王城への旅にて 疑問とケンカ

 ……良い天気だな。ちょっと日差しが強いけど風もあるから旅をするには良い天気だ。例え今僕から少し離れたところで、王都へ続く街道に待ち伏せて僕達を襲ってきた盗賊の一団を鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボア黒曜馬オブシダンホース六足馬デミ・スレイプニル達が蹂躙じゅうりんしていて盗賊の叫び声が聞こえても良い天気だ。


 それとサムゼンさん達が、乗っていた自分達を振り落として盗賊に突撃して行った黒曜馬オブシダンホース六足馬デミ・スレイプニル達をなんとか止めようと必死になっていても良い天気だ。


 というか盗賊の人達はかなりの大人数だけど、なんで騎士・竜人族りゅうじんぞく・魔獣がいるこの集団を待ち伏せしてたんだろう? ……良い天気だな。


「今日も良い天気だな」

「ヤート、現実逃避してるところ悪いが、なんとかできるか?」

「……あの感じだと、すぐに終わると思うけど、なんとかしなきゃダメ?」

「まあな。さすがにサムゼン殿達の負担が大きすぎる」

「わかった。緑盛魔法グリーンカーペット刺激する赤シャープレッド


 僕は腰の小袋から赤い実を取り出すと、いつものように魔法をかけて赤い煙を発生させる。前にくらった事がある鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアは、すぐにまずいという事に気づきその場を離れようとしたけど今回も遅い。


 黒曜馬オブシダンホース六足馬デミ・スレイプニルを止めようとしていた騎士達を避けて赤い煙が魔獣と盗賊達を包む。赤い煙が晴れると、そこには口から泡を吹いて身体を痙攣けいれんさせる魔獣と盗賊達が地面に倒れていた。


「サムゼンさん達にケガはない?」

「あ、ああ、我らは大丈夫だ。……先ほどの赤い煙はヤート殿の魔法か?」

「そう、口から泡を吹いてしばらく動けなくなるくらいの、ものすごく辛い煙を発生させる魔法」

「魔馬達の治療を頼みたい」

「毒じゃないから別に治療は必要ない。しばらくしたら動けるようになるよ」

「ヤート、移動の時間が減るから今すぐ頼む」

「そういえばそうか、緑盛魔法グリーンカーペット鎮める青リリーブブルー


 今度は青い実から青い煙を発生させて魔獣達の口や鼻から入れていく。……よし、煙を全部入れて治療完了。あとは面倒くさい事を減らすために、起き上がってきた鬼熊オーガベア達に釘を刺さないと。


「ねえ……」

「ガッ、ガア?」

「ブオ?」

「「「「「「ブル?」」」」」」

「一応言っておくけど、次に面倒くさい騒ぎ起こしたら…………この程度じゃ済まさないよ」


 魔獣達がすごい勢いで首を振り始めた。これならもう面倒くさい事は起きないと思う。……サムゼンさんの部下が「魔馬が負けを認めるなんて」とか「我らの苦労はいったい……」って言ってるのは聞こえない。


 サムゼンさんに僕らを襲ってきた盗賊はどうするのか聞くと、僕の魔法で動けなくなっているから今は放置しておき、あとで別の部下が回収するように手配するって言われた。確かに荷車もないし、大人数を運ぶ方法がないから仕方ないか。


 でも、このまま道に盗賊を寝かせて置くわけにもいかないし、わざわざ一人ずつ道端に運ぶのも手間だから緑盛網プラントネットを発動させて植物に盗賊や盗賊の持ち物を街道沿いから外れたところに運んでもらい、ついでに盗賊全員を樹々にキツく縛り付けてもらう。一時間くらいで諸々の作業が終わり、僕が破壊猪ハンマーボアに乗ると王城への移動を再開した。……それにしてもあの盗賊が気になる。


「ねえ、ラカムタさん。はっきり言って魔獣の集団って言ってもおかしくないから襲うには絶対に不向きなのに、あの盗族はなんで僕達を狙ったのかな?」

「……自分達の方が人数が多かったからいけると思ったんじゃないか」

「先程の盗賊はレイヴン盗賊団というかなり有名な奴らだからな。ラカムタ殿の言う通りだろう」

「…………規模が小さかったり集団になったばっかりの奴らだったら、ラカムタさんとサムゼンさんの言う事もわかるんだけど、あいつら有名なんでしょ? それなら勢いだけじゃなくて、襲う相手を選ぶぐらいの慎重さもあると思うんだけどな……」

「ヤート」

「何? 姉さん」

「ガルみたいに考えなさすぎなのはダメだけど、考えすぎるのはヤートの悪い癖だって前にも言ったでしょ?」

「……マイネ」


 兄さんが低い声を出したら姉さんに殴りかかり姉さんがそれに応戦した。二人とも走りながらよくケンカできるな。しかもそのケンカが超接近戦で、お互いに顔や身体を狙いながら相手からの攻撃は残らず叩き落とすという無駄に高度なやり取りを手がブレるくらいの速さで僕達と並走しながらやってる。


 いきなり始まった事にサムゼンさん達が唖然としてて、ラカムタさんがため息をつく。……なんか考え込むのがバカらしくなる。なんとなく気を使われて話をそらされたような気もするから盗賊の事は置いとこう。それよりもこれからの事を、サムゼンさんに確認した方が良いか。


「サムゼンさん、王都に行くまでにいくつか町や村あるけど、鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアは近づいて大丈夫?」

「そのあたりは問題ない。大神林だいしんりんを訪れる前に別れた私の部下が王都までの町や村に待機していて、無用な混乱が起きないように根回しをしている」

「そうなんだ」

「ああ、それに町や村には寄るわけじゃなく事前にラカムタ殿と話し合った結果、移動を優先して本当に町や村の横を走り抜けるだけだから混乱が起きたとしてもごく小さなものだろう」

「それじゃあ、夜は野営? サムゼンさん達大丈夫?」


 僕が心配を口にするとサムゼンさんは自信満々に部下の人達を見回して笑った。


「フッ、ヤート殿、我ら騎士も遠征や訓練で野営には慣れている。森や山の中ではさすがに難しいところもあるが、街道沿いの休憩場ならば問題ない。すでに今日の野営予定場所には、町や村と同様に部下を待機させている」

「わかった。協力できるところは協力するから遠慮なく言ってね」

「ふむ」

「どうかした?」

「いや、ヤート殿がいるのは心強いと思ってな」

「どういう意味?」

「遠征で何に気を使うかと言えば、体調管理や食料の確保だ。しかし、ヤート殿がいればそれらの問題は解決する」

「そういう事か。確かに後方支援には自信があるよ。でも、全部に対応できるわけじゃないから過度に期待はしないでほしいかな」

「それはもちろんだ。何事も自己管理と事前準備が基本だ」


 さて、さっきの盗賊はたまたまかな? それとも……? まあ、王都に着くまでにどんな事が起きるかで、ある程度は判断できるか。



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◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューなどもお待ちしています。

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