青の村にて 失敗による消耗と回復のための食事

 はぁ……、はぁ……。遠くで誰かの疲れ切った呼吸音が聞こえて僕の視界がグワングワン回ってる。……というか僕は何をしてたんだっけ? 何かものすごく大事な事……誰かを助けないといけなかったはず……。誰を……?


「…………ん、……ト……ん、ヤート君!!」

「ハッ、…………リンリー?」

「ヤート君、大丈夫ですか!?」


 気がついたらリンリーが僕の顔を見ていた。状況が理解できなくて周りを見るために動こうとしたら、身体に力が入らず僕はガクッと態勢を崩して寝ている兄さんと姉さんの上に覆い被さってしまう。……そうだ。思い出した。僕は兄さんと姉さんの意識の奥底にある異常を確かめようと同調を繰り返して何度も失敗してたんだった。


 僕はとりあえず起き上がろうとしたけどヘトヘトに疲れて自力じゃ動けなくなっており、それに気づいたリンリーが慌てて起こしてくれた。それと近くで見守ってくれていたイーリリスさんが僕の頭になでるように手を置いて話しかけてきた。


「ヤート殿、今はこれ以上ガル殿とマイネ殿の意識に同調するのはやめましょう。このままだとヤート殿が同調の失敗による精神的負担で潰れてしまいます」

「イーリリスさん、それだと兄さんと姉さんが……」

「わかっています。私もお二人を見捨てる気はありません。まずは、ここに近づいてきている方々に今わかっている状況を説明して、その後にヤート殿には水添えみずぞえの鍛錬を受けていただきます」

「お祖母様、それは……」

「その鍛錬を受けたら兄さんと姉さんを元に戻せる?」

「絶対とは言えませんが、可能性は高くなるはずです」

「……鍛錬を受けるよ」

「それではしばらくの間、ヤート殿は休んでいてください。消耗した状態で成果が出るほど甘くはありません」

「わかった。リンリー悪いけど、このままもたれかかってて良い?」

「はい。ガル君とマイネさんのためにも、じっくり休んでください」

「ありがとう」


 僕は体調を整えるために目を閉じる。……鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアの巨体に身体を預けて眠る時の大きな存在に身を任せる安心感とは違って、リンリーにもたれてると良い感じの風に吹かれてるみたいに落ち着くなって考えながら僕は意識が深く沈んでいった。




 次に僕が目を覚めたら天井とリンリーの上半身が目に入る。どうやら僕は運ばれた青の村のどこかの建物の中でリンリーに膝枕されて寝てたみたいだね。


「ヤート君、目が覚めましたか?」

「うん。僕はどのくらい寝てた?」

「だいたい一刻(前世でいう一時間)くらいですね。調子はどうです?」

「運ばれたのに気づかないくらい深く眠ったから疲れは取れてるよ」

「良かったです」

「僕が寝てる間中、ずっと膝枕してくれてたとしたらリンリーの足は痺れてるよね? そろそろ起きるよ」

「私は特に問題ありません」

「ン、ンンッ」


 僕とリンリーが話してたら僕達がいた部屋の入り口の方で咳が聞こえてきて見るとイリュキンと口に手を当ててるラカムタさんが立っていた。咳をしたのはラカムタさんかな? 僕は身体を起こして二人の方を向いた。


「ヤート、起きたか。疲れは……取れてるようだな」

「ぐっすり眠れたからね。……兄さんと姉さんは?」

「二人なら、あれから眠ったままだよ。お祖母様が別の部屋で見てる」

「そっか、それなら早く兄さんと姉さんを助けないといけないな。……よし」

「まあ、待て」


 僕が気を引き締めて立ち上がり、兄さんと姉さんのところに行こうとしたらラカムタさんに止められた。


「何? ラカムタさん」

「疲れが取れても消耗してる事には変わりない。まずは食事だ」

「ヤート君、腹が減っては何とやらだよ」


 二人に言われてから始めてイリュキンが右手に湖草こそうを刻んだものが大盛りになっている皿を、左手にどこかで見た事ある果物がたくさん盛られている皿を持っている事に気付いた。……これだけわかりやすいものが見えてなかったなんて、今の僕はラカムタさんの言う通り疲れが取れてるだけなんだね。


「お腹が空いてきたから食べるよ」

「そうしろそうしろ」


 イリュキンが僕の目の前の床に二皿を置いてくれたから僕は座り直して湖草こそうから食べ始めた。湖草こそうには香辛料が弱めに効いてて食が進む。


「この湖草こそうを刻んだの、前に食べた奴より美味しいね」

湖草こそうを用意したのはイリュキンだ」

「私の用意したものがヤート君の口にあったなら嬉しいよ」

「細かく刻まれてるし香辛料の味付けも良い感じ」

「前にヤート君から譲ってもらった香辛料を、いくつか混ぜ合わせてみたんだ。とにかく食欲が増して食べやすいようにしてみたよ」

「これなら食の細い僕でもスルスル食べれる」

「良かった」


 僕はイリュキンが喜んでる顔を見ながらどこかで見た事ある果物に口をつけたら、一口食べただけでかなりの魔力が僕の身体に取り込まれていく。


「この果物は……?」

「その果物はディグリが生み出したものだな」

「それなら納得だ。……三体はじっとしてる?」

大霊湖だいれいこをにらみながら広場にいるよ」

「三体がキレて本気で動くと大変だから良かった」

「本当にね。ヤート君がガルとマイネに襲われるっていう異常事態にあったとわかってから、三体がピリピリしだして私を含めて青のみんなはヒヤヒヤしてたんだ」

「この後、鍛錬を始める前に一回三体と話しておいた方がよさそうだね」

「そうだな。高位の魔獣三体の暴走はシャレにならん」


 なんかいろいろ大きく動き出したけど、まずは兄さんと姉さんを元に戻すのが第一目標だ。そして第一目標を達成したら兄さんと姉さんに精神汚染をした奴を絶対に見つけ出す。本当は声に出したいけど今は回復に集中してるから心の中で思っておく。首を洗って待ってろ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューをお待ちしています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る