王城にて 拳骨と治療

 目が覚めた。とりあえず身体の状態を確認する。……うん、そこまで重傷じゃないか。それにしても重要な内臓を避けるようにしたとは言え、さすがに自分の身体ごと貫くのはやり過ぎだったね。反省の前に腰の小袋から手製の薬草団子を取り出してさっさと治す。


緑盛魔法グリーンカーペット薬草団子ハイハーブボール


 よし、治った。……はあ、最後は足を引っ張ってたな。経験が足りないか。……もっといろんな事を考えとダメか。…………よし、反省終わり!! 僕が後始末を手伝おうと起きたらリンリーが慌てて近づいてきた。


「ヤ、ヤート君、起きて大丈夫ですか?」

「ケガは治したし他も確認してみたけど特に問題はなかった。リンリー、僕はどれくらい寝てた?」

「ほとんど時間は経ってないですよ」

「そっか、ハザランは?」

「えっと、ヤート君に刺されてから私に殴られて気絶したままみたいです。あ、でも、魔力封じはすでにされてます」

「それならもう面倒くさい事は起きないかな。それじゃあ後始末の手伝いしてくる」

「…………ヤート君、ラカムタさんが目が覚めたら話があるって言ってました」

「わかった。いっしょに行く?」

「うん、私も行きます」


 僕がラカムタさんを探しながら歩いていると、ハザランが召喚した骨の後始末に動いている衛兵やケガ人への対応をしている女中が僕を見てくる。ラカムタさんは……いた。サムゼンさんと王様と何か話し合ってるけど邪魔しちゃ悪いかな? まあ、ダメなら後にするよう言われるか。僕とリンリーが三人に近づいていったら、ラカムタさんがバッて僕達の方を振り向きシュンッて一瞬で僕の前に来るとゴンッて拳骨を僕の頭に落としてきた。


「…………痛い。えーと、ごめんなさい?」

「……拳骨を落とされた理由はわかってるようだな」

「一番確実な方法をとっただけ。ちゃんと危ないところは避けるようにしたしね」

「理由も状況もわかっている。だがな、自分の身体ごとは二度とやるな」

「必要なら確実に何度でもやるから約束できない」

「お前な……」

「ヤート殿、そこはできるだけ努力するで良いだろう。あとは我らの問題だからな」

「サムゼンさん?」

「今回、ヤート殿が身を削る事になったのは我ら王国のものが、満足な対処をできなかったからだ。次は確実に我らで解決してみせる」


 サムゼンさんの目が、すごいギラギラしてる。それにサムゼンさんの言葉を聞いた周りで作業している騎士、衛兵、女中なんかもギラギラしだした。なんかよくわからないけど、みんなやる気になってるらしい。そんなみんなを見て僕が首をかしげてたら、ガシッて両肩をつかまれる。見てみると兄さんが僕の右肩を姉さんが左肩をつかんでいた。……うん、二人とも怒ってるね。


「ラカムタさんにも言ったけど、ごめんなさい」

「ヤート……、同じ事すんなよ」

「約束できない」

「ヤート!!」

「変な言い方だけど、みんなだって僕と同じ状況だったら自分ごとやるでしょ? だから、また自分ごとやった方が良い状況なら確実にやる」

「「「「…………」」」」

「でも、痛いのは好きじゃないから、そういう状況にならないようにできるだけ避けるよ」

「……なら良い」

「うん、ところで、ハザランに操られていた人達は?」

「う、うむ、今はヤート殿の魔法で縛られたままになっている」

「だったら、さっさと治療と解放をするね」


 僕はそう言うと、ハザランに操られていた人達の方に歩いていく。兄さん・ラカムタさん・鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアにやられた人達は、結構な重傷なはずだから早くした方が良い。近づいていくとサムゼンさんの部下の騎士達に、鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアの二体がいた。どうやらこの二体は、万が一の事態に備えて警戒してくれていたようだ。本当に良い奴らだな。


「どんな感じ?」

「ガア」

「そう、兄さん達に倒されたままと」

「ブオ?」

「うん、問題ないように刺したし僕は大丈夫。傷の治療も終わってる」

「…………ガァ」

「ブオ、ブォォ」

「ごめん。気をつけるよ」


 鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアが優しく鼻先で僕の身体を触れてくる。この二体にも心配かけたみたい。…………はぁ、やっぱりやりきるなら最後までやりきらないとダメだね。油断はしてなかったしハザランの事はよく見てたけど、相手に上回られて窮地に陥ったら意味がない。次があるかわからないけど、次は絶対に上手く一気に押し切る。僕はそんな事を思いながら、二体の鼻を撫でていた。


