王城にて 相性と決着

「また僕の魔法を、今度は黒帯浸食イローションバンドを破ってみせてよ」


 ハザランが魔法を唱えるとハザランの後ろの空間が波打ち、六本の黒い帯が蛇みたいに出てくる。そしてその黒い帯が触れた部分の芝や樹木が黒く変色してボロボロと崩れていく。なかなかエグい魔法だな。……それにしてもあれだけ軽薄な言動をしていたハザランが真剣な顔で僕に言ってくる。急に感じが変わったのは何でだろ? 何か僕の言動が気に障ったのかな?


「……なんで急に真面目な感じになったの?」

「君は一つの魔法を上達させるのに、どれだけの苦労があると思う?」

「ああ、なるほど、自分の魔法が破れてプライドが傷ついてるのか。……お前意外とズレてるね」

「…………どういう事かな?」

「お前の魔法は対象を操る事を主軸にしている。そんな後ろに下がってまともに戦わない奴が、自分で戦おうとしたところで負けるに決まってるよ。それにさっきから僕の事を操ろうともしてるみたいだけど、お前ごときに操られるほど僕は柔じゃない。身の程を知った方が良い」


 僕が言った言葉をハザランは一瞬理解できなかったみたいだけど、すぐに顔を真っ赤にして歪めた。


「ヤート殿も、ああいう物言いをするのか」

「ああ、俺達も割と最近気づいたんだが、ヤートは気にいらない奴には色んな意味で容赦しないな」

「ヤート様……」

「姫様、危ないですからお下がりください」

「顔を地面に打ち付けて赤くしているお前が言う事ではないぞ」

「……カッとなり申し訳ありません」

「良い。ただ、何が起きても良いように構えておけ。お前達もだ」

「はっ」

「わかってるわ。あなた」

「はい、お父様」


 うん、なんというか、良い感じの主従関係と親子関係だ。できるだけ素早く終わらせたいから攻めよう。あ、でも一応確認しておいた方が良いか。


「ねえ、王様、一つ聞きたい事があるんだけど」

「うむ、なんだ?」

「どのくらい派手にやって良い?」

「…………緊急事態とは言え、できる限り周りへの被害が無いように頼みたい」

「ふーん、やっぱり爆散花エクスプロージョンフラワーはダメか」

「ヤート、本当に派手な奴は使うなよ。お前のはシャレにならない」

「うん、わかった」


 僕が王様達と話してるのが気に入らないのか、射殺しそうな視線を僕に向けて黒帯浸食イローションバンドを放ってくる。……こいつ本当に戦い慣れてないんだな。


「ヤート君だったよね。僕の黒帯浸食イローションバンドは触れたものを全て腐らせる。当然君が魔法で操る植物でもね。…………しまった」

「うん、お前は普段操ってばかりで自分で戦わない奴だって事がこれで証明された。少しでも戦い慣れてるなら、一度、無効化された魔法と同じ属性の魔法は使わない」


 僕に向かってくる黒い帯は、僕の足下の聖月草ムーングラスの効果により僕に近づくほど灰になって効果を無くす。僕はさっき兄さんと姉さんに向けられた黒鎖呪縛ブラックチェーンを無効化したのに、違う魔法とは言え同じ属性の黒帯浸食イローションバンドが効果あるとなんで思うんだろう? まあ、でもこれならすぐに決着がつきそうだ。


「どんどん攻めさせてもらう。緑盛魔法グリーンカーペット超育成ハイグロウ聖月草ムーングラス


 僕は再び、聖月草ムーングラスを急速に成長させて白い光の領域を広げていく。自分の魔法が使える空間が小さくなっていってるわけだけど、まだハザランは手札があるのかな? 無いなら早く降参してほしいよ。


「僕は聖月草ムーングラスでお前の闇属性だろう魔法を無効化した。魔法使いはある種の対策を施されても大丈夫なように複数の属性を扱えるべきであるって僕が読んだ本には書いてあったけど、まだ手札はある? 無いなら詰みだよ」

