第09話 北島幸の苦手科目は体育である(3)

 そもそも、どうしてスク水でお風呂に入っていたのか。

 その答えは、水泳の練習をしていたかららしい。

 そういえば、コウは泳ぐのが苦手だったな。

 いや、泳ぐのだけじゃなく、体育は全般的に苦手だったはずだ。

 だからといって家のお風呂で練習するなんて、あまり効果がないような気がする。

 だが、その勤勉さは悪くない。

 努力しようとする姿勢は大事だ。

 でも、広いところで、せめて足をのばせるところで練習した方がいい。

 ということで。

 水泳は、今度プールで教えることになった。

 明日がいいかな?

 鉄は熱いうちに打てというし、本当だったらやる気のある今日教えてあげたかったが時間が時間だ。そうもいかない。

 丁度今、両親が旅行に行っているのでプール行った後に夜遊び! 美味し物を買って上げて少しでもお兄ちゃんの株をあげてやろうと画策していたけど、俺の魂胆は見破られていた。

 親はよりにもよってあのいとこを呼んでいたのだ。

 なんで、あの人を呼んだのか。

 親曰く、頼りになるわよねー、しかも、あの子、あなたのことウフフとか面白いことが起きることを期待するかのような笑みを浮かべて旅行へ行ったけれど、残される方は不愉快だ。

 俺はもう大学生だからコウの世話はちゃんとみられる。

 はあ。

 だというのに、親は何も分かっていないよ。

 むしろ、あの人の世話をしなきゃいけない分こっちが苦労するっていうのに。

「準備できたけど」

 家の庭。

 コウが学校指定の体操服に着替えて、ボールを持ってきた。

 さっきまで三島に勉強を教えていてへとへとだが、スポーツなら身体を動かすだけなので楽だ。

 どうしても教えて欲しいと懇願してきたので、教えてあげることにした。

 どういう心境の変化か分からないが、俺とコミュニケーションをとってくれるならなんだってしよう。

「水泳以外だと、苦手なのって球技なんだよな?」

「うん。バトミントンとかテニスとか卓球とかその辺はまだなんとかなるけど、こういう大きなボールを使う競技全般は無理!」

「つまり、サッカーとか、バレーとか、バスケか」

 柔道とか剣道とかと違って、球技は球を扱うもの。

 身体の使い方は生まれつき知っているけど、球技は才能がものをいう。

 だからといって、コツがないわけではない。

「とりあえず、準備運動しようか」

「ええ……。必要ないと思うけど……」

「だめ。準備運動は自分の身体を壊さないために、絶対に必要だから!」

「……はーい」

 中学生はまだ身体ができていない。

 運動っていうのは、思っている以上に身体に負荷をかけるものだ。

 事前に負荷をかけることによって、本番の大きな負荷にも耐えられるようにしなければならない。

 大学の友達なんか、二十代なのにぎっくり腰になっていた。

 俺もしっかり準備運動しなければならない。

「うー」

 コウが地べたに座りながら、足のつま先を目指して指を伸ばしている。

 だが、届いていない。

 膝頭をちょっと超えたぐらいだ。

「まじか……」

 固いなんてものじゃない。

 石膏かなにかか?

「これ以上は、むり……」

「こら、勢いつけてやるな。準備運動はゆっくりやるんだよ」

 そんな雑なやり方じゃ身体は柔らかくならない。

 ゆっくりと。

丁寧すぎるぐらいがちょうどいい。

 どんな運動でも柔軟性は必要となってくる。

 仕方ないから手伝ってやるか。

「準備運動はお風呂上りにするのが効果的だからな。今日からなるべくやるように」

「ええっ、やらないといけないの?」

「ちゃんとやれよ。サボるなら俺が監視するからな」

「えっ、じゃあサボるね!」

「なんで元気よくサボり宣言!? 嫌がらせしすぎだろッ!!」

 なんで嬉しそうなんだよ。

 俺の手を煩わせるが楽しいのか?

「うん、はっ、うっ、む、むりぃ」

「……頑張れ」

 艶っぽい声に気まずい思いをする。

 AVとかできいたことのあるような声だ。

 しかも、幼い中学生がいうんだから、そのギャップでいちころになりそうだ。

 相手が、妹じゃなければの話だが。

 別に欲情しているわけじゃないが、こんなに密着するのは久しぶりだからか恥ずかしい。

 後ろから肩に手を当てて、伸びをするコウの手伝いをする。

 強くやり過ぎても弱くやり過ぎても意味がない。

 細心の注意を払ってやっているせいで、五感が敏感になる。

 男の骨ばった肩とはまるで違う、妹の方は陶磁器のようになだからな線を描く。

 密着しているせいで匂うシャンプーの香りは、当たり前だけと俺と同じだ。同じはずなのに、どうしてこんなにいい匂いがするんだろう。

「は、うん、はっ、あっ、あっあん、つ、つらい」

「あと、二秒だけな」

 え、えろいな。

 わざとこんな言い方しているわけじゃないんだろうけど、速めに切り上げたい。

 塀はそんな高いわけでも分厚いわけでもない。

 ご近所に変な噂が出回って欲しくない。

 そろそろ切り上げようか。

 もう十分に準備運動ができた。

「おわり」

「はあー疲れた!」

 ばたん、とまだ準備運動しかしていないのに仰向けに倒れる。

 普段から運動していない証拠だ。

 本当に疲れているようで、玉のような汗をかいている。

 汗のせいで白いブラが見えてしまっている。

 さっき肩を触った時にも、ブラに指が触れてしまっていた。

 普段から洗濯を手伝っている俺としてはいつものこと。

 妹の下着だってたまに洗濯バサミに挟んで干している。

 なのに、コウが着ているのを見ると、顔が赤らんでしまう。

 どうしてだろうな。

 準備運動を熱心にやり過ぎたせいか?

「さて、準備運動も終わったから、そろそろ始めるか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る