王城への旅にて 影と会話
あの気の毒な盗賊を倒して進む事半日で今日の野営場所へと暗くなる前に着いた。この野営場所は街道沿いにある広場で、町や村に到着できなかった商人や冒険者なんかが夜をやり過ごすために設けられている公的な場所だ。管理は王国から要請を受けた周辺領主が費用や見回りの人員を出し合っているらしい。まあ、ケチれば自分の評判も下がるし、治安が悪くなれば交易に支障が出るだろうから、どこも真剣に管理しているみたい。
それでだ。先に言った通り街道沿いの野営場所は、町や村に到着できなかった商人や冒険者なんかが夜をやり過ごすための場所で、王都へと向かう街道の野営場所のため僕達以外にも野営している先客がいた。あらかじめサムゼンさんの部下が混乱が起きないように一通り説明をしてたみたいだけど、
「ヤート、どうした? 何か気になるものがあるのか?」
「なんでもない。それより僕も野営の準備を手伝った方が良い?」
「いや、大丈夫だ。ヤートは休んでてくれ」
「わかった」
……ラカムタさんが離れていくと変な感じが強くなった。でも、僕の近くには兄さん、姉さん、リンリー、
僕はサムゼンさんの部下の人達が組み立ててくれたテント――なぜか僕専用らしい――に入って、ある魔法を発動させた。みんなが僕の入ったテントを囲んでくれてるけど念には念を入れておく。……こういう用心が無駄になったら良いんだけどね。
周りが寝静まったころ僕は目を覚ました。なんでかって言われたら説明できないけど、なんとなく違和感を感じたからだろう。僕が居るテントの周りには兄さんや姉さん達がいて警戒してくれているし、
……僕は今のところ誰かに夜襲をかけられるような恨みを買った覚えはないから、これではっきりした。どうやら誰か、もしくは誰か達は、僕に王城に来てほしくないみたいだね。そんな事を冷静に考えていると黒い人影が無音で寝台に近づいてくる。うん、僕が起きてる事はバレてないようだ。
「……許せ」
黒い人影が小さくささやくと、手に持っていた黒い短刀を振り下ろしてくる。……ふ~、本当に念には念を入れて普通に寝なくて良かった。僕はテントに入ってからすぐに、ある魔法を発動させていた。それは「
「こういう時はなんて言えば良いんだろうね? 初めまして? それとも、こんばんはかな? どう思う?」
「…………」
「襲ってきて無言はひどくない? 身体は
「……なぜ、わかった?」
「何の事?」
「なぜ、私が来る事がわかったかと聞いている。私は完全に気配を消していたはずだ」
「ああ、その事。別にあんたが来るってはっきりわかってたわけじゃない。この野営場所に着いた時から変な感じがしたから、念には念を入れてたらあんたが来た」
「……貴様は何なんだ? どういうつもりだ?」
黒い人影が本当に困惑した声で聞いてくる。そうだった。相手に何かを聞くなら自分から言わないとダメだったね。
「僕はこんな白い見た目だけど、黒の
「殺そうとしてきた相手に正気か?」
「いたって正気だよ。ただ、周りのみんなから変わってるとか精神的に図太いとか色々言われる」
「だろうな。殺されそうになって、平然としてられる貴様は間違いなく狂人だ」
「ひどい言われようだな。まあ良いけど、それであんたどうしたい?」
「…………」
「具体的に言った方が良いのかな?
「何?」
「殺そうとする相手に許せって言うような奴が、進んで暗殺業なんてやらないでしょ? たぶん、あんたは契約かなんかで縛られてるよね?」
「…………」
「そういった事は話せないのかな? まあ、それならそれで勝手に調べる」
僕が近づいていくと黒い人影はなんとか逃れようとしていたけど、一度相手を捕まえた
そんなわけで僕はあっさりと近づいて黒い人影の身体を触り同調して調べる。……うん、身体の魔力の流れが不自然だから縛られてるね。通常、魔力は身体を循環していて魔力が多いものや健康なものほど強く速く循環しているけど、この人は首の辺りで変に魔力が溜まっていて、さらにその魔力が溜まっているところで何かの魔法が発動していた。詳しく調べてみた感じだと、どうやらこの人の魔力を使ってこの人の身体を操る魔法が発動しているようだ。なかなかえげつない魔法だね。
「待て」
「何?」
「無駄な事はやめて私を殺せ。自分でできないなら仲間を呼べ」
「いやだ」
「なんだと」
「僕は本業じゃないけど薬師みたいな事もする。誰かを治す立場なのに誰かただ殺すなんてするわけがない」
「ならば仲間を呼べ」
「それも断る。みんな寝てるからね。起こしたくない」
「…………」
「
寝台の近くに置いていた小袋の一つから小さい塊を取り出し潰して金属の首輪にふりかけて、いつものように魔法を発動させると金属製の首輪を覆うように苔が生えていく。この苔は
「うぐぅ」
「首回りで動き回られるのは気持ち悪いだろうけど、少しの間我慢して」
「ぐぉぉぉぉ」
時間にして十分くらいかな。音にするならウジョリウジョリと僕の魔法でよく動く
「首輪外れたよ」
「……なんという不快な感触だ」
「このまま身体を操られてるより良いと思うけど?」
「……確かにな。感謝する。この借りは必ず返す」
「僕が首輪にイライラして勝手にやっただけ」
「それでは私の主義に反する」
「あんたは異常な状態から治ったばっかりだから、まずは健康体になって。借りとかそういうのはその内で良い」
「…………わかった」
了承の返事をもらったけど、ものすごく不満そうだ。本当に気にしなくて良いのに頑固な人だな。まあ、それはそれとして……。
「そろそろ僕は眠いから寝るよ」
「邪魔したな」
「気にしなくて良い。おやすみ」
「それではな」
「あ、ちょっと待って」
「なんだ?」
「忘れてた。あんた何て名前?」
「…………
「
「……最後まで奇妙な奴だ。良い夢を見ろ」
「ありがとう。おやすみ」
「ああ」
寝台に戻って、もう一度見るとそこに
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューなどもお待ちしています。
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