青の村にて 暴走の予防と鍛錬開始

 回復のための食事が終わり三体のところに行くと、鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアの筋肉がはち切れんばかりに盛り上がり目も血走ってるし、ディグリはディグリで身体中から猛毒持ちや寄生種の危険な植物を身体中から成長させているという、どう控えめに言っても暴走寸前の状態だった。本当に危ないと判断した僕は三体を落ち着かせるために腰の小袋の一つから青い実を取り出す。


緑盛魔法グリーンカーペット鎮める青リリーブブルー


 僕が近くにいる事も気づかない三体を青い煙が一気に包み込む。そして少ししてから魔法を解除すると青い煙が晴れて中から、いつもの三体が見えてきた。


「落ち着いた?」

「ガア」

「ブオ」

「ハイ。……ヒドイ姿を見セテシマイマシタ」

「気にしないで。でもお前らが暴走したら、大霊湖だいれいこに潜んでるっぽい奴を見つけて戦う前に青の村が大惨事になるからダメだよ」


 僕の言葉に三体は冷静に落ち着いた様子でうなずく。これなら頼み事をしても良さそうだね。


「これから僕は、兄さんと姉さんを元に戻すためにイーリリスさんから水添えみずぞえの鍛錬を受ける。それが終わるまで大霊湖だいれいこの監視をお願いしても良い?」

「ガ!!」

「ブ!!」

「オ任セ下サイ」

「ありがとう。それじゃあ行ってくる」


 僕は三体に見送られてイーリリスさんのところに戻る。ちなみに広場を出る時に三体を遠巻きに見ていたハインネルフさんを始めとした青のみんなから全力で感謝された。だいたいの人が涙目で僕に礼を言ってきたり心底ホッとしていたので、暴走寸前の三体が相当怖かったらしい。まあ、僕でまずいって思う状況だったから仕方ないね。




 イーリリスさんの家に着くと玄関をくぐり、三体のところへ行く前にイリュキンから教えてもらったイーリリスさんが寝ている兄さんと姉さんを見ている部屋まで歩いていく。部屋の中は入口から見て右の壁の一面が様々な形の器が置かれた棚に覆われていて、入口から見て左の壁も右の壁と同じく一面棚に覆われているけど収納されているのは見るからに古い本だ。


これがイーリリスさんの言ってた水添えみずぞえに関する事が書かれている本なんだろうな。何も無い時ならゆっくり読みたいところだけど今は我慢。そして部屋の入口の正面には大きな窓があり太陽の光を反射してキラキラしてる大霊湖だいれいこがよく見える。


 部屋に入るとラカムタさん・リンリー・イーリリスさん・イリュキンが、部屋の真ん中で頭を窓側に足を入口側にして寝かされている兄さんと姉さんを囲むように座っており、並び順はイーリリスさんが二人の頭の方にいて、そこから時計回りにイリュキン・ラカムタさん・リンリーの順番だ。四人が戻ってきた僕を見る。


「待たせたかな?」

「いえ、大丈夫です。あの三体を落ち着かせてもらうのも大事なので必要ならば待ちます」

「そうだぞ、ヤート。ここにいても感じるくらい暴走寸前だった三体をなだめれるのはお前しかできないんだ。その慎重にするべき重要な役割を急かすような奴はいない」


 イーリリスさんとラカムタさんの言葉に、リンリーとイリュキンも当然の事だと言わんばかりにうなずく。……四人の雰囲気を見る限り兄さんと姉さんの状態に変化はないみたいだから、今のところは僕がイーリリスさんから鍛錬を受ける時間はありそうだね。僕は立ったままイーリリスさんに聞いた。


「イーリリスさん、水添えみずぞえの鍛錬は何をすれば良い?」

「まずはこちらへ座ってください」


 僕はイーリリスさんに促されてイーリリスさんとイリュキンの間に座った。それを確認したイーリリスさんは次に僕の前に左手を掌を上にして伸ばす。


「イーリリスさん……?」

水弾ブルーボール。ヤート殿、よく見てください」


 イーリリスさんの掌の上に水弾ブルーボールが現れる。……これをよく見る? 水弾ブルーボールの見た目は水が球状なってるものだけど、イーリリスさんの制御が並外れてるせいか、表面に波紋が起きたり波打つ事も無い。見ようによってはガラスの球が浮いているようにも見える。……違うな。たぶんイーリリスさんが僕に見てほしいのは、こういう見た目とか形の事じゃないはず。それならなんだ? …………あれ?


水弾ブルーボールの中心部が動いてる?」

「どのように動いてますか?」

「……右回り、次は左回りで、その次は僕から見て手前から奥への回転……かな」

「それだけ見えていれば、かなり筋が良いと言えます。それではこの状態では中の動きがわかりますか?」


 イーリリスさんが言うと、水弾ブルーボールの表面が濃い青色になって中心部が見えなくなった。まだ光を透かせば何か見えるかもしれないけど、この状態になったらただ外側から見ても当然中なんて見えない。僕のこれは無理だっていう雰囲気を感じたのか、イーリリスさんが静かに青く染まった水弾ブルーボールを指差す。


「ヤート殿、この一見何も見えない状態のものの奥底の動きを感じるのが、私の言う流れを知るという事です」

「僕の同調を試しても良い?」

「どうぞ」


 イーリリスさんから許可を得て水弾ブルーボールに同調してみたけど、目で見た時と同じで何もわからない。いかに今までの僕の同調が対象の身体っていう表面的な事にしか認識できていなかったっていう事だね。……これは大変だな。でも兄さんと姉さんが困ってる時に助けるのが弟の役目だから諦めてたまるか。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューをお待ちしています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る