青の村にて 同調と流れ
僕の魔法で殴り飛ばされた兄さんが力無く横たわりピクリとも動かない。ついさっきまで操られてる状態とはいえ、兄さんの力強さを実感してたから複雑だ。また突然襲いかかってくる事を考えて一応拘束している兄さんの身体は触診と同調で確認した結果、骨折や内臓の損傷が無く呼吸も安定している点は素直に嬉しい。
「ヤート君、ガル君の様子はどうですか?」
「打撲はあるけど骨折や内蔵の損傷は無いよ」
「良かったです……」
「本当にね」
「リンリーとイリュキンはケガとか大丈夫?」
「私は大丈夫です」
「私も精神的に疲れた以外は大丈夫だ。後はガルが目を覚まして正気だったら良いんだが……」
「今は気絶してるけど気付けとかで無理に起こしたくない」
「それは……そうだね」
「そちらも無事に終わったようですね」
僕達三人がお互いのケガの有無や兄さんの状態について話し合ってると、イーリリスさんが姉さんを両手で抱いて運んできた。一見してイーリリスさんにケガはないようだ。大丈夫だとは思うけど念のために後で確認させてもらうとして、気がかりはイーリリスさんに抱かれている姉さんだね。僕達が気にしているのを察してか、イーリリスさんは姉さんを兄さんの隣に寝かせてくれたから、すぐに僕は姉さんの状態を確認する。
「……兄さんと同じで姉さんも目立ったケガや傷はない。良かった」
「はい、良かったです」
「お祖母様はケガなどされてませんか?」
「私は大丈夫です。ただ下手にケガをさせるわけにもいかなかったので少々苦戦しました。同じ女性としてマイネ殿、彼女の将来が楽しみですね」
やっぱりイーリリスさんでも姉さん相手に傷つけない戦い方をするのは厄介だったらしい。普段だと自分の姉が褒められたんだから嬉しい事でも、異常時だと微妙な気持ちにしかならないな。僕と同じような気持ちになってるのかイリュキンが空を見上げてため息をつく。
「ガルと戦ってみてヤート君がクトーとの決闘の後に言っていた
確かにそんな事も言ってなとも思うけど、僕は一つの事実が胸の中に大きな影を落としていて、それどころじゃなかった。
「僕は兄さんと姉さんの様子がおかしくなった後、一度身体に同調してるのに異常が残ってるのを見落としてた……」
「ヤート殿、それは違いますよ」
「イーリリスさん……」
「今はガル殿とマイネ殿にかけられている魔法のようなものは二人の意識の奥底に沈んで隠れるように残っていたのです。
わかってたけど改めて第三者から言われるのはグサッとくるね。
「僕の同調じゃ無理か……」
「イリュキンからヤート殿の同調の事は聞いています。おそらくヤート殿は意識への同調を、そこまで得意としていないか慣れていないのでしょう」
「確かに僕は三体や植物がこんな事を言ってるくらいしかわからない。身体の状態は詳しくわかるけど、それぞれの意識に対して深く同調した事はない」
僕の返答を聞いてイーリリスさんは、どこか安心したような表情をした。
「それはある意味正解です」
「……どういう意味?」
「意識に同調するという事は、自分と相手の意識が混ざる恐れのあるとても危険な事なのですよ」
「自分と相手の意識が混ざる?」
「身体を器として、意識をその器の中の水と想像してみてください」
「…………相手の器(身体)の中にある水(意識)に同調するのは、自分の水(意識)を相手の器(身体)の中に入れる事で、その時に自分の水(意識)と相手の水(意識)が混ざるかもしれないって事?」
「そうです。意識に決まった形はありませんし容易く不安定になります。それならば同調で意識同士を直接触れさせた時に意識が混ざらない方が不自然です」
「…………それは怖いね」
「危険な行為だと理解していただけて良かった」
イーリリスさんの話を聞けば聞くほど、相手の意識を詳しく知る同調をしなくて良かったって思えるし、サラッと姉さんの状態を言ったイーリリスさんがどれだけ高度な事をしていたのかに驚いた。
「イーリリスさんは、どうやって姉さんの意識の奥底がわかったの?」
「私は流れを感じました」
「流れ?」
「ヤート殿の同調は動物に比べると小さく静かですが植物という自らの外側に意思を発する存在を対象としていたので、意志の下にある自ら内側に向かう意識の流れを感じた事がないのだと思います。対しての私の感覚は
「それが流れを知る事?」
「そうです。
「イーリリスさんは、流れをどんな風に感じてるの?」
「そうですね……、自分の意識が流れに乗って運ばれていくというのが、しっくりくるような気がします」
イーリリスさんが
「僕の同調だとわからない意識の流れか……」
「いえ、きっと感じ方や使い方の問題ですよ。ガル殿とマイネ殿の全身を巡っている魔力の流れや身体の状態を
「やってみる」
「ただし常に自分は自分であると認識しておく事を忘れないでください」
「わかった」
イーリリスさんの助言に従って、もう一度兄さんと姉さんの身体に触れて同調する。いつもの同調や身体の事を詳しく調べる時にやる深い同調よりも、二人の意識の奥底を知りたいと強く思って静かに同調していく。…………これかな? なんとなくいつもと違う手応えを感じて、この手応えに集中すると僕の意識が引っ張られて端からスーッと細かく小さくなっていく気がしたから同調をとっさに切り上げた。
「ヤート君、大丈夫ですか? 汗が……」
「えっ?」
僕が額に手を当てると激しく運動した後のような汗をかいていた。今までやっていた事よりも、はるかに慎重で繊細にする必要があって難しいし大変だ。でも、兄さんと姉さんを元に戻すためにやり遂げてみせる。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューをお待ちしています。
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