青の村にて 青の畑と異常事態

 ディグリの広げた葉の陰で休みながら三体と話をする。あー、大霊湖だいれいこから吹いてくる風が気持ち良いから眠くなってくるけど、この後に青の村の畑を見ってほしいって頼まれてるし寝るわけにはいかない。名残惜しいけど行こう。


「ソロソロ行キマスカ?」

「うん、頼まれ事があるからね」

「ガア」

「大丈夫。畑を見るだけだよ」

「ブオ」

「もちろん何かあったら呼ぶってば」

「ソレデモ、オ気ヲツケテ」

「ありがとう」


 三体と別れてから門番の人に場所を聞いて青の村の畑に行った。途中でイリュキンと合流して向かい、見えてきた畑は、うねが六本あり長さは八ルーメ(前世でいう八メートル)くらいの広さだった。


「これが青の村の畑か」

「黒の村の畑に比べたら、かなり小規模だよ」

「でも、ここだけじゃないんだよね?」

「確かに大霊湖だいれいこの浅瀬に畑のようなものがあって、そちらはここの五倍は広いかな」

「そっちも見れる?」

「もちろん、ただ大霊湖だいれいこの方は基本的に生えるまま増えるままに任せていて、手入れも密集し過ぎないよう適度に間引くくらいしかしてないから畑と言えるのか私にはわからない」

「人の手が入ったら畑って呼んで良いと思うよ。それに大霊湖だいれいこの豊富な魔力と水っていう環境があるんだから手入れが最低限になるのは仕方ないよ」


 僕はイリュキンと話しながら植えられてる薬草の状態や土の状態を確認しようとして、そういえば肝心な事を聞いてないのに気づいた。


「聞くのを忘れてた。ハインネルフさんには畑を見てほしいって言われたんだけど、イリュキンに改善点や問題点があったら言えば良い?」

「それで大丈夫だよ。ああ、特に奥の薬草の状態を教えてほしい」

「奥の薬草……」


 イリュキンに言われた方を見たら他と比べて明らかにワサワサと大きく成長してる薬草の一群があった。……あれ? なんか見覚えのある薬草だな。


「あの奥の薬草はヤート君からもらった薬草の種が成長したもので、手入れは欠かしてないけれど異常がないか見てほしいんだ」

「見覚えがある薬草だなって思ったらあの時の奴か。イリュキンの言い方からすると他の薬草よりも優先してって感じだね」

「初めて育てる種類だから心配なんだ」

「その気持ちはわかるけど、とりあえず全部見させて」

「よろしく頼むよ」


 僕は青の畑と植えられている薬草の状態を確認していく。まず色は全体的に濃い緑でムラはほとんどない。次に葉は水々しく葉の裏や茎なんかも見たけど害虫はいなかった。畑の土に目をやっても雑草はないし、よく耕された良い土だ。土の湿り気からも適度に水やりがされてるね。結論として青の畑は手入れの行き届いた立派な畑だし、植えられてる薬草も良い状態だ。


「畑は良い状態だし、全部の薬草が十二分に育ってる」

「ふー、良かった」

「奥の薬草とそれ以外の薬草の成長の違いは、これから代を重ねて交配が進めば差はなくなると思う」

「わかった。ヤート君の言う通り今後に期待するとしよう。……そういえば一つ気になっている事を聞いても良いかな?」

「何?」

「なんで黒の村に畑があるんだい? 大神林だいしんりんで探せば良いんだから、わざわざ村の中で育てる意味が薄いと思うんだけど……」

「前は、ほとんどのものを大神林だいしんりんに入って探してたみたい。でも今だと畑で採れるものの品質が上がってて探すよりも育てた方が効率良いんだってさ。まあ、畑で育ててないものは大神林だいしんりんで探すんだけどね」

「なるほど、よく使うものは村の中で育てた方が確かに効率的か」

「そういう事。うーん、一応同調でも確認しておこうかな」

「そうだね。念には念を入れてお願いするよ」


 僕はイリュキンに見守られながら畑の地面に手を着いて同調する。……うん、やっぱり畑自体も植えられてる薬草も良い状態だ。ただ……薬草から伝わってくる感情が気になるな。僕が地面から手を離して大霊湖だいれいこの方を向くと、イリュキンが不思議そうに話しかけてきた。


「ヤート君、どうかした?」

「薬草達から大霊湖だいれいこの方に行ってほしいっていう感情が伝わってきた」

「薬草から?」

「うん。行ってみても良い?」

「私はかまわないよ」




 イリュキンといっしょに大霊湖だいれいこに隣接してる青の村の広場までやってきた。……作業してる人もいれば談笑してる人もいる。薬草達が伝えたいのは青の村についてじゃないのかな?


「……私には村の中は至って普通の光景に見えるのだが」

「僕もそう思うから大霊湖だいれいこの方に同調してみるよ」


 僕は大霊湖だいれいこに手を入れて同調する。もし、何かの異常が起きてるなら水草達が伝えてくれるはずだ……って、僕から聞くまでもなく水草達がある一点に意識を向けてすごく騒いでた。


「異常があった」

「なんだって!!」


 イリュキンの声に反応して周りにいたみんなが見てくるけど、僕は構わずに腰の小袋から種を取り出して足下に埋めて魔法を発動させる。


緑盛魔法グリーンカーペット超育成ハイグロウ樹根触腕ルートハンド


 僕の足もとから根が伸びていき大霊湖だいれいこの中に入っていく。…………よし、対象に上手くしっかりと根が巻き付いたけど、はかなりの重さに大きさで僕の魔法だけだと引き上げるのは厳しいな。でも、こういう時は迷わず頼れって、みんなに言われてるからそうしよう。


鬼熊オーガベアーー!! 破壊猪ハンマーボアーー!! ディグリーー!! 手伝ってーーーー!!!!」


 僕が叫んだら空に影がかかり広場に三体が落ちてきた。かなり広場の地面が陥没したけど今は気にしてる場合じゃない。


「ディグリ、僕が根を伸ばしてるところにディグリの根を伸ばした後に傷つけないように絡ませて」

「ワカリマシタ」

鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアは準備ができしだい根を二体の身体に絡ませるから、引っ張り上げるのを手伝って」

「ガア」

「ブオ」

「ヤート君!! 何が起きてるんだ!!」

大霊湖だいれいこの中層くらいに泳げなくて死にかけてるがいるから引っ張り上げる」

「は?」


 まさか生まれ変わってから前世で読んだ童話の大きなカブみたいな事をするとは思わなかったし、良い経験って言って良いのかもわからないけど助けてみせる。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューをお待ちしています。

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