「…………まだだ」

「ふーん、まだ諦めないって事は、何か手札はあるんだ」

「僕が使えるは闇属性のみで、君の聖月草ムーングラスとは相性が最悪だよ。でも、まだやりようはある。黒影門開放シャドウゲートオープン


 今度はハザランの足下の影が盛り上がりボコンと音を発して弾けると、再び無数の骸骨がはい出てくる。でも、さっきとは量が違う。さっきはハザランの周りで壁となる程度だったけど、今回はそれこそ庭を埋め尽くす勢いで出てきてハザランが見えなくなった。見たところ先頭の骸骨が歩いている芝に特に変化が無いという事は骸骨には腐食の効果は無いみたい。だったらさっさと対応しよう。


緑盛魔法グリーンカーペット超育成ハイグロウ百枝槍ブランチランス緑葉飛斬リーフスラッシュ


 僕は迫ってくる無数の骸骨を縛り付け・突き刺し・切り裂いていくけど、さすがに量が多くて僕の方だけじゃなくて兄さん達の方にも抜けていく。まあ、そんな奴は聖月草ムーングラスの効果で灰となるから問題ない。そうして少しすると骸骨の出てくる量が減って、呼吸が荒くなり顔色が悪くなったハザランが見えてきた。明らかに魔力の使いすぎだ。


「ずいぶんと無茶をしてるね。魔力の使いすぎで倒れそうになってる」

「……本当に倒れる寸前だよ。でも、君を倒してないから、まだ倒れられない。黒帯浸食イローションバンド!!」


 ハザランが叫ぶと僕の足下の地面から六本の黒い帯が突き出てきた。なるほど、僕達の視界を遮っている間にあの黒い帯に地中を進ませてたのか。大量の骸骨が迫ってくるから注意を引く物としては、これ以上ないね。


「これで終わりだ」

「甘いよ」

「は?」


 僕に直接巻き付こうとした黒い帯が瞬時に灰になる。それを見たハザランが唖然としていた。


「な、なんで、僕が足下を狙うって」

「兄さんと姉さんに後ろから奇襲した。だったら僕にも同じ事するだろうなって考えただけだよ。だから、お前に見えないように、僕の後ろの足下に聖月草ムーングラスをまとめて五つ生やした。これだけまとまって聖月草ムーングラスがあったら、どんなに距離が近くても闇属性は効果はない。残念だったね」

「あはは、まいったな。……うぁ」


 ハザランが、ふらつくと地面に手をついた。うん、一気にいこう。


鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボア、お願い」

「ガア!!」

「ブオ!!」


 二体が今まで溜め込んでいた力を開放するように突進していった。ハザランはとっさに骸骨を召喚するけど、力を溜めて勢いに乗った二体を止めるような障害にはならない。二体がハザランに、あと一秒で到達する。そして………………ハザランが消えた。二体は、ハザランがいた場所をそのまま通り過ぎていく。


「君が僕の奇襲を防いでくれるって信じてたよ」


 ハザランが僕の後ろにいた。しかも息も乱れたないし顔色も普通の状態だった。……そういう事か。


「あそこで倒れそうになっていたのは幻術か。それも僕達やあの二体を騙すほど高度な奴」

「その通り、あの骸骨は君の言った通り目隠しだよ。ただし、黒帯浸食イローションバンドを地面にやるだけじゃなく僕自身を幻と入れ替えるためのね。さて、これで今度は君が詰みだよ」


 ハザランが後ろから右手を僕の首に手を回し左手を僕の頭に置いた。直接僕を押さえ込むつもりみたいで、かなり力が強い。強化魔法パワーダも使えたのか。僕は完全にハザランの事を甘く見てたみたいだ。


