第08話 北島幸の苦手科目は体育である(2)
「最近、学校はどうなんだ?」
「普通。というか、久しぶりに会って会話の仕方が分からない、親戚のおじちゃんみたいなその質問なに?」
「グッ、お、おじさんか。大学生って中学生から見たら、そうなのか?」
俺から見たら女子中学生とか輝いているもんな。
これからどんな夢を持って人生を歩むことになるのか。
あいにく、俺は何も持てなかったし、何者にもなれなかった。
大学生になったもなんとなく。
就職に便利かなって思ったぐらい。
夢なんて何も持っていない。
というより、持てなかった。
何をやっても打ちこめなかった。
一等賞をもらえなかった。
何もできなかったら、勉強に打ち込んだ。
だけど、勉強でも一番になれなかったから、教える側に回った。
凡人である自分の能力を高めるよりか、才ある他人の能力を高める方がよっぽど効率がよかったからだ。
「そうかな。いつも同じことばかりしていて学校なんて面白くないのに、大人って学生時代は一生の宝物。青春は今だけのものだからキラキラしているでしょ? っていう感じでそういう質問してくるけど、そんなにいいものじゃないんだよね」
「さ、さすがはコウ。学年主席で苦手科目がないだけあるな。頭が良さそうな人がいいそうだな。中学生とは思えないよ」
なんだ……。
俺って、ただの懐古厨か。
俺だって子どもの頃は大人にすごいね。
若いのはそれだけで財産だよ。
そんなことを言われ続けて辟易していたものだけど、俺もそうなっていた。
これが老害ってやつか?
「私は頭なんてよくない方がよかったなあ……」
「なんで? 頭がいい方がいいだろ。もしもコウに分からないところがあったら、俺が教えてあげたんだけどな」
「……だからだよ」
「え?」
「なんでもないしっ!! それよりさー、今日も由紀ちゃんのところに行っていたの?」
「ん? なんでいきなりその話? 繋がってなくない?」
「繋がっているの!! 全部一緒の話でしょ!! どうして分からないの!?」
いや、誰も分からないだろ。
情緒不安定過ぎるだろ。
やっぱり、このぐらいの年代の子は何を考えているのかさっぱりだ。
ちなみに。
三島とコウは同級生で交流があるらしい。
三島があることないことコウに吹き込むせいで、コウがぷんすか怒るので止めて欲しいのだが止めてくれない。
なんで三島はコウに余計なことを言うのかな。
二人は仲が悪いわけじゃない。
むしろ親友といってもいい。
それなのに、どうして俺に関することは煽るようなことを言っちゃうのかな、三島は。やっぱり俺のことをからかうのが好きらしい。
こうして家族仲が悪くなるので勘弁してほしいのだが。
「まあ、行ったよ。だって、バイトだしな」
「何かいいことでもあったでしょ?」
「えっ、なんで? 別にいいことなんて」
「にやにやしている。鼻の下伸びてる。気持ち悪い」
「そ、そんなことないんじゃないのかなあ!?」
生徒である娘さんに抱きつかれたり、その母さんには手で擦ってもらったりしたことを思い出して、無意識的ににやついていたのか!?
俺のだらしない顔を見やって、コウは手の爪を噛む。
「このままじゃまずい……」
「なにが?」
「だからそれは――あっ!!」
ザバァンッ!! と波立つのは、コウが立ち上がったから。
ええっ……見えてますけど。
というか、あれ?
生えて――いない?
どこが? と聴いてはいけない。
質問されても答えは――沈黙、としかいいようがない。
綺麗、だ。
え、生えていないってことありえるのか?
ちょっと生えていないどころか、まったく生えてない。
不毛地帯だ。
成長期になっていないのは、胸だけじゃない、あそこもだったのか。
色々なところがつるぺただなー。
こういうのが好きな男の人もいるんだろうなあ。
「そうだ! まずい! まずいことがあるんだよ!」
「……まずいことがあるにしては、嬉しそうだな」
「は? そんなわけないし! 私にも苦手なものがあった! だからじっくり丁寧に教えてよね! 由紀ちゃんにはどうせ、よこしまな感情を覚えながら教えたんだからいいでしょ!?」
「そんな感情もってないよ!! というか、お前に苦手なものなんてあったか?」
コウは俺の肩に手を置いて力説する。
「私に体育を教えてよね! 身体を使って!!」
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