第4話

アーサーはそのうちに街の真ん中に塔を建て始めた。


「この塔を天の頂きに届くまで築き上げ、神に一矢を報いてやろう」


私は頭を抱えた。一矢を報いるとはどういうことなのだ。私が一体何をしたというのだ。

私はただ彼らの幸せのために死力を尽くし、彼らが間違いを犯す都度、尻拭いをしてきたというのに。

今となってはアーサーとアーサーに洗脳された国民たちは、私の教えを否定し、自己中心的な法律を造りだし、自分たちで欲の限りを尽くし、その自分たちの罪が招いた結果である衰退の一路を「神のせいだ。あんたがこの世界をこんなにした」と口を揃えて訴え初め、自分たちの力を誇示し自分たちの自己顕示欲を満足させるためだけにこの塔を建てている。

塔の建設費には莫大な費用を要する。

国の財政を更に圧迫し彼らの生活はより貧するだろう

どうして自分で自分のクビを絞めるようなことをするのか。

そして何故自らが招いた結果である不幸を私のせいにするのか。

私は彼らに対して良いものだけを提供し続けたのにも関わらず、彼らはそれを否定し、悪しき文化、悪しき思想を取り入れ、自滅の道を突き進む。

このまま放っておけば人類は滅亡するだろう。

私は神の力だと認めざるおえない方法で塔を崩壊させることにした。


――その日、朝から世界は闇の中にあった。

分厚い雲で太陽の光を遮断し、その雲の中から低温の唸り声が響く、響く。

預言者が塔の前で叫び狂う。

「見よ!神の怒りだ!我々の背きの罪は重い!」

私は雷を用いて塔を崩壊させることにした。

なんでも「かみなり」の日本語の語源は、昔、雷は神が鳴らすものと信じられていたため「神鳴り」と呼ばれたらしい。私の怒りの声を響かせよう。

昼になり、夕方になっても天は雲が何重にも重なり、光を遮断し暗闇が続く。

私は唸り声を止めなかった。

塔を建築していた民達は不安になり、一旦建設を中止し、地上に降りてきた。

預言者は狂ったように神の怒りだと叫び続け、民達は不安気な顔で空を見上げている。


――刹那、目が眩むほどの光が一瞬世界を包んだ。人々は目を覆った。

その次の瞬間、まるで天が裂けたかのような叫び声のような亀裂音が鳴り響いた。

民達は耳を塞いだ。耳を塞ぎながら顔を上げた民達が目にしたのは、青白い天から降りてきた竜のような形をした何かが塔にダイレクトに直撃し、爆発音と地響きで国全体が揺れた。

塔は上から下まで真っ二つに裂けて崩れ去り、追い討ちをかけるように青白い、天から投げつけられた歪な槍のようなたくさんの放電が崩れた塔の破片を木っ端微塵に吹き飛ばした。民達は恐れ慄き「神の怒りが降った!」と叫びながら四方八方に逃げ散った。

さすがに恐れをなしたアーサーは10年ぶりに入った祈りの宮でひれ伏し、悔い改めた。

アーサーは地面に顔を擦りつけ、悲痛な声で私に懇願した。

「神よ。私は愚かなことをしました。どうぞ御許しください。慈悲を。どうか私を哀れんでください」

私はアーサーに直接語った。

「アーサー、私はこの世界とあなたを創造した神だ。私に従うなら、あなたを平安と喜びのある道へと私は導く」

アーサーは涙を流し、私を仰ぎ見、感謝の言葉を捧げ続けた。

(などとモニター前で偉そうな私の現実は四畳半のゴミ屋敷に埋もれる、全てを捨てた社会不適応者である)

それから、アーサーは私の命じた通りの政策を行い、世界はまた平和を取り戻し始めた。

私は安堵した。この世界を失うことは決して出来ない。世界を1から作り直すほどの根気は私に残されていない。

だとしたらこの世界の終わりは私自身の死を意味する。

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