幕間にて 知らなかった情報と湧き出る疑問

 ……チクショウ。やっとヤートと戦えるはずだったのに、ばあちゃんに無理やり交代させられた。クソ……恨むぞ、ばあちゃん。…………そういや交代させられた時、ばあちゃんが何か言ってたな。無理やり交代させられたせいで呆然としてたから、よく覚えてねえ。なんて言ってた? 思い出せ……。


『あたしとあの坊やの……違うね。あの坊やの戦い方をよく見ときな。あたしの勘が当たっているなら滅多に見れないものが見れるはずだ』

 

 少し間真剣に考えて思い出したばあちゃんの言葉は、ヤートの事を言っていた。ヤートの戦い方? どういう意味なのか、また考え込みそうになったがヤートの雰囲気の変化を感じてハッとした。ヤートのあの静かに広がる感じは、どこかで……? 疑問はヤートがばあちゃんの攻撃を全て避けた事で、すぐに解けた。


「おい、イリュキン。ヤートのあの攻撃を避ける動きは……」

「気づいたかい、クトー。あれは紛れもなくお祖母様がヤート君に教えたものだよ」

「確か……界気化かいきかだったよな?」

「……よく覚えていたね。少し意外だよ」

「お前の中で俺の評価は、そんな感じだったのか。…………まあ、それは今は良い。界気化かいきかでばあちゃんの攻撃を避けれるようになるんだな」

界気化かいきかというのは自分の魔力を広がり流れやすい状態にするもので、界気化かいきかした魔力を通せばいろいろな自分以外の魔力の流れや相手の思考・記憶なんかも感知できる」


 イリュキンの説明を聞いてヤートの動きを観察すると、確かにヤートはばあちゃんが動くよりも速く動き出していた。それにばあちゃんが動きの拍子や速度を変えてみても、ヤートは反応してるからかなり詳しくばあちゃんの考えが読めてるみたいだな。


「うん、きれいな界気化かいきかだね。私なんかはとっくに追い抜かれている」

「……そうなのか?」

「グレアソンさんの動きについていけてるのが何よりの証拠。要は身体能力の大きな差を無くせるくらいの精度で読めてるのさ」

「ばあちゃんは、まだまだ本気じゃねえ……」

「それはわかってるよ。でも、様子見のグレアソンさんの攻撃とは言え、あそこまで見事に避け続けられるものが、私達の世代でヤート君の他に誰かいるかい?」

「う……」


 イリュキンの質問に反論できない。黄土おうどの奴らも黙っているから、たぶん俺と同じだろう。


「相手の考えが読めるとか最強だろ……」

「そんな単純には決まらないよ」

「いや、考えを読まれたらどうすれば良いって言うんだ?」

「これからグレアソンさんが見せてくれるさ」


 イリュキンに言われ、ばあちゃんとヤートの戦いに視線を戻す。…………何だ? 突然ヤートがばあちゃんの動きに反応できなくなった。ばあちゃんの動きもヤートの動きも特に変わってない。それなのにヤートが反応できない理由はどうしてだ? 


「二人の動きは変わってないよな……?」

「あれはヤートがヤート君のお父さんのマルディさんと戦った時に似てますね」

「ヤート君は村に帰ったらそんな事をしてるんだ。リンリー、その時にヤートが苦戦する理由はわかったかい?」

「ヤート君によると、その時のマルディさんは何も考えずに戦っていたそうです」

「はあ?」


 何も考えずに戦う? 何だそれは?


「たぶんだけど、身体に染みついてる戦い方を反射的に行ってるのかな? 私達にはまだまだ至れない領域の話だね」

「そんな事ができる……のか?」

「グレアソンさんの速さは変わらないのに、相手の思考を読めるヤート君が対応できてないのは一つの証拠になると思うよ。さて、ヤート君はどうするのかな?」

「はあ? 武器が効かなくなったヤートに何ができるだよ……?」

「あなたはヤート君の事を何もわかってませんね」

「うん、その点は私も同感だ」


 いきなり黒の奴……リンリーだったか? そいつとイリュキンに否定された。反論しようかと思ったが、二人はヤートを見ていて、その目は本当に真剣で口を挟めない。チッ……、こうなりゃ最後まで見てやるよ‼︎


 俺がヤートとばあちゃんの戦いに意識を戻すと、ヤートが何でか目を閉じて無防備にばあちゃんの方へ歩いていくという妙な事をしていた。何やってんだと思わず叫びそうになったが、ヤートの事を最後まで見ると決めているから我慢する。


 …………うおおお‼︎ 少しの間向き合った後ヤートが、またばあちゃんの攻撃を避け始めた。ばあちゃんの考えを読んで避けていた時よりは無駄が多いけど確かに避けている。


「イリュキン、ヤートは何をしてるんだ?」

界気化かいきかと何かを併用しているとしか言いようがないよ」

「お前の界気化かいきかでヤートの考えを読めねえのか?」

「今、界気化かいきかを使って戦っているヤート君に、私の界気化かいきかした魔力を放つと干渉して邪魔をしてしまうかもしれない。私は真剣勝負に水を刺すのは二度としないと決めているんだ」

「そうか……悪い」

「交流会の時の事は気にしなくて良いよ。それよりも、また流れが変わったから集中して見よう」


 イリュキンが言葉通り観戦に集中していったから、俺もカッと目を開き二人の動きを一つも見逃さないように身構えた。


 ゴッ。


 ヤートの掌がばあちゃんに叩きつけられると鈍い音が響いた。……絶対にただ掌を叩きつけた音じゃないと思い、ヤートの掌を凝視する。


「あれは……魔力の塊か?」

「どうやらそうらしいね。リンリー、見た事あるかい?」

「…………いえ、少なくとも私はヤート君がああいう魔力の使い方をするのを初めて見ました。それにヤートが接近戦で攻撃するところも初めて見ましたね」


 誰にも見られないところで鍛錬してたのか単に考えていただけなのかはわからないけど、ばあちゃんがほめるくらいだから、実戦で使えるものになってるんだな。クソ……、確実に交流会の時の俺じゃ勝てねえ。あんな自分の考えを読まれて的確に魔力の塊での反撃をくらったら…………。


「ちょっと待て、ヤートは今いくつの魔力制御をしてるんだ?」

「まず界気化かいきか、それと界気化かいきかと併用しているもの、次に掌の魔力塊、あとは強化魔法。私にわかるのは、この四つかな」

「嘘だろ……? そんなの絶対に頭が追いつかねえはずだ」

「いや、大霊湖だいれいこでの戦いでも大規模な魔法を複数制御してたし、魔法ならどれくらい同時に制御できるのか私には想像もできないよ」


 イリュキンに言われて。今でもたまに夢で見る俺を囲む無数の射種草シードショットを思い出した。発動や制御をしやすくする種はあるだろうが、それでもあの光景を実現させたのは間違いなくヤートだ。弱いと同じ意味だった欠色けっしょくなのに誰にも想像をつかない事をする。…………おもしれえじゃねえか‼︎ 必ず追いついて追い越してやる‼︎




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューもお待ちしています。

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