潤んだ瞳で観てくる。

 なんだ?

 何がしたいんだ?

 何かを訴えるような眼に、俺も黙りこくってしまう。

「あの――」

 何かを言いかけた瞬間に、ピンポーンとチャイムが鳴る。

 びくっとコウは俺の手を放す。

「い、いいところだったのに……」

「え?」

「なんでもないし!!」

 コウはプンスカ怒りながら、家へと戻る。

 いいところってどういうことだろう?

 あっ、そっか。

 練習が中途半端なところで中断されたから、腹が立ったんだな。

 なるほど、なるほど。

 やる気満々ってことだな。

 まだ水泳のやり方を教えてやっていないから、明日はちゃんと教えてやろう。

 いい傾向だ。

「はあ」

 ……それにしてもこの時間帯に来客か。

 新聞や宗教の勧誘なら迷惑この上ないが、そうではないだろう。

 いとこが来たに違いない。

 どうか少しは成長していますように。

 俺は祈りながらいとこを出迎える。

 その祈りが決して神様に届かないことを知りながら。

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