黒の村にて 諦めと相談

 次の日、すぐに昨日あった事を鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアに伝えた。


「村のみんなからは最奥に行っても良いって言われたけど、あっちがどう出てくるかわからないから今すぐ行くのは無理」

「ガア」

「ブオ」

「はぁ、お前らとしばらく離れる事になるから行きたくない」

「……ガァ?」

「……ブォ?」

「えっ?」

「ガアァ?」

「ブオォ?」

「えっと、いっしょに来てくれるのはうれしいけど、大神林だいしんりんから出て普人族ふじんぞくの住むところに行く事になるんだよ?」

「ガァ」

「ブォ」

「……ありがとう。食料は僕が用意するから」


 二体に気にするなって言われた。面倒くさい事が起きるかもしれないのに、いっしょに行ってくれるとか本当に良い奴らだ。食料以外にもこの二体のために準備できる事はやっておこう。


「それじゃあ向こうから何か話が来たら言うね」

「ガ」

「ブ」

「……ガア?」

「リンリー? リンリーは行かない」


 鬼熊オーガベアにリンリーの事を聞かれた。やっぱり気を使われてるみたいだね。


「ブオ?」

「なんでって言われても、僕と兄さんと姉さんと大人の一人が王城に行く事になってるからだね。それに今になって思ったけど、お前らと僕だけでササッと行って帰ってきた方がいろいろ面倒くさくないと思う」

「……ガ」

「……ブオ、ブオ」


 また二体が相談し始めた。今度は前の時より小声だから聞き取れない。ただ、相談しながらも僕の方をチラチラ見てくるから、僕について相談してるみたいだけど僕は何か変な事を言ったかな? 僕が自分の言動を思い返していると二体が話しかけてきた。


「ガアァ」

「リンリーを誘えって、なんで?」

「ブオォ」

「二人いっしょの方が良いって、さっきも話したけど今のところお前ら二体に兄さんや姉さんに大人も行くから、散歩の時と違って二人っきりってわけじゃない。それに面倒くさい事になるかもしれない場所へ行くのに誘われても迷惑なだけだよ」

「……ガァ」

「……ブォ」


 あっ、なんかお前は何もわかってないって感じの大きいため息つかれた。……そんなため息つかれる覚えは無いんだけどな。いきなりため息をつかれて、少しイラっとしている僕を落ち着かせるように二体は話を続ける。


「ガァア?」

「別にリンリーといっしょにいるのはイヤじゃない」

「ブオ、ブオオ?」

「確かにリンリーに迷惑かどうかは聞いていないけど……」

「ガァ」

「……わかった。なんでお前らがそんなにリンリーを誘うべきって言うのかわからないけどリンリーに聞いてみる」

「ブオ」

「えっ、まだお昼過ぎたぐらいなのに、もう帰るの?」

「ガ、ガア」

「なるほど、確かに誘うならリンリーにも予定があるだろうし早い方が良いか」

「ブ、ブブオ」

「それも言ってみるよ」


 僕がリンリーを誘うと決めたところで、二体が互いに顔を見合ってうなずきあう。普段口ゲンカが耐えないのに、妙に連携が取れてるのは不思議だ。こういうのをケンカ仲間って言うのかな。そういえば兄さんと姉さんの関係に似てるか。兄さんと姉さんも、よく口ゲンカをしてるし周りが引くぐらい本気のケンカもする。でも、狩りなんかではすごく息が合っているらしい。


「お前らって仲良いよね」

「…………ガア」

「…………ブオ」

「どこがって、普段よく口ゲンカしてるのに協力する時は冷静に話し合ってるよね? 本当に仲が悪いなら話し合いもできないと思う」

「「…………」」


 僕が思った事を言うと二体は苦虫を噛み潰したような顔になった。自覚はあるみたい。その後は村の近くに行くまでは無言だったけど、二体は並んで進みながらもにらみ合っていた。……やっぱり仲は悪いのかな?