「ねえ、この人達、僕が治療しても良い?」

「ああ、むしろこちらからお願いしたい。彼らを頼む」

「うん、わかった」


 まずは同調で一人ずつ状態を確認していくと、どの人にも複数箇所の骨折に内蔵損傷がある。……うん、この人達が普人族ふじんぞくだったら確実に死んでるくらいの重傷だ。僕は腰の小袋から薬草団子をまとめて取り出し水生魔法ワータを発動して、その発生させた水に薬草団子を全部に入れて溶かしていく。


緑盛魔法グリーンカーペット強薬水液ハイハーブリキット


 まずは内蔵損傷を治療するために、強薬水液ハイハーブリキットを気絶している人達が溺れないように少しずつ口から流し込んでいく。この 強薬水液ハイハーブリキットで自己治癒力の強化と体力の回復もできるから……よし、血色が戻ってきた。それじゃあ骨折の治療の準備をしよう。小袋からさらに小さい小袋を出して魔法を発動させる。


緑盛魔法グリーンカーペット深眠粉ディープスリープ


 この粉は誘眠草スリーピンググラスを乾燥させて粉にしたものだ。乾燥させる事でより麻酔効果が高くなっているから、骨接ぎなんかの痛みの伴う治療には欠かせない。深く眠った事を確認して骨接ぎだ。


「ヤート、こいつらの骨接ぎやるんだろ? 補助いるか?」

緑盛魔法グリーンカーペット超育成ハイグロウ樹根触腕ルートハンド。これで調整しながらやるから大丈夫」

「そうか」

「何かあれば言うのよ」

「ありがとう。兄さん、姉さん」


 まずは手足からだね。地面から生えた樹根触腕ルートハンドに、眠っている人達の手足の骨折している箇所や脱臼している関節を挟むように巻きついてもらう。そして同調で状態を確認しながら少しずつ引っ張って骨折や脱臼している関節を元の位置に戻していく。粉砕骨折している所は、樹根触腕ルートハンドに内部に入り込んでもらい砕けた骨片を取り出した後、直接内部の骨折してる部分に薬草団子ハイハーブボールを塗りこんで樹根触腕ルートハンドに完治するまで固定してもらう。同じように肋骨もズレたりしている箇所は戻し、粉砕している箇所は骨片を取り除き治療していく。そうして治療を進めていたら、僕にお姫様が話しかけてきた。


「ヤート様、このもの達は治りますか?」

普人族ふじんぞくと違って獣人族・鬼人族きじんぞくなんかは、元々身体が頑丈にできてるし生命力もあるから特に問題は無いよ」

「良かったです」

「ところでハザランに操られてたギメン達はどう?」

「それは……」

「攻撃した僕が言う事じゃないけど、できるだけ治療してほしい」

「もちろんだ。今回の件の全容解明に少しでも情報がほしいからな」

「お父様」


 王様がやってきた。一番上の人が解決に動いてるんだから、この国は良い国みたいだね。


「ヤート君だったかな。今回の事件解決について改めて礼を言わせてもらいたい。心より感謝する」

「僕らも関係者でしたし気にされなくて大丈夫です」

「普段の話し方で構わんよ」

「それなら、そうさせてもらう」


 なんか僕って敬語で話そうとしても普段通りで良いってよく言われる。


「この恩は必ず何かの形で返す」

「別にいらない……はダメ?」

「国を救ってもらったのだからな。国王としても一個人としても何かの形で報いさせてもらいたい」

「それじゃあ、そういうのはラカムタさんと話し合ってほしい」

「うむ、承知した」


 王様は僕の言葉を聞いてラカムタさんのところに向かっていった。なんとなくラカムタさんも、僕と同じで気にするなって言いそうだけど上手くまとまるのかな? まあ、僕が気にする事じゃないか。今はこの人達の治療に集中しないとね。ただ一つ気になるのは…………。


「ヤート君に何か用ですか? ヤート君は今、治療に集中しないといけないので邪魔しないでください」

「あら、邪魔はしてませんわ。私は何か少しでも手伝える事があれば、すぐに動けるようにヤート様のそばにいるの」

「あなたには治療の経験なんて無いはずです。なのでお姫様は王様といっしょにいれば良いと思います」

「「…………」」


 なんで僕の後ろで、リンリーとお姫様がにらみ合ってるんだろう?




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューもお待ちしています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る