「君は揺らがないし冷静だ。経験を積めばきっと強くなる。ただ、今は僕の方が上だったね」

「今回は僕じゃ勝てないか」

「そうだね。おっと、骨獣再臨ボーンゴーレム:ウルフモード。それと黒影門開放シャドウゲートオープン


 今まで僕が撃破してバラバラになって地面に散らばった骸骨が、カタカタと震えだし空中に浮かぶと次々と組み合わさって六体の巨大な骨で出来た狼になった。そしてズンと音を響かせ着地すると、兄さん・姉さん・ラカムタさん・鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボア・サムゼンさん達に向かっていき、さらに六体の骨の狼の足下から骸骨が無数にはい出てくる。


「いくら聖月草ムーングラスだったかな? それで灰にできるとは言ってもあの二体の魔獣と同じ大きさの骨の塊を瞬時に灰にできるわけじゃないだろう? これで十分時間を稼げる」

「確かに、あれだけの巨体だと難しいね」

「「「ヤート!!」」」

「ヤート殿!!! くそっ、どけ!!」

「ガアァ!!」

「ブオォ!!」


 兄さん達が本気で僕の方に来ようとしているけど、あの骨の狼は一度破壊されてもすぐに再生して、その再生速度も尋常じゃない。それと無数に出てくる骸骨も次々とみんなにつかみかかっている。


「みんな必死だね。君はずいぶん愛されているようだ。そんな君が、僕の人形になったらどんな顔をするんだろうね。ゾクゾクする。本当なら君を気絶させて転移して安全な場所で人形にしようと思ったけど、今ここで人形にしてあげるよ」


 イヤな感じのものが身体に入ってくる。手足が少しずつしびれてきた。麻痺とか毒とかそんなまともなものじゃないな。…………覚悟を決めよう。


「はあ、しょうがない」

「おや、諦めたのかい?」

「ちょっと無理そうだからね。……兄さん達より搦手からめてには対応できると思ってたんだけどな」

「言っただろう。君には経験がたりない」

「はあ」


 出来る事をするために、僕はしびれてきた右手を少しずつ動かしていく。それを見たハザランは面白くて仕方がないようだ。


「はは、何かする気かい? 身体はどんどん動かせなくなるし、君の魔力にも干渉しているから魔法は使えないよ」

「やれる事をやるだけだよ」

「それでどうにかなるのかい?」

「お前を楽しませる」

「あは、あははははは、君は本当に面白い」

「それは良かった。緑盛魔法グリーンカーペット超育成ハイグロウ樹根槍ルートランス

「魔法はつか……がはッ!!」

「一つ訂正しておくと魔力はいくら干渉しても完全に封じる事は無理だよ。そして僕の魔法は植物に協力してもらうものだから、そこまで魔力はいらない。こんな風に発動させるだけだったら、すぐにできる」


 僕は魔法を発動させて、自分ごとハザランを樹の根の槍で貫いた。都合よく足下にこの庭の樹木の根があった事は幸いだ。そして僕達の体内に入った根を大きく波打たせた。


「ゲハッ、グバッ」

「どう? 楽しんでる?」

「き、君は……」

「楽しめてないみたいだね。それじゃあ、終わりだ。リンリー、お願い」


 僕がつぶやくとハザランのすぐ後ろで魔力が爆発的に放出される。その発生源は当然、リンリー。どういうわけか、ハザランは途中からリンリーの事を意識から外していた。僕が妙な動きをしていたのもハザランの気を引くためだ。


「ヤート君を……離して!!!!」

「ウゴァ」


 全力で魔力で強化したリンリーがハザランの脇腹を殴り抜く。ハザランは反射的に強化魔法パワーダを全開にしたようだけど、さすがに無理だったみたいでボゴンという鈍い音とともに吹き飛んでいった。僕も樹根槍ルートランスを解除しなかったら根で繋がっていたため、一緒に吹き飛ぶところだった。危なかった。はあ、この後の後始末が大変だな。そんな事も思ったけど、身体を貫かせるのが痛かったからとりあえず眠ろう。リンリーの呼び声が聞こえる中で、意識が遠くなっていった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューもお待ちしています。

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