 村の近くまで行き二体と別れてから門に着いたら、門番のネリダさんから交流会に行ってたみんなが戻ってきた事を教えてもらった。そういえばいつごろ帰るのか全く聞いてなかった。広場に集まっていると聞いて、さっそくあいさつしに行く。村の中を進んでいると昨日よりも活気にあふれてる感じだ。やっぱり村の人口が増えてるのもそうだし、交流会に行ってたみんなが無事に帰ってきた事で村に残ってたみんなもうれしいから気分も上がるよね。そうこうする内に僕は広場に着く。ラカムタさんはと……いた。


「ラカムタさん、みんな、お帰りなさい」

「おう、今帰ったぞ。ヤート、また、面倒くさい事になりそうだな」

「聞いたんだ」

「まあな、それでだお前が王城に行く時の付き添いは俺になったからな」

「ラカムタさんは交流会から帰ってきたばっかりなんだから、ゆっくり休んでてよ。兄さんと姉さんに大人の人と鬼熊オーガベアと破壊猪(ハンマーボア)がいっしょに行ってくれる事になってるけど、面倒くさいから僕と二体だけで、ササっと行って帰ってこようかなって思ってる。その方がみんなも楽でしょ?」

「だめだぞ」

「だめに決まってるでしょ」

「だめだ」

「だめよ」

「だめです」

「だめだのう」

「だめだな」


 その場にいた全員から、はっきりと反対された。


「ヤート、なんでそんな事言うんだ?」

「僕がお姫様を治療したのが原因だから、わざわざみんなが巻き込まれなくて良いかなって」

「「「「「「……はぁ」」」」」」


 あっ、みんなからもため息つかれた。なんで? 疑問に思っているとラカムタさんが僕の頭に手を置いてきた。


「まったくガキが余計な気を使うな。赤の村に比べれば王城に行くのなんか近いもんだ。あとな俺達は余裕を持って移動してるから疲れなんかない」

「でも……」

「それじゃあ、こう聞けば良いか? 俺達と行くのとあの二体とササッと行くのと、どっちが安全だ?」

「それは何かあった時に交渉とかしてくれるラカムタさんとかみんなと行く方」

「だったらそれで良いだろ?」

「それはそうなんだけど」

「それにだ、もしお前とあの二体だけで行かせて、万が一何かあったらいっしょに行かなかった自分達を許せなくなる。だから俺達のためにも、いっしょに行かせてくれ」

「……わかった。よろしくお願いします」

「お前は考えすぎるぞ。俺達と行く気楽な旅だとでも思ってろ」


 なんとなく丸め込まれた気がしないでもないけど、まあ良いか。ただ頭をグリグリするのはやめてほしい。力が強いから頭がもげる。


「あっ、ラカムタさん、一つ聞きたいんだけど王城に行く人数ってもう確定してる?」

「向こうの出方次第なところもあるから決まってはないぞ」

「そっか……」


 ラカムタさんの言葉を聞いてリンリーの方に近づいていくと、みんながどうするのか注目してくる。リンリーは僕が近くに行くにつれてオロオロしだしたけど、僕は気にせずリンリーの目の前に立って話しかけた。


「リンリー、一つ聞いて良い?」

「な、何ですか!?」

「何か屋内作業とかで外せない予定とかある?」

「い、いえ、特にはないです!!」

「そう、それじゃあ……、王城にいっしょに行かない?」

「ふえ!!!」

「面倒くさい事になるかもしれないから誘うのもどうかなって思ったんだけど、できたらいっしょに行きたいなって思ってる」

「えっと、そのですね、あの」


 うん、やっぱり何というか表情豊かだね。僕にないもの持ってるリンリーと、いっしょにいれたら良い旅になりそうな気がする。


「突然だし返事は今じゃなくて良いから」

「わ、私もいっしょに行きたいです!!!」

「……良いの?」

「はい!!!!」

「それじゃあ、いっしょに行こう」


 突然のヤートの行動にその場にいたもの達の心にあるのは、ただ一つだった。


「「「「「ヤートが自分から誘った!!!!!」」」」」



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◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューなどもお待ちしています。

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