青の村にて 考察と変化

 ジーッとイーリリスさんの掌の上に浮かんでる表面が濃い青に染まった水弾ブルーボールを見る。同調が通じないのは確かめてるから、それ以外の方法で水弾ブルーボールの中がどういう風に動いでるかを見極めないといけない。


 ……要は同調と同じで目に見えないところを認識するって事だよね。うーん、視覚に頼らない方法か。まず思いつくのは聴覚だけど、耳をすませてみても水弾ブルーボールからは何も音が聞こえない。次に嗅覚は水の動きに臭いなんて関係ないから違う。当然味覚も違う。可能性としては残る触覚が一番高いとは思うけど、水弾ブルーボールに一度同調するために触った時は表面から振動を感じなかった。


 薄々感じていたけど、やっぱりイーリリスさんの言う「流れを知る」っていうのは五感で感じる性質じゃないのかもしれない。それじゃあ何で感じるのか? ……イーリリスさんは「自分の意識が流れに乗って運ばれていく」って言ってたな。意識って自分から流れに乗せれるもの? ……今のところ僕には魔力ぐらいしか思いつかない。もし間違ってたらイーリリスさんが言ってくれるはずだし、やれるだけやってみよう。


 僕は緑盛魔法グリーンカーペットを発動する前に腰の小袋から種などを取り出して魔力を通す時のように、自分の魔力を水弾ブルーボールに放ってみた。


「おっ」


 僕の魔力はイーリリスさんの水弾ブルーボールの表層までは通ったけど、それ以上中にはいかない。一応、放つ魔力の量を増やしてみても、水弾ブルーボールの表層に僕の魔力が溜まるだけでやっぱりそれ以上中には進まない。


「ここまでか……」


 ……魔力じゃないのかな? でも、水弾ブルーボールの表層に僕の魔力が溜まったおかげなのか同調した時のような手応えを感じる事ができた。この魔力をただ放つのと同調は何が違うんだろ? 僕が新たな疑問について考えてるとイリュキンが声を発した。


「お祖母様、私のやり方を見せても良いでしょうか?」

「……できるならヤート殿には、このまま自分の感覚ややり方で流れを知る事を体得してほしかったですが、今は時間をかけれないのが残念です。……それではイリュキン、久方ぶりにあなたのを見せてください」

「わかりました。ヤート君、参考になるかはわからないけれど私のを見ていてほしい」

「わかった」


 僕は魔力を放つのをやめて、イリュキンの一挙一動を見逃さないように目を凝らす。まずはイリュキンがイーリリスさんの水弾ブルーボールに掌を向けて目を閉じる。それで……あれ? それだけ? ……イリュキンは掌を向けて目を閉じた以外何もしていないように見える。僕が困惑してたらイリュキンが目を開けた。


「お祖母様、この水弾ブルーボールの中の動きは右回転、停止、もう一度右回転、そして左へ五回転。これを繰り返してます。どうでしょう?」

「イリュキン、正解です。前よりもさらに短時間で静かに流れを感じられるようになっていますね」

「ありがとうございます。……ヤート君、どうかな? 参考になったかな?」


 僕は、イーリリスさんとイリュキンの会話を見て首を傾げていた。これはラカムタさんとリンリーも同じで、どう言って良いのかわからないって感じだ。ただ手がかりはある。それはイーリリスさんの「静かに」という言葉で、つまりイリュキンは僕・ラカムタさん・リンリーには、何もしていないように見えて何かをしていたという事だ。


「……ラカムタさん、ラカムタさんからは僕とイリュキンはどう見えてた?」

「……そうだな。ヤートは魔力を放出して、その魔力が水弾ブルーボールの外側付近で動きを止めていたのはわかったな。イリュキンの方は……正直なところ俺には掌を向けているようにしか見えなかった。リンリーはどうだ?」

「私も基本的にはラカムタさんと同じですが、イリュキンさんの意識が水弾ブルーボールに向いているのはわかりました。私が気配を消して戦ってる時と似た感じだと思います」


 なるほど水弾ブルーボールの中の様子を知ろうとしてるんだから、外見上イリュキンが何もしてないように見えても意識は向いてるのは当然か。あとイリュキンのやっているはずの事は、掌を水弾ブルーボールに向けているんだから掌で感じる触覚か、掌から見えない何かを発して水弾ブルーボールの中の状態を感知してるんだと思う。さらにこの二択を考えると触覚の可能性は、僕が水弾ブルーボールに触っても何もわからなかった事から低いはず。


 僕は欠色けっしょくだから周りのみんなより感覚が鈍いとしても、本来の竜人族りゅうじんぞくの能力における皮膚感覚が、水弾ブルーボールに掌を向けただけで中の動きで起こる振動を感じるくらい鋭いというのはさすがにないと思う。…………それなら掌から放ったものは何だ? やっぱり魔力だよね。


 問題なのはおそらく魔力を発しただろうイリュキンの掌から僕は魔力を感じなかったという事だ。放たれてるはずなのに僕は感じない。……イーリリスさんは「静かに」って言っていて、リンリーは「私が気配を消して戦ってる時と似た感じ」と言ってたな。


「…………もしかして魔力は自分の意思で変えれる?」


 僕は自分の魔力を一度掌に溜め、兄さんと姉さんの意識に同調して失敗した時の僕の意識がバラけて細かくなっていく感じを思い出し、その感覚を掌に溜めている魔力に向けると。正確に言うと魔力を消費した感じはないけど、僕の掌にある自分の魔力が見れない、かな。…………これは僕の魔力が変質したんだな。


 元々、この世界の生物・鉱物などの全てがそれぞれの魔力を持っている。そしてこの魔力は他にもあって、例えば大神林だいしんりんの地中や大気、例えば大霊湖だいれいこの水なんかに宿る大自然そのものの魔力、または世界そのものの魔力と呼べるものだ。今僕の掌に集めてる魔力は、僕という色が薄まって透明と言える世界そのものの魔力に近くなったから見えなくなってるんだね。


 イリュキンのやってた事がわからないはずだよ。世界そのものの魔力なんて当たり前に身近にありすぎて意識できないものだから、そこにあっても見えないんだ。……よし、自分の魔力を世界そのものの魔力に変える事が正解なら、これを水弾ブルーボールに放てば水弾ブルーボールの中の様子がわかるはず。


「……カフッ、ウゲーー」


 世界そのものの魔力に変えた自分を水弾ブルーボールに放った瞬間激しい吐き気に見舞われた僕は、窓の方に移動してから窓の外へと吐いてしまった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューをお待ちしています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る